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変形性膝関節症に対するTKAの適応と侵入方向・侵襲筋の関係

疾患別
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変形性膝関節症(OA)は、高齢者を中心に多く見られる疾患で、膝関節の痛みや機能制限が生活の質に大きな影響を与えます。症状が進行すると、膝関節全置換術(TKA)が適応となり、痛みの軽減や機能改善が期待されますが、その適応や手術方法には個々の患者に応じた考慮が必要です。本記事では、TKA手術の適応における侵入方向侵襲筋の影響について解説します。特に、手術による筋肉への影響とその後のリハビリテーションについても触れ、理学療法士としての視点からも役立つ情報を提供します。

  1. 🌎統計
  2. 🦵原因|TKA(人工膝関節全置換術)の適応となる主な疾患・骨折
    1. ✅変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)
    2. ✅関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)
    3. ✅特発性骨壊死(Spontaneous Osteonecrosis of the Knee:SONK)
    4. ✅骨折後の後遺症(大腿骨顆部骨折、脛骨プラトー骨折)
    5. ✅その他の適応疾患・病態
    6. ✅TKAが選択されやすい背景因子
  3. 🦵解剖学|TKAに関連する膝関節の構造と変化
    1. ✅膝関節の基本構造(正常時)
    2. ✅加齢・病的変化による構造変化
    3. ✅TKAにおける重要構造:侵襲と保存の判断ポイント
    4. ✅変形性膝関節症における軸アライメントの変化
  4. 🦵手術適応|TKAが必要とされる症状・評価のポイント
    1. ✅ TKAの主な適応基準(厚労省・日本整形外科学会などの見解をもとに)
    2. 🔎 代表的な評価スケール(TKAの判断に用いられる)
    3. ⚠️ 保存療法で効果が見られない例
    4. ✅ TKA適応を示す典型的な臨床像
    5. ✅TKA適応のまとめ
  5. 🦵手術の種類|TKAの術式と侵入方向・人工関節の分類
    1. ① 術式による分類(関節の置換範囲)
    2. ② 侵入方向と侵襲筋(術中に切開・保存される筋)
      1. 【代表的な術式と侵襲筋】
      2. 📊 術式ごとの筋損傷と術後回復への影響
    3. ③ 人工関節のタイプ(固定方式・十字靭帯保存の有無)
    4. 🔑 術式の選択は個別に行われる
    5. ✅手術の種類まとめ
  6. 🦵疾患や手術によって筋力低下しやすい筋肉
    1. ✅主に筋力低下しやすい筋群
    2. 🧠 特に重要な「内側広筋」の機能と弱化
    3. 🔍 術前から始める「Pre-habilitation(術前リハ)」の重要性
  7. 🦵動作への影響:TKA術後の筋力低下がもたらす日常動作障害
    1. 🚶歩行への影響
    2. 🦵立ち上がり動作への影響
    3. 🚶階段昇降動作への影響
      1. ✅昇段時の困難
      2. ✅降段時の困難
  8. 🚶理学療法評価:TKA術後に必要な評価項目とその目的
    1. ✅評価の目的
    2. ✅主要な評価項目と使用スケール
    3. ✅特に重要な評価:Quadriceps Lag(大腿四頭筋ラグ)
    4. ✅観察ポイントと理学療法士の視点
  9. 🚶理学療法治療:TKA術後に必要なリハビリ内容と目的
    1. ✅術後のリハビリ経過と段階的目標(例)
    2. ✅主要な訓練内容と目的
      1. ① 関節可動域訓練(ROM-ex)
      2. ② 筋力増強訓練(筋トレ)
      3. ③ 動作訓練(起立・歩行・階段など)
      4. ④ 疼痛と腫脹への対応(物理療法併用)
      5. ⑤ 認知・心理的サポート
    3. 📌退院前の評価と指導
  10. 💡物理療法:TKA術後における疼痛管理と機能回復のための補助療法
    1. 💡TKA術後に使用される主な物理療法
    2. 💡物理療法の意義とそのエビデンス
      1. ✅ 1. 疼痛の緩和とリハビリの促進
      2. ✅ 2. 筋出力の維持・改善
      3. ✅ 3. 柔軟性の改善と瘢痕対策
    3. 💡実際の使用例と注意点
    4. 💡患者教育も重要
  11. 🏃ホームエクササイズ:TKA術後に自宅で行うべきリハビリ内容とその目的
    1. ✅ホームエクササイズの目的
    2. ✅実施の目安
    3. ✅おすすめのホームエクササイズ例
    4. ✅クアドセッティングの実施例
    5. ✅患者さんへの伝え方
  12. 📚国家試験対策:TKA(人工膝関節全置換術)に関連する重要ポイント
    1. ✅出題されやすい知識
    2. ✅国家試験によく出る過去問例(抜粋)
    3. ✅おすすめの覚え方
  13. 💡Q&A
    1. Q1. TKA後に正座はできるようになりますか?
    2. Q2. TKA後は何日くらいで歩けるようになりますか?
    3. Q3. 人工関節は一生使えますか?
    4. Q4. 術後にスポーツや旅行はできますか?
  14. 📚最新ガイドラインに基づくTKAの治療方針(2020年代以降)
    1. ✅日本整形外科学会(JOA)および日本関節病学会の見解
    2. ✅米国AAOS(American Academy of Orthopaedic Surgeons)の推奨事項(2021)
    3. ✅欧州EULAR(European League Against Rheumatism)の声明(2022)
    4. ✅日本の診療ガイドライン改訂ポイント(2023)
    5. ✅ガイドラインからわかる重要ポイント
  15. 📚書籍紹介
  16. 💡まとめ
  17. 💡さいごに(注意事項)
  18. 📚参考文献

🌎統計

変形性膝関節症は、全世界で急速に増加している疾患で、特に高齢者においては頻繁に見られます。日本でも、膝関節置換術(TKA)は年々増加しており、2019年の統計によると、日本におけるTKA手術件数は年間約15万人にのぼり、年々その数は増加傾向にあります(厚生労働省, 2019)。膝関節痛の原因として最も多いのは変形性膝関節症であり、特に高齢化社会が進む中、今後さらに増加することが予想されています。TKAの適応は、患者の年齢や症状の進行度、生活の質を基に慎重に決定されるべきです。

🦵原因|TKA(人工膝関節全置換術)の適応となる主な疾患・骨折

TKA(Total Knee Arthroplasty:人工膝関節全置換術)が適応されるケースの多くは、保存療法では十分な症状の改善が得られない重度の膝関節障害です。ここでは、TKAの手術適応となる代表的な疾患や外傷について解説します。

✅変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)

TKAの最も多い適応疾患は、中等度から高度の変形性膝関節症です。以下のような特徴を持つ患者がTKAの対象となることが多くなります。

  • 好発年齢: 50歳以上の中高年〜高齢者に多く、特に70代にピーク
  • 病態: 関節軟骨の摩耗、骨棘形成、骨の変形、関節裂隙の狭小化、滑膜炎の併発など
  • 症状: 歩行困難、階段昇降障害、持続的な膝痛、夜間痛、可動域制限

保存療法(薬物療法、装具、運動療法)に反応せず、生活の質(QOL)を著しく低下させている場合には、TKAが検討されます。

※厚生労働省の統計(2020年)では、TKAのうち約80%以上が変形性膝関節症を適応疾患として実施されていると報告されています。


✅関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)

慢性炎症性疾患である関節リウマチは、関節の滑膜に炎症を起こし、最終的に関節破壊と変形を引き起こします。膝関節も侵されることが多く、以下の条件を満たす場合にTKAが選択肢となります。

  • 抗リウマチ薬や生物学的製剤でコントロール困難な場合
  • 破壊が進行し、著しい可動域制限や強い痛みがある場合
  • 歩行機能やADL(日常生活動作)が制限されている場合

RA患者では骨質が脆弱なことが多く、術後のリハビリ計画にも個別性が求められます。


✅特発性骨壊死(Spontaneous Osteonecrosis of the Knee:SONK)

特に内側大腿顆に発症しやすい疾患で、突然の膝痛が初発症状となります。以下のような患者がTKAの対象となります。

  • 60歳以上の女性に多い
  • 骨壊死による関節面の陥没や変形が進行した場合
  • UKA(片側人工膝関節置換術)で対応困難な進行例ではTKAを選択

UKAとTKAの違いについては👉『変形性膝関節症に対するUKAとTKAの違いとは?侵入方向と侵襲筋から徹底解説』で詳しく解説🦵


✅骨折後の後遺症(大腿骨顆部骨折、脛骨プラトー骨折)

外傷によって関節内骨折が生じた場合、適切な整復・固定を行っても、関節面の不整や変形が残存しやすく、二次的に変形性膝関節症へと進行することがあります。以下のようなケースがTKAの対象となります。

  • 関節面の変形により荷重時痛が残存
  • 骨癒合後に膝関節の可動域が大幅に制限
  • 高齢者で再手術(骨切りや再固定)が困難な場合

✅その他の適応疾患・病態

疾患名特徴TKA適応のタイミング
術後感染後の変形化膿性関節炎などによる骨破壊関節破壊が進行し、機能障害が残るとき
外傷性関節症膝周囲の外傷後に発症する関節変形可動域制限と痛みが生活を妨げる場合
内軟骨腫症などの腫瘍性病変稀なケースだが軟骨性腫瘍の後遺症関節面破壊が顕著なとき

✅TKAが選択されやすい背景因子

  • 長年の体重過多やO脚による関節へのメカニカルストレス
  • 高齢による関節軟骨の自然な劣化
  • 加齢・閉経後のホルモン変化による骨質低下
  • 既往の膝外傷や手術歴

🦵解剖学|TKAに関連する膝関節の構造と変化

TKA(人工膝関節全置換術)を正しく理解するには、膝関節の正常な解剖構造と、変形性関節症などでの変化をしっかり押さえることが重要です。

✅膝関節の基本構造(正常時)

膝関節は人体最大の関節で、3つの骨複数の靭帯・軟骨・半月板などから構成されます。

構成要素解説
大腿骨(Femur)太ももの骨。下端が膨らんでおり、内側顆・外側顆と呼ばれる
脛骨(Tibia)すねの骨。上端には関節面(脛骨プラトー)があり、体重を支える
膝蓋骨(Patella)いわゆる膝のお皿。大腿四頭筋の力を効率的に伝達する滑車としての役割
関節軟骨骨の端にあり、衝撃吸収・滑走性の確保に重要
半月板(内・外)関節間にある軟骨組織。荷重分散と安定化に関与
靭帯(ACL・PCL・MCL・LCL)関節の安定性維持を担う(特にACL・PCLの保持がTKAに影響)

✅加齢・病的変化による構造変化

加齢や病変が進行すると、膝関節には以下のような解剖学的変化が生じます。

変化部位病的変化の内容
関節軟骨摩耗・欠損 → 骨同士が直接接触し痛みを生じる
骨端骨棘形成(osteophyte)・骨硬化・脛骨プラトーの沈下
半月板摩耗・断裂・変性によるクッション機能の低下
靭帯変性や緩み → 関節の不安定性
関節包・滑膜炎症・滑液の増加・拘縮により可動域が制限される

✅TKAにおける重要構造:侵襲と保存の判断ポイント

TKAでは、以下の部位が手術操作の中で保存されるか・切除されるかが大きなテーマとなります。

組織保存 or 切除解説
前十字靭帯(ACL)通常は切除されるTKAでは安定性を人工関節で補うため不要とされる
後十字靭帯(PCL)ケースにより保存 or 切除PCL保持型 vs 後十字靭帯置換型で選択される
半月板切除される摩耗が進行しているため除去し人工インサートに置換
膝蓋骨温存 or 置換痛みや損耗の程度により判断。再置換例では重要

✅変形性膝関節症における軸アライメントの変化

タイプ特徴外見的特徴
O脚(内反膝)内側関節裂隙が狭小化する多くのOA患者がこのタイプ
X脚(外反膝)外側の関節裂隙が狭くなるRAや外傷後変形で見られることがある

軸の異常はTKA手術設計時の骨切りガイドに直接影響するため、術前評価で非常に重要です。

このように、正常構造の理解と病的変化の把握が、TKAにおける評価・術式選択・術後のリハビリ方針決定にも密接に関わっています。

🦵手術適応|TKAが必要とされる症状・評価のポイント

TKA(Total Knee Arthroplasty)は**保存療法(運動療法・装具・薬物治療など)で十分な改善が得られない重度の変形性膝関節症(OA)**に対して適応されます。


✅ TKAの主な適応基準(厚労省・日本整形外科学会などの見解をもとに)

適応要素内容
痛み日常生活に支障をきたす強い疼痛が持続している(安静時や夜間にも)
関節可動域制限(ROM制限)屈曲が90°未満、伸展が-10°以上など、著明な可動域制限
歩行障害・ADL低下100m以上の歩行が困難、階段昇降が不可能、杖なしでの移動が困難など
X線所見による関節破壊Kellgren-Lawrence分類でグレード3以上、内側関節裂隙の消失、骨棘・骨硬化
保存療法の無効6ヶ月以上の保存的リハビリ・内服・装具療法にもかかわらず改善なし
変形の進行O脚やX脚が進行し、荷重バランスが破綻している場合

🔎 代表的な評価スケール(TKAの判断に用いられる)

評価指標内容適応目安
JOAスコア(日本整形外科学会 膝関節評価基準)歩行・階段昇降・関節可動域・腫脹などを評価60点未満はTKAを検討
WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)疼痛・硬直・ADLの困難度を数値化高スコアほど重症
KSS(Knee Society Score)医師による膝の安定性・可動域・疼痛の評価外国では保険適用の基準としても用いられる

⚠️ 保存療法で効果が見られない例

以下のような場合、保存療法だけでは機能回復が難しいとされ、TKAの適応が検討されます。

  • ヒアルロン酸注射に反応しなくなった
  • 杖・歩行器なしでの歩行が困難
  • ナイトペイン(夜間痛)が持続
  • 関節水腫が繰り返し出現
  • リハビリを継続しても可動域や痛みが改善しない

✅ TKA適応を示す典型的な臨床像

以下のようなケースでは、TKAが有効な選択肢となります。

例1|高度なO脚変形で立位・歩行困難な70代女性
→ 内側関節裂隙が完全に消失、ヒアルロン酸注射も効果なし、日常生活が制限される

例2|ナイトペインが強く、夜も眠れない60代男性
→ X線でK-L grade 4、鎮痛剤の長期使用でも効果薄、日中の活動性低下

✅TKA適応のまとめ

  • 疼痛・可動域制限・歩行障害が主な指標
  • **画像所見や機能評価スコア(JOA・WOMACなど)**で客観評価
  • 保存療法での改善がなければ、生活の質(QOL)を保つためにTKAが必要

🦵手術の種類|TKAの術式と侵入方向・人工関節の分類

TKA(人工膝関節全置換術)は、関節の変形と機能障害の重症度に応じて術式や侵入方法、人工関節の種類が選択されます。これらの選択は術後の機能予後や筋力低下、可動域制限、転倒リスクなどに大きく関与するため、理解が重要です。


① 術式による分類(関節の置換範囲)

術式特徴適応
TKA(Total Knee Arthroplasty)大腿骨・脛骨・膝蓋骨の全置換変形が広範囲に及ぶOA(K-L Grade3〜4)
UKA(Unicompartmental Knee Arthroplasty)内側または外側のみを置換一部の軽度OA、活動性の高い若年〜中年層

※今回の記事のメインは **TKA(全置換術)**です。


② 侵入方向と侵襲筋(術中に切開・保存される筋)

TKAでは皮膚切開と関節包・筋の展開方法によって複数のアプローチが存在します。

【代表的な術式と侵襲筋】

アプローチ法切開方向侵襲される筋・組織備考
正中切開+内側進入法(最も一般的)膝蓋骨を含む縦切開内側広筋の腱膜、関節包関節展開がしやすいが、大腿四頭筋への影響大
外側進入法(valgus膝に選択)外側皮膚切開外側広筋・腸脛靭帯の一部関節外反変形(X脚)に有効だが、難易度高
筋間進入(Subvastus法・Midvastus法)筋の裂隙を進入筋肉の切離が少ない筋力低下が少なく、術後の機能回復が良好とされる

📊 術式ごとの筋損傷と術後回復への影響

術式筋損傷量術後の筋力低下痛みの軽減機能回復速度
内側進入法中〜多普通
Subvastus法早い
外側進入法やや遅い

🔍 近年では「筋温存手術(muscle-sparing technique)」が注目されており、術後リハビリの早期化にも寄与しています。


③ 人工関節のタイプ(固定方式・十字靭帯保存の有無)

人工関節の設計には複数のバリエーションがあり、患者の年齢・活動性・骨の状態・靭帯機能に応じて選択されます。

タイプ後十字靭帯特徴
CR型(Cruciate Retaining)保存自然な膝運動が残るが、PCLの機能保持が必要
PS型(Posterior Stabilized)切除PCLがない代わりに、機械的構造で安定性を確保
モバイルベアリング型(LCS型)可動性インサート高度な安定性と可動性が特徴、脱臼リスクもある
固定型(Fixed Bearing)固定一般的で耐久性が高い、骨欠損の多い高齢者向け

🔑 術式の選択は個別に行われる

  • 高齢者ではPS型や固定型が多く選択される傾向
  • 活動性の高い患者やPCLが健全な場合にはCR型も検討
  • 関節の不安定性がある場合は可動型(LCS型)や制動性の高いデザインを選択

✅手術の種類まとめ

  • アプローチ法・侵襲筋・人工関節の種類は、術後機能に直結
  • 筋温存アプローチは術後回復を早める可能性あり(Subvastus法など)
  • PS型・CR型・固定型・モバイル型などは適応を見て選択される

🦵疾患や手術によって筋力低下しやすい筋肉

TKA(人工膝関節全置換術)後には、術前の痛みによる不活動や関節拘縮、術後の筋損傷・安静などの影響で、特定の筋群が著しく弱化します。
この筋力低下は歩行能力やバランス能力、転倒リスク、ADL自立度に大きく関与します。


✅主に筋力低下しやすい筋群

筋肉名主な作用弱化の要因臨床的影響
大腿四頭筋(特に内側広筋)膝伸展術中の侵襲(内側進入法)・術後安静歩行時の膝折れ、立ち上がり困難
ハムストリングス膝屈曲・股伸展手術に伴う活動低下ステップ幅縮小、体幹の不安定性
下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)足関節底屈歩行時の負荷減少・活動性低下立位時の姿勢保持困難、バランス低下
中殿筋股外転歩行の変化による代償的負担トレンデレンブルグ歩行、転倒リスク増大

🧠 特に重要な「内側広筋」の機能と弱化

  • 内側広筋(VMO)はTKA術後最も早期に萎縮しやすい筋肉として知られています。
  • 膝関節の安定性に重要であり、膝折れ(giving way)現象や再転倒のリスクに直結します。
  • 早期からの**収縮訓練や神経再教育(NMES)**が必要です。

内側広筋(VMO)は膝蓋骨の内側を支える重要な筋で、TKA後の膝蓋骨追従性伸展制御に不可欠です。

🔍 術前から始める「Pre-habilitation(術前リハ)」の重要性

  • 近年では、術前からの筋力トレーニング(特に大腿四頭筋強化)が推奨されています。
  • 早期の筋力低下を最小限にし、術後の回復スピードを加速させるためです。

TKA後は大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力低下が最も顕著

筋力低下=ADL障害・歩行障害・転倒リスク増大に直結

術前リハ(Pre-hab)や術後の早期筋力強化訓練が回復の鍵

🦵動作への影響:TKA術後の筋力低下がもたらす日常動作障害

TKA(人工膝関節全置換術)後には、主に大腿四頭筋(特に内側広筋)や中殿筋の筋力低下が顕著に見られます。これにより、日常動作の多くに機能障害が生じ、QOLの低下につながる可能性があります。

以下では、代表的な日常動作における具体的な影響とその背景を解説します。


🚶歩行への影響

要素術後の変化原因筋・要因臨床的意義
立脚初期(Heel Strike)膝折れのリスク増加大腿四頭筋(内側広筋)の弱化膝関節の制御不良による転倒
立脚中期(Midstance)膝の過伸展や膝折れ大腿四頭筋の筋出力不足膝の安定保持困難
遊脚期(Swing Phase)足の引き上げ不全ハムストリングスの協調性低下つまずきのリスク増加
荷重移行時歩隔の狭小化・左右非対称性中殿筋の筋力低下トレンデレンブルグ徴候の出現

🦵立ち上がり動作への影響

問題点説明
膝伸展不足座位から立ち上がる際、十分な膝伸展ができず前傾姿勢に頼る。
→ 大腿四頭筋(特にVMO)の機能不全。
代償動作の出現腰部や上肢に負担が集中し、手すりや杖の依存度が上がる。
再着座困難コントロール不足により、勢いで座り込むことがある。

🚶階段昇降動作への影響

✅昇段時の困難

  • 膝伸展・股関節伸展力の不足により、患側を先に出すことが難しくなり、「健側から上る」昇段パターンになる。
  • 代償的な体幹前傾姿勢や手すりの使用頻度が増える。

✅降段時の困難

  • 患側での減速制御が困難で、着地衝撃を十分に吸収できず膝関節へ痛みや恐怖感が生じる。
  • 結果的に、「健側から降りる」降段パターンとなる。
動作主な影響関連筋群
歩行膝折れ、歩行の非対称性、すり足傾向大腿四頭筋、中殿筋、ハムストリングス
立ち上がり体幹前傾、膝伸展不足、勢いに頼る大腿四頭筋、腸腰筋
階段昇降一段ずつの昇降、手すり依存、恐怖感大腿四頭筋、中殿筋、下腿三頭筋

🚶理学療法評価:TKA術後に必要な評価項目とその目的

TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリテーションでは、術後早期から適切な評価を実施することが極めて重要です。評価は、術後の可動域・筋力・疼痛・機能レベル・歩行能力など多岐にわたります。これにより、治療計画の立案、効果判定、再発防止の戦略を練ることができます。

✅評価の目的

  • 術後の経過を客観的に記録・分析
  • 可動域や筋力の改善目標の設定
  • 疼痛や機能障害の把握と介入判断
  • 退院・社会復帰に向けたADL能力の評価
  • 医師・多職種との情報共有

✅主要な評価項目と使用スケール

評価項目具体的内容評価スケール・方法意義
関節可動域(ROM)膝関節屈曲・伸展ゴニオメーター計測
(例:屈曲120°以上が日常生活で必要)
動作制限の評価とストレッチ目標設定
筋力評価大腿四頭筋・中殿筋・ハムストリングスなど徒手筋力テスト(MMT)
またはハンドヘルドダイナモメーター(HHD)
動作パターンに対する筋力制御の評価
疼痛スケール安静時・動作時の痛みNRS(Numerical Rating Scale)、VASリハビリへの耐性・進行判断の指標
腫脹・炎症関節周囲の腫脹や熱感メジャー計測、視診・触診炎症反応のモニタリング、物理療法選定
歩行分析歩行距離・パターン・介助度10m歩行テスト、TUG、6分間歩行テスト移動能力・安全性の把握とリスク予測
動作評価立ち上がり・階段昇降・バランスFIM、Barthel Index、Functional Reach Test自立度や生活復帰目標設定の指標

✅特に重要な評価:Quadriceps Lag(大腿四頭筋ラグ)

術後早期には「Quadriceps Lag(膝伸展不全)」の有無が重要な評価指標になります。これは、他動的には伸展可能でも自動的に伸展できない状態で、術後の筋力低下や疼痛によって生じます。

  • 評価方法:患者を長坐位にし、膝を完全に伸ばしてもらう
  • 意義:大腿四頭筋訓練の必要性と量の判断

✅観察ポイントと理学療法士の視点

項目観察の着眼点解釈例
起立動作体幹前傾や手すり依存の有無大腿四頭筋または中殿筋の筋力低下を示唆
歩行パターンすくみ足、すり足、左右差バランス障害または筋協調性の不足
表情や動作スピード動作時の痛み、ためらい疼痛や恐怖心の残存を示唆

理学療法士の評価は、電子カルテを通じて医師・看護師・作業療法士・ケアマネージャーらと情報共有され、退院後の生活設計や施設・在宅支援にも活かされます。

🚶理学療法治療:TKA術後に必要なリハビリ内容と目的

TKA(人工膝関節全置換術)後の理学療法では、術後早期からの機能回復を目的とした段階的な介入が重要です。目的は、疼痛軽減、可動域改善、筋力強化、歩行・ADLの自立であり、再手術予防や社会復帰につなげる役割も担います。

✅術後のリハビリ経過と段階的目標(例)

時期主な目標治療の内容
術後1〜3日疼痛管理と炎症軽減
自動介助運動の導入
アイス、TENSなど
ベッド上ROM訓練・足関節ポンピング
術後4日〜1週筋出力の回復と基本動作獲得CPM、膝伸展訓練
端坐位訓練、起立・歩行練習
術後2週〜退院日常生活動作の自立T字杖歩行訓練、階段昇降訓練
筋トレ(四頭筋・殿筋)
退院後(1〜3ヶ月)自宅環境下での動作安定・社会復帰自主訓練継続、再評価に応じた指導

✅主要な訓練内容と目的

① 関節可動域訓練(ROM-ex)

  • 目的:関節拘縮の予防、動作の滑らかさ確保
  • 実施方法
    • 自動介助運動(膝屈曲・伸展)
    • CPM(持続的他動運動器)※適応例あり
  • 目標:退院時で屈曲90°以上、伸展-5°以内

② 筋力増強訓練(筋トレ)

対象筋:大腿四頭筋・中殿筋・ハムストリングス

目的:立位保持・歩行の安定、機能的動作の獲得

  • 四頭筋セッティング
  • ストレートレッグレイズ(SLR)
  • ブリッジ運動(殿筋活性化)
  • ミニスクワット(体重移動練習含む)

③ 動作訓練(起立・歩行・階段など)

  • 目的:日常生活の再獲得、自立度向上
  • 段階
    • ベッド⇔車椅子移乗
    • 平地歩行(歩行器→T字杖)
    • 階段昇降(手すり・片杖使用)
  • 補助具使用の可否は、筋力とバランス評価に基づき調整

④ 疼痛と腫脹への対応(物理療法併用)

  • アイスマッサージ、TENS、圧迫包帯など
  • 目的:炎症軽減とリハビリへの耐性向上

⑤ 認知・心理的サポート

  • 術後の「動作不安」「転倒恐怖感」などにも対応
  • コミュニケーションや指導の工夫が効果的

📌退院前の評価と指導

退院前には以下を確認し、自主訓練や生活上の注意点を指導します。

  • 屈曲・伸展可動域
  • 杖歩行・階段昇降の可否
  • トイレ・入浴・着替えの動作確認
  • 自宅環境の段差や手すりの確認
  • ホームエクササイズ計画書の配布

このように、TKA後の理学療法治療は「多面的なアプローチで、個別性を重視した訓練設計」が求められます。

💡物理療法:TKA術後における疼痛管理と機能回復のための補助療法

人工膝関節全置換術(TKA)後の理学療法において、物理療法(Physical Agents Therapy)は、疼痛・炎症の緩和、筋出力の促進、リハビリテーションの促進を目的に重要な補助的役割を果たします。特に術後早期には、物理療法の効果によって積極的な可動域訓練や動作練習が可能になることが知られています。

💡TKA術後に使用される主な物理療法

種類使用時期目的効果の例(エビデンス)
アイスパック(冷却療法)術後1〜2週炎症抑制、疼痛軽減冷却による血流制限で腫脹を軽減(Kullenberg et al., 2006)
TENS(経皮的電気刺激療法)術後早期〜数週間疼痛緩和、筋収縮促進術後疼痛スコアの有意な低下(Cheing et al., 2001)
超音波治療術後2週〜筋肉の柔軟性改善、瘢痕組織の緩和組織の伸展性向上が報告(Speed, 2001)
筋電気刺激(NMES)筋力低下が著しい症例大腿四頭筋の再教育、筋萎縮予防筋出力回復に有効(Stevens-Lapsley et al., 2009)

💡物理療法の意義とそのエビデンス

✅ 1. 疼痛の緩和とリハビリの促進

術後早期の痛みと腫脹のコントロールは、リハビリの継続率やROMの改善と強く関連します。

  • **アイスパック療法(Cryotherapy)**は、術後の腫脹・内出血を抑制し、可動域訓練への耐性を向上(Kullenberg et al., J Arthroplasty, 2006)。
  • TENSは非侵襲的な疼痛軽減法として安全性が高く、術後の鎮痛薬依存度を下げると報告(Cheing et al., Physiother Theory Pract, 2001)。

✅ 2. 筋出力の維持・改善

術後、特に大腿四頭筋の筋抑制(AMI: Arthrogenic Muscle Inhibition)が問題となるため、NMESによる筋活動の誘導は有効とされます。

  • Stevens-Lapsley et al.は、標準的なリハビリ+NMES群のほうが、通常群よりも6週間時点での筋力・歩行機能スコアが有意に高いと報告(Phys Ther, 2009)。

✅ 3. 柔軟性の改善と瘢痕対策

  • 超音波療法は、筋・腱・靭帯組織の伸展性を改善し、ROM訓練における補助効果が期待されます。

💡実際の使用例と注意点

  • 適応:痛みが強く、動作練習が難航している場合や、筋力低下が著しい場合に補助的に使用
  • 禁忌:創部感染やペースメーカー使用など、安全性に注意

💡患者教育も重要

物理療法は「魔法のような治療」ではなく、リハビリの一環として理解してもらうことが大切です。患者様の理解があると、自主的なアイシングや筋トレへの意欲も高まります。

🏃ホームエクササイズ:TKA術後に自宅で行うべきリハビリ内容とその目的

人工膝関節全置換術(TKA)後は、入院中のリハビリだけでなく、自宅での継続的な運動(ホームエクササイズ)が機能回復の鍵となります。医療機関での理学療法を離れた後、いかに日常的に適切なエクササイズを継続できるかが、長期的な成果を大きく左右します。


✅ホームエクササイズの目的

目的解説
① 筋力の維持・向上特に大腿四頭筋・ハムストリングス・下腿三頭筋の筋力維持が重要。筋萎縮の進行を防ぎ、歩行安定性を保つため。
② 可動域(ROM)の維持膝関節の屈伸角度が回復しても、動かさなければ再び拘縮しやすいため、自動運動やストレッチが不可欠。
③ 歩行能力やバランス能力の改善日常生活動作(ADL)や転倒予防のため、立位バランス練習や段差昇降などの動作訓練も含める。

✅実施の目安

  • 頻度:1日2〜3回(それぞれ15〜30分)
  • 期間:術後6ヶ月程度までは継続が推奨(個人差あり)
  • 注意点:痛みが強い時や腫れがひどい時は中止し、医師または理学療法士に相談

✅おすすめのホームエクササイズ例

種類方法ポイント
クアドセッティング(膝伸展運動)座位または仰臥位で膝裏を床に押し付けるように力を入れる大腿四頭筋の再教育
ストレートレッグレイズ仰臥位で膝を伸ばしたまま足を15〜30cm上げる腸腰筋・大腿四頭筋の強化
膝関節屈伸運動椅子に座って膝を曲げ伸ばしするROMの維持に効果的
タオルストレッチ座位でタオルを足裏に引っ掛けて、ゆっくり膝を伸ばすハムストリングスの柔軟性向上
段差昇降練習低い段差をゆっくり昇り降りする股関節・膝関節の動作協調性の改善
立位バランス練習台所のシンクなどを支えにして片脚立ち転倒予防、体幹・股関節の安定性向上

✅クアドセッティングの実施例

クアドセッティング
クアドセッティング

✅患者さんへの伝え方

「ホームエクササイズは“リハビリの延長”です。病院ではできても、家でやらなければ意味がありません。自分の回復を左右する大事なポイントです。」

📚国家試験対策:TKA(人工膝関節全置換術)に関連する重要ポイント

TKAは理学療法士・作業療法士の国家試験において頻出のテーマです。術式、適応疾患、合併症、リハビリの進め方など多岐にわたるため、出題ポイントを押さえて効率よく学習しましょう。


✅出題されやすい知識

分類覚えておくべきポイント補足
解剖膝関節の構造(関節包、靭帯、関節軟骨、半月板)半月板温存の可否も出題あり
疾患変形性膝関節症(OA)の好発年齢、X線所見、臨床症状内側型OAが多い理由なども押さえる
適応TKAの適応条件保存療法無効、疼痛・ADL制限など
術式TKAとUKA(単顆型膝関節置換術)の違い両者の適応と禁忌も出る
合併症深部静脈血栓症(DVT)、感染、膝蓋骨の不安定性DVTは術後数日〜1週間がリスク高
評価ROM・歩行分析・痛みの評価(VASなど)歩行周期における異常パターンに注意
治療術直後〜退院後の段階的アプローチRICE、荷重制限、筋再教育の流れを理解
日常動作TKA術後のADL指導和式トイレ、正座、階段の指導内容など
用語「Qアングル」「大腿四頭筋の遅発性萎縮」よく選択肢に紛れて出てくる用語群

✅国家試験によく出る過去問例(抜粋)

第55回 午前48問(理学療法士)
「TKA術後の患者が大腿四頭筋を再教育するための運動はどれか。」
→ 正解:クアドセッティング

第54回 午後14問(作業療法士)
「変形性膝関節症のX線画像で初期に見られる所見はどれか。」
→ 正解:関節裂隙の狭小化


✅おすすめの覚え方

  • Knee OA → TKA(膝の変形が進行→手術)」
  • 術後リハは”再教育”と”再獲得”の段階に分ける」
  • 「TKAとUKAの違い=対象の範囲と保存組織に注目」

💡Q&A

Q1. TKA後に正座はできるようになりますか?

A. 原則として正座は推奨されません。人工関節に過度な屈曲負荷がかかるため、再置換や摩耗リスクを避ける目的で、深い屈曲動作は控える指導がされます。ただし、術後にある程度の可動域を獲得すれば「足を崩して座る」程度の動作は可能になるケースもあります。


Q2. TKA後は何日くらいで歩けるようになりますか?

A. 多くの患者さんは術後1日目から立位訓練や歩行訓練を開始します。補助具(歩行器やT字杖)を使いながら、約1〜2週間で杖歩行へ、さらに経過によっては退院時には独歩が可能な場合もあります。


Q3. 人工関節は一生使えますか?

A. TKAに使われる人工関節の耐用年数は約15〜20年程度とされています。現在では材質や手術技術の向上により、20年以上使用できる例も増えています。ただし、過度な動作や肥満、感染症などによって寿命が短くなる可能性もあります。


Q4. 術後にスポーツや旅行はできますか?

A. はい、軽度〜中等度の運動や旅行は可能です。たとえばウォーキング、軽い水泳、自転車などの負荷の少ない運動は推奨されます。一方で、ジョギングやスキーなど高負荷の運動は控えるべきとされています。旅行も歩行補助具の使用や長時間移動時の対応を工夫すれば、安全に行えます。

📚最新ガイドラインに基づくTKAの治療方針(2020年代以降)

変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術(TKA)は、国内外の整形外科学会・関節学会のガイドラインに基づき、エビデンスのある治療法として広く実施されています。ここでは、最新の診療ガイドラインをもとに、TKAの適応や術後管理、リハビリの考え方について解説します。


✅日本整形外科学会(JOA)および日本関節病学会の見解

  • 適応基準
    • 保存療法にて症状が改善しない中等度~高度の変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence分類3〜4)
    • 疼痛による日常生活動作(ADL)の障害が著しい
    • 関節の可動域制限、変形、筋力低下などを伴う
  • 推奨評価指標
    • Knee Society Score(KSS)
    • WOMACスコア(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)
    • KOOS(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score)

※これらの評価指標は、機能改善度や患者満足度を多角的に把握するために用いられます(参考文献:J Orthop Sci. 2020;25(4):684–691)。


✅米国AAOS(American Academy of Orthopaedic Surgeons)の推奨事項(2021)

  • **術前の運動療法(Prehabilitation)**を推奨
    ⇒ 筋力・可動域・疼痛耐性を高めることで、術後回復が促進される
  • 術後48時間以内の早期離床・歩行開始を強く推奨
    ⇒ 静脈血栓塞栓症(VTE)予防や機能回復を目的に早期介入を行う
  • 術後の継続的な物理療法と自主トレ指導が予後を改善
    ⇒ 特に大腿四頭筋と臀筋群の強化は再歩行能力の鍵とされている

引用:AAOS Clinical Practice Guideline Summary, 2021 Update.


✅欧州EULAR(European League Against Rheumatism)の声明(2022)

  • 高齢患者に対してもTKAは安全かつ効果的であると明記
  • 肥満・糖尿病・心疾患などの併存疾患は術後リスク因子となるが、事前の全身管理により合併症リスクを低減できる

✅日本の診療ガイドライン改訂ポイント(2023)

  • TKA後のリハビリテーション期間の短縮と個別化が盛り込まれる
  • 運動療法の質(内容と頻度)と患者の自己効力感の向上に重点が置かれる
  • 患者教育と多職種連携(医師・PT・OT・看護師など)の重要性が強調

✅ガイドラインからわかる重要ポイント

項目推奨内容
術前対応筋力トレーニング(Prehab)、全身状態の確認
術直後対応48時間以内の離床、疼痛管理、DVT予防
術後長期対応自主トレ習慣、筋力評価、可動域維持
リハビリの目的自立歩行・ADL回復、関節可動域と筋出力の最適化
多職種連携チーム医療による治療計画と予後の共有

📚書籍紹介

  • 『変形性膝関節症の保存療法』(山田英司、運動と医学の出版社)→Amazonリンク
  • 『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』(日本整形外科学会、南江堂)→Amazonリンク
  • 『園部俊晴の臨床『膝関節』』(園部俊晴、運動と医学の出版社)→Amazonリンク
  • 『膝関節機能障害のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)』(石井慎一郎、羊土社)→Amazonリンク

💡まとめ

本記事では、TKAの適応となる背景疾患や骨折侵入方向や術中に侵襲を受ける筋群、そしてそれらが日常動作に及ぼす影響について詳しく解説しました。特に、大腿四頭筋や内転筋群、中臀筋などの筋力低下は、歩行・立ち上がり・階段昇降といった基本的動作に大きな影響を与えることがわかりました。

TKAは単なる関節置換に留まらず、術前から術後のリハビリテーション介入、社会復帰までの包括的なケアが必要です。医療従事者として、対象者の生活背景や目標を理解し、多角的な評価と個別化されたリハ介入を行う視点が求められます。

💡さいごに(注意事項)

本記事では、変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術(TKA)について、医療従事者や学生の皆さんに向けて、できるだけわかりやすく、かつ実践的に解説してきました。しかし、本記事で紹介した内容は、すべての方に一律で当てはまるものではありません

膝関節の痛みや変形、機能障害の程度は人それぞれであり、画像所見・身体所見・生活背景・合併症の有無など、複数の視点から慎重に判断する必要があります。
特にTKAのような外科的治療は、医師による診察と総合的評価に基づいて適応が決定されるため、自己判断での手術の是非を考えることは避けてください。

また、リハビリテーションに関しても、「どの筋肉を」「どのような順序で」「どの程度負荷をかけて」訓練していくかは個別に異なります。そのため、理学療法士や作業療法士などの専門職と連携し、正しい評価に基づいたリハビリを進めていくことが大切です

痛みや歩行困難などの症状に悩んでいる方は、早めに整形外科を受診し、医学的なアプローチを受けることを強くおすすめします
ネットや本からの情報は、正しく活用すれば非常に有用ですが、実際の診断や治療の代替にはなりません

📚参考文献

  1. Felson DT, et al. Osteoarthritis: New Insights. Part 1: The Disease and Its Risk Factors. Ann Intern Med. 2000;133(8):635–646.
  2. Insall JN, Dorr LD, Scott RD, Scott WN. Rationale of the Knee Society clinical rating system. Clin Orthop Relat Res. 1989;(248):13–14.
  3. Mizner RL, Petterson SC, Snyder-Mackler L. Quadriceps strength and the time course of functional recovery after total knee arthroplasty. J Orthop Sports Phys Ther. 2005;35(7):424–436.
  4. Nakagawa T, et al. Changes in walking ability and activities of daily living after total knee arthroplasty. J Orthop Sci. 2016;21(2):260–265.
  5. Baldini T, et al. Impact of rehabilitation on functional recovery after total knee arthroplasty. Eur J Phys Rehabil Med. 2021;57(3):338–347.

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