高齢化社会の進展とともに、歩行や移動に不安を抱える方は増加しています。コメディカル職種として患者に最適な【 移動補助具 】を提案するには、種類・機能・環境・身体状態を理解することが重要です。本記事では、杖・歩行器・車椅子・リハビリ機器の選定方法やレンタル・購入時の注意点を解説。
📊 統計データ
介護保険でレンタルできる移動補助具については別記事🫱『リハビリ現場で押さえるべき【福祉用具】の知識と活用法』で解説🚶
👩🦯 移動補助具の基本分類と目的
高齢化が進む日本では、歩行や移動に困難を抱える方が年々増加しており、移動補助具の重要性が高まっています。私たちコメディカル(理学療法士・作業療法士・看護職など)は、単に「歩けるようにする」だけでなく、「安全で効率的に移動できる環境を整える」視点が求められます。
ここでは、日常的に使用される代表的な移動補助具について、その分類と目的を整理します。
◎ 移動補助具とは?
移動補助具とは、歩行や移動を助けるために用いられる器具の総称です。対象者の身体機能の状態や生活環境に応じて、多様な種類の補助具が存在します。主に以下のような目的があります。
- バランスの補助(転倒予防)
- 下肢の荷重軽減
- 移動距離・速度の向上
- 生活圏の拡大(自立支援)
『T字杖への軽度の荷重が重心動揺に与える影響』🫱参考
◎ 主な分類
移動補助具は大きく分けて以下の3種類に分類されます。
1. 杖(つえ)
最も基本的な歩行補助具であり、以下のようなバリエーションがあります。
- T字杖:片麻痺やバランス不良が軽度の方に適応
- 多点杖(四点杖など):支持基底面が広く、転倒リスクのある高齢者向け
支持面積が大きいほど安定しますが、動きが制限されることもあるため、対象者の歩行能力に応じた選定が必要です。
『杖を用いた歩行の特性』🫱参考
2. 歩行器(歩行車)
歩行器は、杖よりも支持面が広く、前方に押して移動するタイプの補助具です。歩行練習や下肢筋力の低下がみられるケースに適しています。
- 固定型歩行器:4脚で構成され、安定性重視(ピックアップウォーカー等)
- キャスター付き歩行器:前輪または4輪タイプで、操作性向上
歩行器は「歩行時の体幹保持」や「荷重の分散」に有効であり、特にリハビリ初期には有効とされています。
『杖の使用が歩行時体幹・下肢筋筋活動に与える影響』🫱参考
3. 車椅子
移動が困難な方にとって欠かせない補助具です。近年ではスポーツタイプや電動アシスト型も含め、多様化しています。
- 自走式:使用者自身で駆動可能(後輪大きめ)
- 介助式:介助者が操作(後輪小さめ)
- リクライニング・ティルト式:体位変換が困難な方に有効
車椅子は、単なる移動手段ではなく、「座る」という動作の安定性や褥瘡予防、社会参加にも直結する重要なツールです。
『高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き』🫱参考
◎ 選定におけるコメディカルの役割
補助具の選定は単に「身体機能の評価」にとどまらず、以下のような多面的な視点が必要です。
- 環境適応:家庭環境(段差、床材、スペース)の確認
- 使用者の受容性:外観や操作性への好み、使用意欲
- 認知機能の影響:注意力や記憶力の問題が使用に影響する場合も
特に「その人が、どのように使い続けられるか」を見据えた視点が重要です。
◎ まとめ
この章では、移動補助具の分類と目的を中心に解説しました。各補助具にはそれぞれの特徴があり、対象者の身体・環境・心理状態に応じて選定することが求められます。
次章からは、評価に基づいた具体的な選定ポイントについて詳しく見ていきましょう。
移動補助具の種類や使用目的などもっと詳しく知りたい方におすすめ📚
『移動補助具: 杖・松葉杖・歩行器・車椅子』(松原勝美、金原出版株式会社)
👩🦯 選定のための評価ポイント
移動補助具の適切な選定は、患者の安全な移動だけでなく、自立性や生活の質(QOL)の向上にも直結します。そのため、私たちコメディカルは、対象者の身体能力・認知機能・生活環境などを多角的に評価し、それに合った補助具を提案する必要があります。
この章では、具体的にどのような視点で補助具を選定すればよいかを、実際の研究や報告に基づいて解説します。
◎ 1. バランス能力と筋力の評価
移動補助具の選定において、最も重要な身体機能の一つがバランス能力です。特に、「立位の安定性」や「歩行中の左右バランス保持」ができるかどうかは、補助具のタイプに大きく影響します。
■ 立位・歩行バランス評価の例
- 開眼片脚立ちテスト(片脚立位時間)
- Timed Up and Goテスト(TUG)
- Berg Balance Scale(BBS)
『歩行補助具が必要となる要介護高齢者の身体的特徴』🫱参考
『歩行能力とバランス機能の関係』🫱参考
『高齢入院患者における歩行自立と立位バランスの関係』🫱参考
■ 筋力の指標としての握力と下肢伸展筋力
- 握力は歩行器・車椅子自走型の操作において重要な要素
- 膝伸展筋力の低下は、杖歩行やシルバーカーの安定性に影響します
要介護高齢者の握力と身体機能との関連-歩行補助具使用の有無に着目した検討-🫱参考
◎ 2. 認知機能・視覚・操作理解の確認
移動補助具は、単に「持って使う」ものではなく、「安全に、正しく使い続ける」ことが求められます。そのため、認知機能や注意力も評価すべきです。
■ 確認すべき項目
- 理解力(補助具の使い方を説明して理解できるか)
- 記憶力(使用手順を反復できるか)
- 視覚(深視力や視野障害の有無)
特に、ローラー付き歩行器や電動車椅子など、操作性が複雑なものは、判断力・反応速度の評価も重要です。
◎ 3. 疲労や痛みに関する主観的評価
筋力やバランス機能がある程度保たれていても、「すぐに疲れる」「膝が痛い」などの症状がある場合は、補助具のサポートが不可欠になります。
■ 疲労・痛みの聞き取り例
- 「どの距離くらい歩くと疲れますか?」
- 「どの部位に痛みがありますか?」
- 「立ち止まりたくなるタイミングはありますか?」
こうした主観的情報は、T字杖 / シルバーカーなどの選定にも影響を与えます。
『腰部脊柱管狭窄症患者における間欠性跛行の重症度の違いがQOLに及ぼす影響』🫱参考
◎ 4. 生活環境のアセスメント
身体機能が十分であっても、住環境が適していない場合は補助具の効果が発揮されません。例えば、車椅子を導入しても「廊下が狭くて旋回できない」「段差が多くて移動が困難」というケースでは、選定自体の見直しが必要になります。
■ チェックポイント
- 玄関・トイレ・浴室の段差と広さ
- 屋外環境(坂道・砂利道など)
- 住宅改修や福祉用具貸与との連携
『住宅改修と福祉用具に欠かせないPTの視点』🫱参考
◎ 5. 受容性とモチベーション
補助具の選定において、当事者がその補助具を受け入れられるかどうかも極めて重要です。たとえ機能的に最適な器具でも、「格好悪いから使いたくない」「使い方が難しそうで不安」といった心理的障壁があると、継続使用されないリスクがあります。
■ 対話の工夫
- デザイン性や色を選択肢として提示する
- 「○○さんの生活にぴったりのモデルがあります」と共感を示す
- 実際に使ってみて「安心できる」「動きやすい」といった体験を通す
◎ 評価→提案→フォローアップの流れを意識
移動補助具の選定は、「評価して終わり」ではなく、「使用後のフォローアップ」まで含めたプロセスです。以下のような流れを意識しましょう。
- 身体・認知・環境の多面的な評価
- 本人の希望や生活背景に合った提案
- 使用後の状況観察・再調整
この流れを継続することで、転倒リスクの軽減や活動範囲の拡大といった成果につながります。
👩🦼 主な移動補助具の種類と選定ポイント
移動補助具の選定には、それぞれの特徴や使用者の状態との適合性を理解することが欠かせません。この章では、よく使われる補助具を比較しながら、選定時のポイントをわかりやすく解説します。
◎ 1. 杖(T字杖/多点杖)

▷ T字杖(単点杖)
片麻痺や軽度のバランス障害がある方に多く用いられ、軽量で扱いやすく、段差や狭い場所にも対応しやすいのが特徴です。
- 支持面:狭い(そのぶん軽快に使える)
- 素材:木製、アルミ、カーボンなど(軽量なものが多い)
- グリップ:T型・J型・アナトミカル型があり、手の変形や握力の状態に応じて選定
▷ 多点杖(四点杖など)
支持基底面が広く、バランスの悪い方や歩行中にふらつく高齢者に向いています。立位保持が安定する反面、動作速度や可動性はやや低下します。
- 支持面:広い(転倒予防に有効)
- 素材:アルミ製が中心でやや重め
- 注意点:路面の傾斜や段差では接地が不安定になることも
◎ 2. 歩行器/シルバーカー

▷ 歩行器(歩行車)
歩行器は、主に医療・リハビリ現場で使用される補助具で、全身を預けるようにして使います。支持基底面が広く、下肢の筋力やバランスに不安のある方に適しています。
- 種類:固定型(4点)/キャスター付き(前輪・4輪)
- 主な対象:術後・脳卒中後・筋力低下が強い方
- 環境:屋内中心。障害物が少ない環境に適する
▷ シルバーカー(歩行補助車)
シルバーカーは、日常生活の中での歩行・買い物・休憩を補助する道具です。収納・座面付きのものも多く、高齢者の外出支援に用いられます。
- 特徴:軽量、小回りが利く、買い物カゴ付き
- 制動装置:自動ブレーキ・手元レバー付きなど多数あり
- 主な対象:自立歩行可能だが歩行に不安のある高齢者
✅ 選定のポイント:
「リハビリ場面で安全性重視」なら歩行器、
「生活支援・外出・買い物」目的ならシルバーカーが適します。
⚠️持ち手が体を囲う物が『歩行器』、囲わないものが『シルバーカー』と覚えると分かりやすい🚶
『杖の使用が歩行時体幹・下肢筋筋活動に与える影響』🫱参考
◎ 3. 車椅子のタイプと選定ポイント

車椅子は、単なる移動手段ではなく、「生活の一部」となる補助具です。選定には、上肢機能、座位保持、使用環境の評価が必要です。
種類 | 特徴 | 適応 |
---|---|---|
自走式 | 大きな後輪があり、本人が操作 | 上肢が健全・活動性がある人 |
介助式 | 小さな後輪。介助者が操作 | 認知症・全介助・屋外利用者など |
リクライニング | 背もたれが後方に倒れる | 長時間座位で疲労・後弯が強い人 |
ティルト式 | 座面ごと後傾し、姿勢保持 | 重度障害者・褥瘡リスクが高い人 |
スポーツ用 | 軽量・操作性重視 | パラスポーツや活動的な若年層 |


▷ その他の選定視点
- ブレーキ位置(使用者 or 介助者)
- クッションの厚み・素材(褥瘡予防、快適性)
- 折りたたみ可否(移動・収納時)
✅ 選定のポイント:
使用目的が「自立移動」か「介助移動」かを最初に確認し、姿勢・座位保持力・体重分布を含めて適合するタイプを選ぶことが重要です。
『高齢者のための 車椅子フィッティング マニュアル』🫱参考
◎ まとめ
この章では、主要な補助具の違いと選定のポイントについて紹介しました。どの補助具にも「万能なもの」はなく、使用者ごとに適したタイプを見極めることが重要です。
- 杖:単点 or 多点はバランス能力に応じて
- 歩行器 or シルバーカー:使用目的と環境で使い分け
- 車椅子:座位保持力・活動性・介助の有無でタイプを選定
ICFの視点に基づき「環境因子」である福祉用具の機能や活用方法を理解する一冊📚
『ICFの視点に基づく自立生活支援の福祉用具: その人らしい生活のための利活用』(大橋謙策、中央法規)
次章では、レンタルと購入、それぞれのメリット・注意点について解説します。
💡レンタル / 購入の判断と注意点
移動補助具の導入を検討する際、「レンタルと購入のどちらが良いのか?」という相談は非常に多くあります。特に在宅復帰後の生活を支援する場面では、医療・介護職がこの判断に関わることが多く、制度や費用面の知識も欠かせません。
この章では、補助具のレンタル・購入それぞれのメリット・デメリット、そしてコメディカルとして知っておくべき公的制度や注意点を解説します。
◎ レンタルの特徴とメリット
▷ 主なメリット
- 必要な期間だけ使える(短期的利用に適応)
- 状態変化に応じて交換がしやすい
- 保管・処分の手間がない
- 介護保険制度を利用できる(対象機種に限る)
▷ 介護保険でのレンタル対象
介護保険では、要介護認定を受けた方に対して、以下のような移動補助具のレンタルが可能です(要介護2以上推奨)。
種類 | 介護保険でのレンタル対象例 |
---|---|
車椅子 | 手動式・介助式・電動式(適合機種) |
歩行器 | キャスター付き、固定型 |
杖 | ※多点杖は貸与可、単点杖は購入 |
スロープ・段差解消台 | 一部レンタル可能 |
✅ ポイント:
レンタルは、状態が変化しやすい術後や介護初期には柔軟性が高く、安全面でも安心できます。
◎ 購入の特徴とメリット
▷ 主なメリット
- 自分に合った仕様・サイズを細かく選べる
- 新品なので衛生的
- 長期使用では費用負担が抑えられる
- 介護保険の「福祉用具購入費支給制度」が使える場合あり
▷ 購入に向いているケース
- 補助具の長期利用が見込まれる
- レンタル対象外の機種を使いたい(例:スポーツ用車椅子、カスタム車椅子)
- 外観・素材・機能にこだわりがある
▷ 注意点
- 誤ったサイズ選定は身体機能を低下させるリスクあり
- 体重・座位保持力の変化に応じて調整が必要
- 使わなくなった場合の処分コスト
✅ ポイント:
購入は「個別性が高い補助具が必要」なケースに適しています。オーダーメイド車椅子やスポーツ車椅子など、細かな調整が必要な機種には購入が適しています。
介護保険でレンタルできる移動補助具については別記事🫱『リハビリ現場で押さえるべき【福祉用具】の知識と活用法』で解説🚶
◎ コメディカルが押さえておくべき注意点
▷ 制度・費用に関する知識
- レンタル:ケアマネージャー・福祉用具貸与業者との連携が必須(単位数の確認など)
- 購入:利用者が10割負担 → のちに保険申請(原則1割〜3割負担)(介護保険の対象種目か、市区町村ごとに異なる給付や助成・補助などを確認)
支払い時の違い(償還払いと受領委任払い)
市区町村により、特定福祉用具販売時の支払い方法が異なります。
償還払い:
利用者がいったん費用を全額自己負担で支払い、後で保険者(市区町村)に申請して払い戻しを受ける方法。
受領委任払い:
利用者が自己負担分だけ支払い、残りは福祉用具販売事業者が保険者(市区町村)に直接請求する仕組み。
つまり、償還払いは「あとで戻る」受領委任払いは「その場で割引」というイメージです。
▷ 連携の重要性
- ケアマネジャーと事前に情報共有することで、重複支援や制度の無駄を防げる
- 医師の意見書が必要な場合もある。
▷ 継続使用のフォロー
- 「買ったけど使われていない」「レンタルしたけどサイズが合っていない」といったケースは少なくない
- 利用者への継続的なモニタリングと、必要時の再評価・再選定が求められる
◎ まとめ
レンタルと購入の選択には、それぞれにメリット・デメリットがあります。大切なのは、「利用者にとって最適な補助具が、適切な方法で導入されること」。そして、導入後の経過を見守り続けることが、私たちコメディカルの大きな役割でもあります。
次章では、補助具の導入後にどのような点に注意し、どんなフォローを行えばよいのかを具体的に解説していきます。
参考🫱『介護保険における福祉用具』
💡 導入後にフォローすべきポイント
移動補助具は「導入すれば終わり」ではありません。むしろ導入後の使い方、生活へのなじみ方、継続的なモニタリングこそが、利用者のQOL向上とADLの維持に直結します。
本章では、コメディカルが現場で押さえておきたい「導入後のフォローアップの視点」について、実際の研究を交えながら解説します。
◎ 使用状況の観察と「実生活」との乖離
▷ 現場でよくあるケース
- 「病棟ではうまく使えていたが、自宅では使われていない」
- 「サイズは合っていたが、床材の違いで滑って使いにくい」
- 「家族が使い方を理解しておらず、結果的に危険な使用方法になっていた」
導入後には、在宅や通所での実使用状況を定期的に観察・ヒアリングすることが大切です。
『介護保険における福祉用具サービスの利用実態』🫱参考
この論文では、導入後の使用率低下や不適合の背景に、「環境への不一致」や「補助者との連携不足」があることが報告されています。
◎ 身体状態の変化に応じた再調整
人の身体状態は常に変化します。特に高齢者や慢性疾患患者では、数週間・数ヶ月で筋力や姿勢、耐久性に変化が起こることも珍しくありません。
▷ 見直しが必要な兆候
- 使用中に疲労感や違和感を訴える
- 歩容が不安定になった
- 杖や歩行器に過度に依存しているように見える
- 車椅子の姿勢保持が困難になってきた
こうした場合は、使用機器の高さ・角度・クッション・車輪などの調整を行う必要があります。
『車椅子を知るための シーティング入門』🫱参考
◎ 補助具使用によるADL・QOLの変化の評価
補助具は単に「移動距離を伸ばす」だけではなく、生活行動や心理的満足度(QOL)にどう影響するかを観察することが重要です。
▷ 評価すべき変化
- 外出頻度が増えたか
- 自分で買い物や用事をこなせるようになったか
- 疲労度が減ったか
- 表情や会話が活発になったか(抑うつの軽減)
『年齢別にみた移動支援機器に関する心理的抵抗感』🫱参考
◎ 使用者・家族・介助者への教育と支援
導入直後には使い方を説明していても、継続して正しい使い方がされているとは限りません。特に自宅では、介助者(家族やヘルパー)が独自の方法で操作している場合もあります。
▷ 教育すべき内容
- ブレーキや高さ調整の方法
- 転倒リスクがある環境の改善
- 使用しないときの収納・保管方法
- 耐用年数や交換部品のチェック方法
『福祉用具「事故・ヒヤリハット」情報』🫱参考
◎ モチベーションの低下と心理的支援
使い始めは意欲的でも、徐々にモチベーションが下がり、「使わなくなった」「恥ずかしい」といったケースもあります。特に外観や周囲の視線を気にする高齢者には注意が必要です。
▷ 対応例
- 利用者の価値観に合わせたデザイン提案(例:色、形、収納性)
- 成功体験の共有(例:「この補助具にしてから出かけられるようになったね」)
- 多職種での支援会議やケアカンファレンスの活用
◎ まとめ
補助具の本当の価値は、「導入後、使い続けて生活の中で機能すること」にあります。導入時の評価と選定だけでなく、その後の継続的な観察・調整・支援が、転倒予防や生活の自立度の向上につながります。
✅ コメディカルに求められること:
・使い方を定期的に確認する
・身体や環境の変化に応じた再調整を行う
・生活機能・QOLへの影響を多角的に観察する
次章では、これまでの実践を踏まえた事例紹介と、補助具を用いた介入の実際を紹介していきます。
👩🦼 想定事例から考える補助具選定と導入後の経過
ここまで、補助具の分類や選定ポイント、制度、導入後の注意点について解説してきました。本章では、臨床でよく出会うケースを3つ想定し、それぞれの評価〜選定〜経過観察を通じて、実践的な視点を深めていきます。
■ 症例1|脳卒中後片麻痺のある80代男性(要介護2)
▷ 背景
- 左片麻痺(Brunnstrom Stage Ⅲ〜Ⅳ)
- 自立歩行は困難。病棟内は歩行器で介助歩行
- 認知機能は良好。意思疎通可能
- 家屋:平屋・段差少なめ
▷ 選定と導入
- 評価:Berg Balance Scale 34点、TUG 21秒
- 選定補助具:4脚歩行器(前輪付き)を試用 → 安定性・速度ともに良好
- フォローアップ:1ヶ月後にT字杖へ移行試行 → 足関節背屈制限と体幹不安定により中止
- 現在:歩行器継続使用、自宅内は手すり併用しながら自立歩行
▷ 教訓
- 「段階的な補助具移行(歩行器→杖)」を図る場合は、移行に十分な身体機能評価とリハビリの並行実施が鍵になる
『脳卒中患者の歩行杖の適応決定について』🫱参考
■ 症例2|変形性膝関節症のある75歳女性(要支援2)
▷ 背景
- 両側変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence grade 3)
- 買い物や通院に疲労感と不安あり
- 認知機能・上肢筋力良好
- 自宅周囲に上り坂・舗装されていない道あり
▷ 選定と導入
- 評価:TUG 14.2秒、片脚立位時間 4秒
- 選定補助具:四輪シルバーカー(座面・手元ブレーキ付き)を試用 → 「楽になった」「安心できる」と本人希望強く導入
- 介護保険:レンタル対象外のため自費購入(約22,000円)
▷ フォローアップ
- 2ヶ月後、外出頻度が週1回→週3回に増加
- 家族への教育(段差昇降時の補助・ブレーキ使用)も併行
- QOLスコア(WHOQOL-BREF)に改善傾向
▷ 教訓
- 心理的安心感と社会参加は、単なる移動距離以上に重要。
- シルバーカーのような「生活支援型補助具」も、QOL向上の主因となり得る
■ 症例3|脊柱管狭窄症による間欠性跛行がある男性(68歳)
▷ 背景
- 約100mで下肢のしびれと脱力
- スポーツ歴あり。日常的に外出したい意欲が高い
- 身体所見:握力正常、下肢筋力MMT4〜5、知覚軽度低下
- 認知機能・生活意欲良好
▷ 選定と導入
- 評価:6分間歩行距離 310m、痛みVAS 6→4(休憩後改善)
- 選定補助具:小型の座面付きシルバーカー(背当て付)を試用
- 結果:途中で座れることで症状軽減 → 長距離外出が可能に
▷ フォローアップ
- ショッピングセンター・駅までの外出を再開
- 座ることで症状緩和 → 「歩く→座る」の反復が自主的に可能に
- 運動療法(脊柱周囲筋トレーニング)と併行支援
▷ 教訓
- 間欠性跛行においては、休息機能を備えた補助具の選定が非常に有効
- 活動量が増えることで二次的な筋力・心理状態改善にも寄与
『年齢別にみた移動支援機器に関する心理的抵抗感』🫱参考
◎ まとめ
補助具の選定と導入は、個別性の高いプロセスです。
本章で紹介したように、「身体機能」「心理的背景」「生活環境」「家族の協力」などが複雑に絡み合いながら、その人に最適な補助具が決まります。
そして、最も大切なのは、導入後も継続してモニタリングと再調整を行うこと。それが、転倒予防・社会参加・ADL維持につながる確かな一歩になります。
💡 まとめと実践のためのチェックリスト
これまで、移動補助具の選定と導入、その後のフォローアップまでを段階的に解説してきました。
本章では、その総まとめとして、コメディカルが日々の臨床で活用できる「補助具選定のためのチェックリスト」を提示します。
◎ 補助具選定に必要な5つの視点
1. 身体機能の評価(動的・静的バランス、筋力)
- Berg Balance Scale(BBS)、Timed Up and Go(TUG)、片脚立位時間など
- 握力や膝伸展筋力などの筋力テスト
2. 認知機能・操作理解
- 認知症の有無、道具使用の理解・反復が可能か
- ブレーキ操作や高さ調整ができるか
3. 生活環境の確認
- 住居内の段差、廊下の幅、床材の滑りやすさ
- 外出環境(坂道、砂利道、交通量)も考慮
4. 使用者の希望とモチベーション
- 「使いたい」「自分で動きたい」という内発的動機づけ
- デザイン性・使い勝手などの好みにも配慮
5. 支援体制・制度活用
- ケアマネジャーや家族との連携体制
- 介護保険制度(レンタル/購入)や補助制度の確認
◎ 現場で役立つ実践チェックリスト(例)
評価項目 | 内容 | 実施確認 |
---|---|---|
身体機能 | BBS・TUG・筋力テストを実施 | ☑️ |
認知・視覚 | 説明理解・視野チェック済み | ☑️ |
使用環境 | 家屋構造・外出環境の確認 | ☑️ |
本人の希望 | 面談で具体的に確認 | ☑️ |
補助具試用 | 実物での試歩・試乗を実施 | ☑️ |
制度利用 | ケアマネと制度確認済み | ☑️ |
フォロー体制 | 使用後の観察・調整予定あり | ☑️ |
このように多角的に評価・選定することで、単なる「道具の導入」ではなく、「生活支援・活動支援」の質が高まります。
⚠️ さいごに|補助具選定の際の注意点と倫理的配慮
補助具は、医療機器とは異なり、使用者の「生活」「尊厳」「自己決定」に直接かかわるものです。
だからこそ、私たちコメディカルには、技術的な知識だけでなく、倫理的・社会的な配慮が求められます。
◎「補助具ありき」ではなく、「人ありき」の視点
補助具の選定は、あくまでその人の生活や人生に寄り添う手段であり、目的ではありません。
「転倒リスクがあるから杖を持たせる」のではなく、
「この人が望む生活を安全に継続するために、どの補助具が最適か」という視点が必要です。
◎ 選定を押しつけない。意思決定を支える
補助具の使用には、心理的抵抗感(「年寄りっぽく見える」「人目が気になる」など)が伴うこともあります。
そのため、導入を急がず、利用者自身の納得や選択を大切にしましょう。
- 複数の選択肢を提示する
- 実際に触れて試してもらう
- 家族や支援者との対話の時間を設ける
◎ 継続的支援を怠らない
「導入後に放置されている補助具」「誤使用による転倒事故」は、現場でたびたび問題になります。
その背景には、「評価や導入に比べて、フォローアップが十分でない」ことが多くあります。
コメディカルの役割は、「導入すること」ではなく、「使い続けられる支援をすること」です。
◎ 法制度と個人情報への理解
- 補助具選定に関する情報共有には、個人情報保護や同意取得も必要です
- 介護保険制度の変更や地域差にも注意し、最新情報を確認する習慣を持つことが重要です
厚生労働省|福祉用具・介護保険制度関連資料🫱参考
◎ 終わりに
移動補助具の適切な選定は、対象者の生活を根本から支える大切な支援です。
そのためには、「正確な評価」「丁寧な選定」「継続的な支援」「倫理的配慮」という、地に足のついたプロセスが不可欠です。
この記事が、現場のリハビリ職・コメディカルの皆さまにとって、実践と学びの一助となれば幸いです。
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