理学療法士がリハビリ現場で【 福祉用具 】について的確にアドバイスするためには、単なる器具知識にとどまらず、制度・届け出・介護度別条件、用具ごとの機能差などを包括的に理解する必要があります。本記事では、福祉用具専門相談員の資格活用から始まり、レンタル・購入対象の用具種類、それぞれの比較や選び方、そして入院中に選定する際の注意点まで、現場で即役立つPT視点の知見を論文・公文書に基づいてまとめました。
📈 統計・エビデンス
理学療法士(PT)などの国家資格保有者は、福祉用具専門相談員として講習不要で業務に従事できることが、厚生労働省と各自治体の通知で明示されている(例:神奈川県「福祉用具専門相談員の資格要件」)
▶ 出典:神奈川県公式サイト
福祉用具貸与・販売事業所においては、「2名以上の福祉用具専門相談員の配置」が義務づけられており、国家資格保有者はこの枠に該当可能。2022年度の調査では、福祉用具専門相談員のうち約19.2%が理学療法士・作業療法士・看護師などの医療資格者であった(厚労省・介護保険最新情報vol.1094)。
理学療法士が福祉用具業務に関わることで、「利用者の動作特性に応じた機器選定・指導が可能」とされ、近年では病院→在宅の連携場面でも活用が進んでいる。🫱参考
🧭 理学療法士と福祉用具専門相談員の関係
福祉用具専門相談員とは、介護保険制度において用具の選定・調整・適合指導を行う専門職です。原則としては指定講習(50時間)を修了した者に限られますが、理学療法士・作業療法士・看護師などの国家資格保有者は講習を免除され、その資格のみで業務に従事できます。🫱参考
理学療法士は、動作分析・身体機能評価の専門家であるため、単なる用具の選定にとどまらず、利用者個々の身体状況や生活環境に応じた“個別対応型”の助言が可能です。この点が、相談員としての大きな強みとされています。
さらに、医療機関や訪問リハ現場で培われたスキルを、福祉用具貸与・販売事業所や地域包括支援センターなどにおいて活かすことができるため、理学療法士としてのキャリアの幅を広げる選択肢にもなっています。
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『新訂 福祉用具専門相談員研修テキスト 第2版』(一般社団法人シルバーサービス振興会、中央法規)
👩🦼 福祉用具の分類と種類
福祉用具とは、高齢者や障害のある方の「日常生活の自立支援」や「介護者の負担軽減」を目的に使用される用具全般を指します。リハビリ職が知っておくべき視点としては、これらが単なる「道具」ではなく、生活機能(ICFで言うところの活動・参加)を拡張するための“環境因子”であることが重要です。
介護保険制度においては、福祉用具は大きく以下の2つに分けられています。
🔷 介護保険で「レンタル可能」な福祉用具(貸与対象)
介護保険法では、要介護2以上(品目によっては要支援・要介護1でも可)の方を対象に、13種類の福祉用具がレンタル(貸与)対象とされています。
介護保険レンタル対象13品目(厚生労働省告示第421号, 2000年)
- 車いす
- 車いす付属品(クッション、ブレーキ等)
- 特殊寝台(電動ベッドなど)
- 特殊寝台付属品(マットレス、サイドレール等)
- 床ずれ防止用具(エアマット等)
- 体位変換器
- 手すり(工事不要のもの)
- スロープ(可搬型)
- 歩行器
- 歩行補助杖(多点杖など)
- 認知症老人徘徊感知機器
- 移動用リフト(吊り具を除く)
- 自動排泄処理装置(尿のみまたは便尿両用)
厚生労働省🫱参考
これらは、介護度によって利用できる品目が制限されており、特に特殊寝台や床ずれ防止用具などは、要介護2以上が原則とされています。
🔶 介護保険で「購入対象」となる福祉用具(特定福祉用具販売)
一方、購入対象となるのは、「使用者個人に合わせる必要がある」「衛生上レンタルに不向き」といった理由から、厚生労働省が定める特定福祉用具(6種)に限られます。これらは、原則として年間10万円(税込)までの購入に対して、9割(一定所得者は7~8割)を介護保険が負担します。
介護保険購入対象(特定福祉用具)6品目
- 腰掛便座(ポータブルトイレなど)
- 自動排泄処理装置の交換部品
- 入浴補助用具(浴槽手すり、シャワーチェアなど)
- 簡易浴槽(折りたたみ式浴槽など)
- 移動用リフトの吊り具部分
- 排泄予測支援機器(2021年度から追加)

出典:厚生労働省「特定福祉用具販売」🫱参考
なお、2021年度には「排泄予測支援機器(例:DFree)」が新たに対象となっており、ICT・IoT機器の普及に伴い、対象用具も進化しています。
✅ 制度・費用に関する知識
- レンタル:ケアマネージャー・福祉用具貸与業者との連携が必須(単位数の確認など)
- 購入:利用者が10割負担 → のちに保険申請(原則1割〜3割負担)(介護保険の対象種目か、市区 町村ごとに異なる給付や助成・補助などを確認)
🟣 支払い時の違い(償還払いと受領委任払い)
市区町村により、特定福祉用具販売時の支払い方法が異なります。
償還払い:利用者がいったん費用を全額自己負担で支払い、後で保険者(市区町村)に申請して払い戻しを受ける方法
受領委任払い:利用者が自己負担分だけ支払い、残りは福祉用具販売事業者が保険者(市区町村)に直接請求する仕組み。
つまり、償還払いは「あとで戻る」受領委任払いは「その場で割引」というイメージです。
🔍 見落とされがちな注意点
- T字杖やシルバーカーは介護保険の「レンタル対象外」であり、原則自己負担になります。ただし、自治体によっては助成金や貸与制度を独自に設けている場合もあります。
- 同様に、家具調トイレや防水マットなどの住宅内整備用品も原則購入扱いです。
- また、要支援・要介護1では一部用具しかレンタルできないという制限があります(例:歩行器は×、手すりは◯)。


🗣 コメディカルへの示唆
理学療法士・作業療法士などのリハ職にとっては、「この用具が今、その方のADLと環境に対して妥当か?」という判断が常に求められます。介護保険制度の縛りを理解しつつ、制度の範囲内で最も効果的な選定を提案できるよう、レンタル・購入対象の違いや注意点は必ず把握しておきたい項目です。
👩🦯 レンタル可能な福祉用具を購入する場合との比較
リハビリ場面では、「この福祉用具はレンタル?購入?」という質問を患者さんや家族から受けることが少なくありません。特に退院前の評価や在宅復帰支援の場面では、制度的な選択肢と経済的な合理性をふまえた説明が重要になります。
介護保険制度では、原則として「貸与(レンタル)が基本」とされており、レンタル可能な用具をあえて購入する場合には保険給付の対象外となるリスクがあるため、注意が必要です。
🔷 なぜ「レンタル」が基本なのか
厚生労働省の通知により、13品目の福祉用具は原則レンタルで対応することが定められています(厚生労働省告示第421号, 2000年)。
これは、以下の理由によります
- 身体状態や介護度の変化に応じて、用具を柔軟に変更・交換できる
- 故障や劣化時のメンテナンス・交換が無償で対応される
- 自己負担額(原則1〜3割)が月単位で抑えられる
たとえば、特殊寝台(電動ベッド)であれば、購入すると10〜30万円以上の出費が必要ですが、レンタルなら月600〜1200円(介護保険1割負担の場合)で利用できます。
出典:ダスキンヘルスレント公式サイト「福祉用具貸与と購入の違い」
🫱参考
🔶 購入が必要になるケースと注意点
介護保険制度では、原則レンタル対象の福祉用具についても、「利用者側が任意に購入した場合」には介護保険給付の対象外となります。つまり、全額自己負担になります。
例として、以下のような場面では購入が選ばれることがあります
- 施設入所者で、退所予定がなく長期使用が見込まれる場合
- 中古品やレンタル品への抵抗感が強い場合
- レンタル事業所の在庫がなく、早期導入が必要な場合(例:退院調整時)
ただし、これらはいずれも「例外的」なケースであり、基本的にはレンタルが優先されるべきです。
🧭 コメディカルが知っておきたい実践知識
理学療法士や作業療法士としては、単に「レンタルです」と伝えるだけでなく、以下のような補足ができると理想です
- 「この用具は介護保険でレンタル対象なので、状態が変わった時に交換もできますよ」
- 「購入(レンタル可能な用具を購入)を希望される場合は、全額自己負担になることもありますが、自治体によっては助成があることもあります」(※対象の自治体の制度の確認要)
- 「状態が変化してベッドやマットレスが合わなくなった場合でも、レンタルなら差し替え(交換)が容易です」(※レンタル業者による契約内容の確認要)
特に退院支援の場面では、「自宅にあるから使う」ではなく、「その方の生活環境や今後の変化も見据えた最適な用具か?」という視点を持つことが大切です。
福祉用具の基本的な使い方を、体の動きに合わせて解説されているおすすめの書籍📚
『楽に動ける福祉用具の使い方 第2版 多職種協働による環境整備』(窪田 静、栄 健一郎、樋口 由美、日本看護協会出版会)
📌 レンタルと購入、どう判断するか?
比較項目 | レンタル | 購入 |
---|---|---|
費用負担 | 月額利用料+保険適用(1〜3割負担) | 原則自己負担(給付対象外) |
故障対応 | 原則無料で交換・修理可 | 自己管理、修理も実費 |
状態変化への対応 | 交換・変更が可能 | 買い直しが必要な場合あり |
保険制度 | 介護保険13品目に該当 | 該当せず給付なし(例外あり) |
コメディカルは「選定+制度の適用範囲」をセットで説明する役割を担う存在です。現場での信頼性を高めるためにも、制度と実務の“橋渡し”を担える力を持っておきましょう。
💡 介護度によるレンタル条件の違い
介護保険制度においては、同じ福祉用具であっても、利用者の要介護度によってレンタルの可否が異なるという点に注意が必要です。これは、制度の設計として「状態の軽い人には重装備を不要とする」ことを原則としており、福祉用具の給付が必要最小限にとどめられているためです。
🔷 要支援・要介護1の場合の制限
要支援1・2や要介護1の方は、原則として軽度者に分類され、13品目のうち一部の福祉用具しかレンタルできません。具体的には、以下のような日常生活の補助を目的とした用具のみが対象です。
【軽度者がレンタル可能な主な品目】
- 手すり(工事不要型)
- スロープ(持ち運び可能なもの)
- 自動排泄処理装置(尿のみ対応)
- 歩行補助杖(多点杖など)
- 徘徊感知機器
一方で、以下のような身体機能が中等度以上に低下していなければ使用しないとされる用具については、原則としてレンタル対象外となります。
【軽度者には原則レンタル不可】
- 特殊寝台(電動ベッド)
- 床ずれ防止用具(エアマット)
- 車いす
- 歩行器
- 体位変換器
これらは要介護2以上でないと保険給付の対象とならないのが原則です(※ただし、例外あり。後述)。
🔶 要介護2〜5で拡大するレンタル範囲
要介護2以上の方については、前述の13品目すべてが原則レンタル可能です。例えば、ベッド、マットレス、歩行器、車いす、体位変換器など、移動・排泄・体位保持などに支援が必要な方にとって重要な用具が利用可能になります。
この範囲の拡大は、身体機能の変化に応じた用具選定の柔軟性を確保するうえで極めて重要であり、リハ職が最も関与すべきフェーズでもあります。
🟡 例外的に軽度者でもレンタルが可能なケース
ただし、要支援や要介護1の方であっても、次のような条件を満たす場合は「例外給付」としてレンタルが認められるケースがあります。
【例外給付が認められる条件(厚労省通知による)】
- 特殊寝台等を使用することで著しく生活が安定すること
- 認知症などで生活機能が著しく低下していること
- 医師の指示・主治医意見書などによる裏付けがあること
これらの場合、担当ケアマネジャーが「福祉用具貸与理由書」を作成し、保険者(市町村)に申請することで例外給付が可能となります。
厚生労働省 要支援・要介護1の者に対する福祉用具貸与について 🫱参考
🧭 ベッドのモーター数と介護度の関連
医療・リハ現場では見落とされがちですが、ベッドのモーター数(1モーター/2モーター/3モーター)も、実は介護度に応じた選定根拠に関係します。
- 1モーター:背上げまたは高さ調整のみ
- 2モーター:背上げ+高さ調整
- 3モーター:背上げ+膝上げ+高さ調整
要介護度が高くなるほど、体位保持や移乗動作が困難になるため、多モーターの高機能型ベッドが選ばれる傾向にあります。ただし、あくまで身体状況に即して「最小限必要な機能」で選定されるべきであり、高機能=自動的に認可されるわけではありません。
この点を評価・判断できるのは、日々身体状況を観察している理学療法士・作業療法士の役割です。
📌 まとめ
介護度によってレンタル対象品が制限されているという事実は、制度上は合理的でも、現場では悩ましい場面も多く見られます。その際、医療職は次のようなスタンスでかかわるとよいでしょう:
- 対象外の場合も、例外給付制度の存在を理解しておく
- 選定したい用具が制度上NGでも、代替案を検討する
- 必要性をケアマネ・医師と共有し、保険者に意見書を通す
こうした制度理解とチーム連携の姿勢が、利用者のQOL向上につながります。
👩🦯 杖や歩行器の違いと介護保険での扱い
歩行補助具の選定は、理学療法士・作業療法士が最も頻繁に関わる場面の一つです。しかし、見た目が似ていても制度上の分類や保険給付の可否、使用対象者の違いが存在するため、医療職としての知識が求められます。
🔷 杖の種類と制度での扱い
まず、T字杖は「福祉用具貸与の対象外」です。
介護保険上、T字杖や多点杖などの「一般的な杖」は、購入時に介護保険は適用されず、原則全額自己負担となります。
ただし、「歩行補助杖」として定義される以下のような杖については、一定条件下でレンタルが可能です。
【介護保険の対象となる歩行補助杖】
- 多点杖(ベースが3点または4点のもの)
- ロフストランドクラッチ(前腕支持型杖)
- プラットホームクラッチ(前腕支持面がある)
厚生労働省「福祉用具貸与」🫱参考
上記は13の貸与品目の1つ「歩行補助杖」として位置づけられていますが、要介護2以上が原則給付対象です。軽度者の場合は例外理由書が必要になります。
また、T字杖や一本杖、シルバーカー(後述)などは制度上「日常生活用品」とみなされるため、貸与対象には含まれません。
移動補助具の選定方法について知りたい🫱別記事『移動補助具の選定ガイド|リハビリ・レンタル・購入を知ろう』で詳しく解説🚶
🔶 歩行器とシルバーカーの違い
現場でも混同されやすいのが、「歩行器」と「シルバーカー」です。これらは外見は似ていますが、制度上も構造上もまったく異なるものです。
用具名 | 主な使用目的 | 構造的特徴 | 介護保険の対象 |
---|---|---|---|
歩行器 | 室内歩行の安定補助 | U字型・脚4点支持/前輪あり | レンタル対象(貸与品目) |
シルバーカー | 外出時の買い物や休憩 | 小型タイヤ付き座面あり | 対象外(自己購入) |
歩行器は、身体機能の障害によって室内歩行が不安定な方に使用されます。例えば:
- 片麻痺で杖では不安定な方
- 下肢筋力低下により体幹保持が困難な方
- 歩行距離・時間が短い方
一方、シルバーカーは自立歩行ができる高齢者の「外出支援」用具であり、医学的な補装具ではありません。したがって、介護保険の対象外であり、購入は全額自己負担です。
公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具の分類と適合のポイント」🫱参考
⚠️持ち手が体を囲う物が『歩行器』、囲わないものが『シルバーカー』と覚えると分かりやすい🚶
⚠️歩行器もシルバーカーも、その上に座ることは転倒リスクがあり危険です。メーカー説明書の確認や動作評価を十分に行いましょう。
🧠 リハ職が意識すべき選定ポイント
制度と構造を理解したうえで、選定時に意識すべきポイントは以下の通りです。
- 杖が本当に最適か?:T字杖を使っているがふらつきが強く、むしろ歩行器の方が安全ではないか?
- 歩行器で環境に対応できるか?:狭小住宅や段差が多い環境では歩行器が使えないこともある
- 保険対象とならない用具を提案する際の説明:シルバーカーは制度対象外であり、自己購入が必要であることを明確に伝える
- 杖の耐久性・素材・グリップ形状などの“臨床的配慮”も重視する
理学療法士が選定に関与することで、単に制度に当てはめるだけでなく、臨床的合理性を担保した上で制度を活用する選定が可能になります。
📌 まとめ
歩行補助具の選定には、用具自体の構造・目的・制度的扱いの三点をバランスよく理解しておく必要があります。特に、制度上の対象とされないT字杖やシルバーカーについて、利用者や家族にわかりやすく説明し、「その方の身体状況と生活環境に適した選定」であることを納得してもらうことが重要です。
福祉用具選定は制度的側面だけでなく、安全性とQOLの両立を図る医学的判断が求められる領域でもあります。コメディカルこそ、その橋渡し役を果たすことができます。
⚠️ 入院中に福祉用具を選定する上で配慮すべきポイント
急性期・回復期病棟において、患者の退院調整が進むと、在宅での生活を見据えた福祉用具の選定が重要な課題となります。しかし、入院中の環境は病院という“人工的で制限された空間”であり、在宅生活とは条件が大きく異なるため、用具選定にあたってはいくつかの注意点が存在します。
🔷 「実際の生活環境」を前提に考える
病棟内で患者がスムーズに移動できていたとしても、それが在宅で同様に成立するとは限りません。病院と自宅では以下のような環境差があります
項目 | 病院 | 在宅 |
---|---|---|
廊下 | 幅広・段差なし | 狭く・物が多く・段差あり |
トイレ | 手すり完備・ベッド近接 | 障害物が多く遠いことも |
床面 | フラット・滑り止めあり | 畳・フローリング・絨毯混在 |
ベッド | 自動昇降ベッド | 布団/簡易ベッドなど多様 |
そのため、ご自宅の間取り、床材、段差、家具配置、使用中の用具などを確認したうえで選定することが重要です。
訪問調査や写真・動画による情報収集、在宅介護経験のある家族からのヒアリングが大切になります。
🔶 利用者本人だけでなく「介護者」の状況にも注目
福祉用具は単に“本人のため”だけに存在するものではありません。介護者の負担軽減も目的の一つであるため、選定にあたっては以下のような点を必ず確認すべきです。
- 介護者の身体的負担(高齢・腰痛・関節症など)
- 介護時間の確保(共働き・育児との両立)
- 用具の操作性・設置可能スペース
- 夜間対応やトイレ誘導の頻度
たとえば、ポータブルトイレの設置を予定していたが、介護者の腰痛によりベッド上排泄の導入(自動排泄処理装置)を検討せざるを得なかったということも起こりうるかもしれません。
🟡「今のADL」ではなく「今後の変化」に備えた選定を
入院中の状態は、病状の急性期・治療期の影響を受けており、退院後に予想される身体機能や生活リズムとは一致しないことも多いです。
例えば、
- 現在はADLが比較的安定しているが、在宅療養が長期化することで筋力低下・活動性の低下が懸念される
- 悪性腫瘍や神経難病などで進行性の疾患が背景にある場合、将来的な機能低下を見越して、拡張性のある用具を検討する必要がある
これらのケースでは、状態の変化に対応可能な「調整機能付き用具」や「交換・変更が容易なレンタル用具」を選定するのが望ましいです。
🧠 チーム連携と制度活用のバランス
理学療法士が用具選定に関与する際、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と連携することが極めて重要です。制度上は、最終的な選定・導入判断は相談員が行うことになっていますが、リハ職の身体機能評価が大きな役割を果たします。
【現場で重要な連携例】
- 退院前カンファレンスにて、リハ職が「現状のADL評価」+「生活環境の確認」を共有
- ケアマネ・相談員が制度的可否や在宅環境への適合性を判断
- 必要に応じて「例外給付申請書」「主治医意見書」などを共同作成
制度に合致しながら、医学的妥当性と生活適応を両立させるためには、リハ職と相談員の協働が不可欠です。
📌 まとめ
入院中の福祉用具選定は、単なるADL評価だけでなく、
- 在宅環境(段差、狭さ、設備)
- 介護者の負担や習熟度
- 予測される経過や生活変化
- 制度上の給付制限・例外条件
といった多面的視点から検討する必要があります。コメディカルは、制度・臨床・生活の“接点”に立つ存在として、現実的かつ安全な選定を支える重要な役割を担っています。
厚生労働省『福祉用具ヒヤリハット事例集』
✏️ 入院中や施設入所時の福祉用具レンタルと保険制度の適用範囲
リハ職が関与する退院支援や施設入所支援の場面では、「福祉用具をいつから介護保険でレンタルできるのか?」「入院中も利用できるのか?」といった質問を多く受けます。
しかしこの領域では、医療保険と介護保険の制度上の分担が厳密に定められており、誤解も生じやすいため、正確な知識が必要です。
🔷 原則:入院中および介護保険施設入所中は、介護保険による福祉用具貸与は不可
介護保険法では、入院中・介護保険施設入所中は原則として、福祉用具のレンタルは保険給付の対象外とされています(介護保険法施行規則 第78条、第84条等)。
これは、以下のような考えに基づいています
- 入院中は医療保険が優先適用される
- 介護保険施設は、施設側が必要な用具を備えるべきである(施設サービス費に含まれる)
✅【介護保険対象外となる主な施設・場面】
- 急性期・回復期・療養型等の医療機関に入院中
- 介護老人福祉施設(特養)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院
- 短期入所生活介護(ショートステイ)利用中
厚生労働省「福祉用具貸与」🫱参考
🔶 入院中は「医療機関の責任で福祉用具を整備」
たとえば、病院内で使用される電動ベッドや車椅子、移乗リフト、ポータブルトイレなどは、医療機関側が自前で整備し、患者に無償で提供するものです。
つまり、入院中の用具使用は医療保険の枠内でカバーされるため、利用者が自己契約でレンタルすることはできません。
厚生労働省🫱参考
🏠 自宅等での「在宅サービス利用中」ならレンタル可能
誤解されがちですが、自宅での療養中であれば、要介護度が認定されている限り、介護保険による福祉用具レンタルは問題なく利用可能です。
また、以下のような施設でも、“自宅等”とみなされるため、福祉用具レンタルは可能です。
✅【レンタル可能な「居宅サービス対象施設」】
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- 有料老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
※ いずれも施設側が用具を備えていない場合に限る
🧠 現場での実践ポイント(リハ職視点)
- 退院前評価の場面で「退院当日搬入・使用開始」が必要な用具があれば、福祉用具専門相談員に早めに連絡し、契約と納品スケジュールを調整する
- 入院中にレンタル品を使わせると保険給付外扱いになる(全額自己負担)ため、患者や家族にはその旨を明確に説明する
- 施設に入所した後の制度適用外条件もあらかじめ伝える(例:老健では原則レンタル不可)
このような運用知識を持っておくことで、退院支援の連携精度が高まり、トラブル防止にもつながります。
📌 まとめ
状況 | 介護保険での福祉用具レンタル |
---|---|
病院入院中 | ❌ 不可(医療保険で対応) |
介護保険施設入所中 (特養・老健・介護医療院など) | ❌ 不可(施設が整備) |
有料老人ホーム サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 軽費老人ホームなど | ✅ 可(自宅とみなされる) |
グループホーム (認知症対応型共同生活介護) | ✅ 可(ただし施設が用具を備えていない場合) |
ショートステイ利用中 | ❌ 不可(短期入所中は給付対象外) |
自宅療養中 | ✅ 可(原則すべての貸与品目対象) |
制度上の制限と、現場での柔軟な連携を両立させることが、理学療法士・作業療法士にとっても信頼される支援者であるための第一歩です。
🔎 福祉用具を制度と臨床の両面から正しく理解する
福祉用具は、在宅生活を支える上で欠かせない要素です。しかし、その選定と導入には介護保険制度の制約、対象用具の違い、要介護度による給付の可否、購入とレンタルの判断、施設・入院中での扱いの違いなど、多くの注意点が存在します。
特に、コメディカルである理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、単に用具を勧めるだけでなく、
- 本人の身体機能・ADLと生活環境に即した提案
- 介護者の負担軽減をふまえた導入可否の判断
- 福祉用具専門相談員・ケアマネジャーとの連携
- 制度に即した保険適用範囲の把握
といった制度と臨床の“橋渡し”役としての知識と判断力が求められます。
現場での信頼性を高め、利用者の生活の質(QOL)を守るために、福祉用具についての制度的・臨床的理解を深めておくことは、今や不可欠なスキルとなっています。
⚠️ 注意点(制度利用における留意事項)
- 介護保険による貸与・購入には要介護認定(要支援・要介護)が前提条件です。
- T字杖、シルバーカー、ベッド上テーブルなどは制度の対象外です(全額自己負担)。
- 病院入院中・施設入所中の利用は原則不可(医療保険または施設サービス費で対応)。
- 要支援・要介護1の場合、対象外の福祉用具は例外申請が必要です。
- 購入できる用具(入浴用具・排泄用具など)とレンタル品目(電動ベッド・歩行器など)は制度上分かれており、混同に注意が必要です。
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