肩の痛みや可動域の制限で日常生活に支障をきたしていませんか?
もしかすると、それは「腱板損傷」が原因かもしれません。
腱板損傷は、スポーツ選手や高齢者だけでなく、働き盛りの人にも多く発生する疾患で、早期発見・適切な治療・的確なリハビリテーションが回復の鍵となります。
本記事では、腱板損傷の基本から、分類・手術の種類・筋力低下しやすい筋・リハビリ評価・訓練・物理療法・国家試験対策・おすすめ書籍まで、幅広く解説します。
医療学生〜新人理学療法士にも理解しやすい構成で、エビデンスや最新ガイドラインも引用し、現場でもすぐに活かせる内容をお届けします。
✅ 統計データ
腱板損傷は40歳以上の中高年層に多く、特に60歳以上ではMRI上で約50%以上に腱板断裂が認められるという報告があります(Yamamoto A, et al. J Shoulder Elbow Surg. 2010)。
実際、症状を伴わない「無症候性腱板断裂」も多く、整形外科外来では肩関節疾患の中で最も多い原因の一つとされています。
また、腱板損傷による手術件数は年間約2万件以上とされており、加齢とともに罹患率が上昇する疾患です。
理学療法士が関わる場面も多く、リハビリテーションの知識が重要です。
原因(分類や好発年齢など)
腱板損傷(けんばんそんしょう)は、**肩関節を支える4つの筋肉(回旋筋腱板)の一部または複数が断裂・損傷することで発生する疾患です。
その原因は大きく「外傷性」と「変性性」**の2つに分けられます。
● 外傷性腱板損傷
外傷性の損傷は、以下のような明らかな外力が関係しています。
- 転倒して肩を強く打った
- 転んだ際に手をついた
- 重い物を無理に持ち上げた
- スポーツ中の急激な動作(投球、タックルなど)
特に若年者やスポーツ選手に多くみられ、発症時のエピソードが明確なことが特徴です。
また、外傷後に肩の動きが悪くなったり、夜間痛が出ることで受診に至るケースが多いです。
● 変性性腱板損傷
一方、変性性の損傷は、加齢に伴う腱板のすり減りや変性が主な原因です。
- 40歳以降で徐々に進行することが多い
- 発症時に明確な外傷エピソードがない
- 長年の使いすぎや、肩の反復動作が背景にある
- 「気づいたら挙がらなくなっていた」といった訴えが多い
MRI検査では、60歳以上の高齢者の約50%に腱板断裂が見られるという報告もあります(Yamamoto A, 2010)。
変性性の腱板損傷は無症候性で進行してしまうこともあるため、注意が必要です。
● 好発年齢と性別差
- 好発年齢は40歳以上、特に60〜70代に多い
- 男性の方が発症頻度は高い傾向
- スポーツ歴(野球、テニスなど)や**重労働(建設業、介護など)**がリスク因子になることもあります
● インピンジメント症候群との関連
腱板損傷は、肩峰(肩の屋根)と腱板がこすれる「肩峰下インピンジメント症候群」が長期間持続することで引き起こされる場合もあります。
このような摩擦による微小損傷の積み重ねが腱板の断裂へとつながるため、早期の評価と介入が重要です。
● まとめ:原因分類早見表
分類 | 主な原因 | 年齢層 | 特徴 |
---|---|---|---|
外傷性 | 転倒・強打・重い物を持ち上げた等 | 若年〜中年層 | 明確な外傷歴、急性発症 |
変性性 | 加齢・繰り返し動作・使いすぎ | 中高年〜高齢 | 徐々に発症、自覚ない場合も |
インピンジメント由来 | 肩峰との摩擦 | すべての年齢 | 動作時痛、挙上制限を伴いやすい |
出現しやすい疾患
腱板損傷は肩関節の障害の中でも頻度が高く、似たような症状を引き起こす他の疾患との鑑別が重要です。以下に、腱板損傷と併発・類似しやすい疾患を紹介します。
● 五十肩(凍結肩/肩関節周囲炎)
- 特徴:肩の痛みと可動域制限が主症状。関節包の炎症による拘縮が中心。
- 腱板損傷との違い:五十肩は夜間痛が強く可動域が全方向に制限されるのに対し、腱板損傷は特定の動き(特に外転や挙上)での痛みと筋力低下が目立つ。
- 鑑別のポイント:MRIや超音波検査で腱板の連続性を確認。
● 石灰沈着性腱板炎
- 特徴:腱板にリン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着し、急性の激痛を生じる。
- 発症年齢:30〜50代女性に多い。
- 腱板損傷との違い:石灰沈着性腱板炎は急激な痛みと炎症反応(腫れ・熱感)が強いが、腱板損傷は動作時痛や筋力低下が徐々に出現。
- 画像所見:レントゲンで石灰沈着が明確に写る。
● 肩峰下インピンジメント症候群
- 特徴:肩の挙上時に**腱板が肩峰に挟まれる(インピンジメント)**ことで生じる痛み。
- 腱板損傷との関係:腱板損傷の前段階として関与することが多く、併発も多い。
- 検査:Neerテスト、Hawkins-Kennedyテストが陽性になることが多い。
● 上腕二頭筋長頭腱炎
- 特徴:腱板損傷と同じく肩の前面痛を引き起こす。特に屈曲と外旋動作で痛みが誘発される。
- 腱板損傷との違い:腱板損傷は肩の後方・上方にかけて痛むことが多く、抵抗外転や下垂位での筋力低下がみられる。
● 関節唇損傷(SLAP損傷など)
- 特徴:肩のクリック音や不安定感、スポーツ動作(特にオーバーヘッド)での痛み。
- 腱板損傷との違い:関節唇損傷は肩の深部痛や脱臼感、不安定感が主症状で、腱板損傷よりも可動域は保たれる傾向。
● 変形性肩関節症
- 特徴:肩関節の関節軟骨がすり減り、骨棘が形成される。
- 腱板損傷との違い:動作時痛に加えて関節の変形や可動域制限が強く、加齢性変化が目立つ。
- 画像:X線で骨棘や関節裂隙狭小が確認される。
● まとめ表:鑑別すべき肩の疾患一覧
疾患名 | 主な症状 | 鑑別のポイント |
---|---|---|
五十肩(凍結肩) | 夜間痛、全方向の可動域制限 | 可動域制限が著明、腱板断裂なし |
石灰沈着性腱板炎 | 急性の激痛、熱感 | レントゲンで石灰が確認できる |
インピンジメント症候群 | 挙上時痛、肩峰との摩擦感 | テストで陽性、腱板損傷と併発しやすい |
上腕二頭筋長頭腱炎 | 前方痛、屈曲外旋で増悪 | 前面に限局した痛み、腱板損傷と鑑別 |
関節唇損傷(SLAPなど) | 深部痛、クリック音、不安定感 | スポーツ歴、可動域は保たれる |
変形性肩関節症 | 関節痛、可動域制限、変形 | X線で変形確認、加齢性の変化が主因 |
解剖学
腱板損傷を理解するには、腱板(ローテーターカフ)を構成する筋肉とその役割、位置関係を正確に把握することが重要です。
● 腱板(ローテーターカフ)を構成する4筋
腱板は以下の4つの筋で構成され、いずれも肩関節の安定化と回旋動作に関与します。
筋名 | 起始部 | 停止部 | 主な作用 |
---|---|---|---|
棘上筋(Supraspinatus) | 肩甲骨の棘上窩 | 上腕骨大結節上面 | 肩関節外転の初動、安定化 |
棘下筋(Infraspinatus) | 肩甲骨の棘下窩 | 上腕骨大結節後面 | 肩関節外旋、安定化 |
小円筋(Teres minor) | 肩甲骨外側縁 | 上腕骨大結節後面 | 肩関節外旋、安定化 |
肩甲下筋(Subscapularis) | 肩甲骨前面(肩甲下窩) | 上腕骨小結節 | 肩関節内旋、前方安定化 |
● 腱板の位置関係と肩関節との連動
- 腱板は肩関節を包み込むように配置されており、関節包と連結しています。
- 主に上腕骨骨頭が肩甲骨関節窩から逸脱しないように、関節の求心位を保つ働きをします。
- 棘上筋は最も損傷されやすい筋であり、特に肩関節の外転動作やインピンジメントの影響を受けやすいです。
● 腱板周囲の構造と臨床的意義
- **肩峰(Acromion)**との位置関係により、腱板(特に棘上筋)はインピンジメントを受けやすく、反復的摩擦によって損傷しやすい。
- **肩峰形状(Bigliani分類)**により腱板損傷のリスクが異なる。
肩峰形状分類 | 特徴 | 腱板損傷リスク |
---|---|---|
タイプI | 平坦 | 少ない |
タイプII | 曲線状(通常型) | 中等度 |
タイプIII | 鷲鼻状(フック状) | 高い |
● なぜ腱板は損傷しやすいのか?
- 腱板、とくに棘上筋腱は血流が乏しい部位(critical zone)を持ち、加齢による退行変性や圧迫に弱い。
- 動作時に肩峰下での摩擦が反復すると、腱の変性・断裂が進行しやすい。
手術適応
腱板損傷の治療は大きく分けて「保存療法」と「手術療法」に分類されます。基本的には保存療法が第一選択とされますが、次のようなケースでは手術が適応となります。
● 手術適応の一般的な判断基準
判断基準 | 内容 |
---|---|
保存療法が無効 | 3〜6か月以上の保存療法(薬物療法・リハビリ)で改善が乏しい |
痛みが強く日常生活に支障がある | 夜間痛、衣服の着脱・洗髪動作に支障が出る |
関節可動域や筋力の著明な低下 | 外転や外旋が著しく制限され、筋力テスト(MMT)で著明な低下がみられる |
損傷サイズが中〜大以上 | MRIなどで断裂サイズが1cm以上(特に3cm以上) |
高活動レベルの若年者 | スポーツ選手や肉体労働者など復帰を求める症例 |
腱板断裂の進行 | 経過観察中に断裂拡大や筋萎縮、脂肪変性の進行が画像所見で確認される |
● 腱板損傷の分類と手術適応の関係(MRI評価など)
分類名 | サイズ | 手術の要否 |
---|---|---|
小断裂 | ~1cm | 保存療法が主体 |
中断裂 | 1~3cm | 保存療法+手術の選択肢 |
大断裂 | 3~5cm | 手術が検討される |
広範囲断裂 | 5cm以上 or 2腱以上 | 手術が強く推奨、または再建術を考慮 |
特に「広範囲断裂」では、関節機能の回復が困難になる前に早期手術が求められることもあります。
● 年齢による適応の違い
- 若年者(〜60歳未満):
機能回復の期待値が高いため、手術による積極的治療が推奨される傾向あり。 - 高齢者(60歳以上):
日常生活レベルや全身状態、術後リハビリの実施可否を総合的に評価して判断されます。特に筋萎縮や脂肪変性が進行している場合は、**修復不能腱板断裂(massive cuff tear)**と判断され、**再建術やリバース型人工関節(RSA)**が検討されることもあります。
● 手術に至るまでのプロセス(外来での流れ)
- 初診:問診・理学所見・X線
- 保存療法(NSAIDs、運動療法)を約3ヶ月
- MRI・エコーで断裂確認
- 症状・画像所見・生活背景から手術適応を総合的に判断
- 手術日程の決定と術前リハビリ開始
● 患者説明のポイント
- 手術を選択することで「痛みの改善」と「肩機能の回復」が見込まれるが、術後のリハビリが重要。
- 腱板断裂の放置は断裂の拡大や、不可逆的な筋変性を招く可能性がある。
手術の種類(腱板損傷)
腱板損傷に対する手術は、損傷の程度、患者の年齢・活動レベル、筋萎縮や脂肪変性の有無などによって選択されます。現在では**関節鏡視下手術(鏡視下修復術)**が主流であり、低侵襲で回復も比較的早いとされています。
● 主な手術法の分類と概要
手術法名 | 特徴・適応 |
---|---|
関節鏡視下腱板修復術(ARCR) | 現在の標準術式。小〜中断裂に適応。関節鏡で断裂部を縫合・固定。 |
小切開腱板修復術(Mini-open) | 関節鏡+小切開の併用。視認性が必要な中〜大断裂に選択されることがある。 |
大開放腱板修復術(Open repair) | 広範囲断裂に対して行われることがあるが、現在はあまり選択されない。 |
上方関節包再建術(SCR) | 修復困難な広範囲断裂に対して関節包を移植して再建する術式(fascia lata等を使用)。 |
部分修復術(Partial repair) | 完全修復が困難な場合、一部のみを修復して関節機能の改善を目指す。 |
リバース型人工肩関節置換術(RSA) | 高齢で重度の腱板断裂+関節症がある場合に選択。腱板の代わりに三角筋を活用。 |
● 関節鏡視下腱板修復術(ARCR:Arthroscopic Rotator Cuff Repair)
現代の腱板修復術において最も広く行われている術式です。
特徴
- 小さな皮膚切開で行える低侵襲手術。
- 鏡視下に断裂した腱板をアンカー(吸収性or金属)で骨に縫着。
- 傷が小さく、感染リスクや術後痛も少なめ。
- 早期の可動域訓練開始が可能。
対象
- 小断裂〜中断裂、活動性の高い若年者。
術後合併症
- 再断裂(特に高齢者や大断裂で起こりやすい)。
- 癒着、肩関節拘縮。
● 上方関節包再建術(Superior Capsule Reconstruction:SCR)
修復困難な腱板断裂において、近年注目されている術式です。
特徴
- 関節の安定性を確保するために腸脛靭帯や自己腱を移植し、上方関節包を再建。
- 腱板そのものの修復ではなく、「肩の安定性」と「リフトオフ防止」を目的とする。
対象
- 高齢者で広範囲断裂+修復不能症例。
● リバース型人工肩関節置換術(RSA)
腱板機能が失われた高齢者の「ローテーターカフ・アソシエイテッド・アルスロパシー(RCA)」に適応されます。
特徴
- 関節窩と上腕骨頭の役割を逆転させる人工関節。
- 腱板を使わず、三角筋を主動筋として肩を動かす。
対象
- 高齢者(70歳以上が目安)、腱板再建困難例、関節変形を伴う例。
● 術式の選択アルゴリズム(概略)
小〜中断裂 → ARCR
↓
大断裂 or 修復困難 → SCR / 部分修復
↓
高齢・重度変形 → RSA
筋力低下しやすい筋肉
腱板損傷や手術後においては、断裂部位の筋肉はもちろんのこと、肩関節の安定性・可動性に関与する複数の筋群が筋力低下の影響を受けやすくなります。特に以下の筋肉は要注意です。
● 主に筋力低下しやすい筋肉とその理由
筋名 | 主な作用 | 筋力低下の要因 |
---|---|---|
棘上筋(Supraspinatus) | 外転初動(0〜15°) | 腱板の中でも断裂頻度が最も高く、萎縮・脂肪変性も起きやすい |
棘下筋(Infraspinatus) | 外旋 | 中〜広範囲断裂で同時に損傷することが多く、術後の再断裂リスクもあり |
小円筋(Teres minor) | 外旋 | 棘下筋と同様の作用。広範囲断裂で影響を受ける場合がある |
肩甲下筋(Subscapularis) | 内旋・前方安定化 | 前方断裂(少ないが重要)で機能低下。手術操作による侵襲もあり得る |
三角筋(Deltoid) | 外転(主動筋) | 術後の長期固定による廃用性萎縮、疼痛抑制による使用減少 |
僧帽筋(Trapezius) | 肩甲骨の安定・上方回旋 | 肩甲上腕リズムの破綻により協調性が低下 |
前鋸筋(Serratus anterior) | 肩甲骨前方突出・上方回旋 | 肩甲骨運動の制限により機能不全に陥りやすい |
● 特に注意すべき:棘上筋の萎縮と脂肪変性
腱板損傷の中でも最も断裂しやすい棘上筋(supraspinatus)は、MRIや超音波で萎縮や脂肪変性の程度を確認することが術式選択の重要な判断材料になります。
- 脂肪変性が進行している場合は、術後の修復力が低下。
- 筋断面積の減少は筋力低下と直結し、回復困難になることも。
👉 Goutallier分類により脂肪変性の程度を評価し、術前判断に用います。
● 筋力低下による臨床的な影響
- 外転や外旋時の代償運動(肩をすくめるなど)
- インピンジメント症候群の誘発
- 肩甲上腕リズムの破綻 → 肩甲骨の異常運動パターン
- 動作時痛や夜間痛の持続
● 筋萎縮・筋力低下の予防と対応
- 術後は早期の可動域訓練+遅延した筋力トレーニングが基本
- 三角筋や肩甲骨周囲筋への代償的トレーニングを併用
- 肩甲骨の安定性向上が腱板機能の補完に重要
動作への影響(腱板損傷)
腱板損傷では、肩関節に関わる複数の筋群が損傷・機能低下を起こすため、日常生活動作(ADL)やスポーツ動作に顕著な影響が現れます。特に以下のような場面で症状が強く出やすくなります。
● ADLで見られる動作制限と代償運動
動作例 | 制限・障害の内容 | 主な代償運動 |
---|---|---|
顔を洗う、髪をとかす | 肩の外転・外旋制限により、手が頭部まで上がらない | 体幹側屈、肩甲帯の過剰挙上(肩すくめ) |
シャツ・ジャケットの着脱 | 内旋・伸展制限で腕を背中に回せない | 回旋運動の回避、体全体で回る動作 |
高い棚の物を取る | 外転〜屈曲の終末域で痛みや脱力が起きやすい | 肘を曲げて近づける、片足立ちで身長を稼ぐ |
寝返りや起き上がり | 肩の牽引や圧迫による夜間痛、可動域制限 | 反対側で支える、身体を固める動作 |
重い物を持ち上げる | 挙上筋力の低下、疼痛による筋出力低下 | 肘・体幹を使って代償的に持ち上げる |
● 特に困難となる「肩の挙上」
腱板の特に棘上筋が断裂している場合、外転の初動が困難になります。
このため、**60〜120°付近での挙上動作(ペインフルアーク)**に痛みや脱力を感じ、自動運動よりも他動運動の方がスムーズな場合があります。
● スポーツ・労働動作への影響
- 野球・テニスなどのオーバーヘッド動作: 投球時に肩後方の違和感・引っかかり・力が入らない感覚
- 建築・介護などの肉体労働: 繰り返し作業が難しくなる、疲労しやすい、肩の安定性に欠ける
● 痛みの種類とその時期による違い
痛みのタイプ | 時期・状況 | 原因 |
---|---|---|
動作時痛 | 挙上や外旋の使用時 | 腱板の引き伸ばし、摩擦 |
夜間痛 | 寝返りや圧迫時 | 炎症・血流障害、圧迫刺激 |
疼痛性運動制限 | 痛みで動かせない(自動運動不可、他動可) | 炎症性の疼痛、筋力低下、関節拘縮などの複合要因 |
● 肩甲上腕リズムの破綻
腱板損傷では肩甲骨と上腕骨の協調的な動き(肩甲上腕リズム)が破綻しやすく、肩甲骨の過剰な挙上や代償動作が助長されるため、さらに腱板へのストレスが増大します。
→ 動作の質の低下 → 再断裂リスクの増大にもつながるため、リハビリ介入が必須です。
理学療法評価(腱板損傷)
腱板損傷に対する理学療法評価では、「どの腱が損傷しているのか」「機能障害の程度はどれくらいか」「疼痛・筋力・可動域・動作能力への影響」を多角的に把握し、適切な治療計画を立案する必要があります。
評価は問診+視診・触診+理学的テスト+画像情報との統合がポイントです。
● 問診と主観的評価
項目 | 内容例 |
---|---|
主訴 | 肩の痛み、腕が上がらない、夜間痛、力が入らない |
発症の経過 | 外傷性 or 非外傷性、いつから痛みがあるか |
疼痛部位 | 肩峰下部、三角筋部(放散痛)、動作時と夜間どちらが強いかなど |
日常生活での支障 | 上着が着られない、高い棚に手が届かないなど |
職業・スポーツ歴 | 作業内容や運動歴(特にオーバーヘッド動作の有無) |
● 視診・触診
- 三角筋部の萎縮(慢性期に目立つ)
- 肩甲骨の位置異常(ウイングスキャプラや代償挙上)
- 肩峰下圧痛や、腱板周囲の圧痛(小結節・大結節部)
● 関節可動域(ROM)評価
- 外転・屈曲・外旋での痛みや制限を評価
- 自動・他動の違いに着目し、疼痛性か拘縮性かを判別
例:
- 自動外転 80°(痛みあり)、他動外転 160°(痛み軽減)→ 疼痛性運動制限を示唆
● 筋力評価(MMT)
特に以下の筋群を重点的に確認:
筋名 | 評価法 | 意義 |
---|---|---|
棘上筋 | ジョブテスト、ドロップアームサイン | 外転初動の筋力と痛み評価 |
棘下筋 | 外旋筋力テスト | 投球動作や肩後方安定性に関連 |
肩甲下筋 | リフトオフテスト、ベリープレス | 内旋筋力、特に中〜下方支持の安定性評価 |
● 理学的テスト(特殊テスト)
テスト名 | 判定陽性時の意味 |
---|---|
ニアーテスト | 肩峰下インピンジメント |
ホーキンステスト | 前方インピンジメント |
ドロップアームサイン | 棘上筋の断裂(中等度以上) |
ジョブ(空缶)テスト | 棘上筋の機能障害 |
ペインフルアークサイン | 60〜120°の範囲での疼痛 → インピンジメント |
ベリープレステスト | 肩甲下筋機能の障害 |
※テストの感度・特異度には限界があるため、複数のテストを組み合わせて解釈することが推奨されています
(参考:Park HB et al., J Bone Joint Surg Am. 2005)
● 動作観察・ファンクショナルテスト
- 上肢の挙上動作(肩甲上腕リズムの観察)
- 洋服の着脱・洗顔・物を取る等の模擬ADL
- 重りを持ち上げる・物を投げる等の負荷動作
● 画像所見との連携
- MRI: 腱の断裂の有無や範囲、筋萎縮、脂肪変性など
- エコー: 動的観察に有用(医師による所見を共有)
- X線: 上腕骨頭の偏位や関節間隙の狭小化(進行例)
● 評価の目的と方針立案
理学療法評価は単なる現象の記録ではなく、**「どの動作で、どの筋・関節構造にどの程度負担がかかり、何を補う必要があるか」**を明らかにするために実施します。
その上で、機能回復・再断裂予防・生活再構築のための治療戦略を明確に設定します。
理学療法治療(腱板損傷)
腱板損傷の理学療法治療は、保存療法の場合と術後リハビリの場合でフェーズが異なり、それぞれの時期に応じた段階的アプローチが必要です。目的は疼痛軽減・可動域改善・筋力回復・再発予防・ADL向上にあります。
● 保存療法における理学療法
【急性期(痛みが強い時期)】
- 目的: 炎症と疼痛のコントロール、患部の安静確保
- 対応:
- 三角巾やアームスリングなどで安静(短期間)
- アイシングや物理療法(TENS, 超音波)
- 痛みを回避した範囲での他動ROM訓練(肩関節外転・屈曲)
- 頚部・肘・手指の随意運動を並行実施
【回復期(可動域拡大期)】
- 目的: 肩関節の可動性回復と筋機能の再教育
- 対応:
- 肩甲上腕リズムを意識した自動・自動介助運動
- チューブ・ダンベルによる等張性運動(外旋・内旋・屈曲)
- インナーマッスル強化(ローテーターカフ、肩甲骨周囲筋)
- 肩甲骨の可動性改善(モビリゼーション+運動)
【機能回復期】
- 目的: 日常生活動作の再習得、再発予防
- 対応:
- スポーツや職業別の模擬動作訓練(PNF含む)
- 動作指導:代償動作の修正、筋連鎖を活かした運動再教育
- ホームエクササイズの確立と指導
● 術後の理学療法(腱板縫合術後など)
術後は医師の指示に基づき、術式・断裂の大きさ・固定期間に応じて安全なプログラムを計画します。
【術後0〜4週:固定期】
- 目的: 再断裂予防と患部の治癒促進
- 対応:
- アブダクションスリングで外転位固定(通常3〜6週)
- 手指・肘関節の運動、体幹安定化トレーニング
- 非侵襲的な振動療法や呼吸訓練の併用
【術後4〜8週:ROM回復期】
- 目的: 関節可動域の改善と肩甲骨機能の活性化
- 対応:
- 他動ROM → 自動介助運動 → 自動運動へと進行
- 肩甲骨のモビリゼーション(上方回旋、内転)
- 体幹と連動した動作指導(姿勢制御含む)
【術後8週以降:筋力再建期】
- 目的: 腱板筋の再教育と機能的筋出力の向上
- 対応:
- ゴムバンド・軽負荷での等尺性→等張性訓練
- インナーマッスルの選択的収縮訓練(低負荷・高頻度)
- CKC運動、コア安定化訓練との併用
【術後12週以降:機能再建期】
- 目的: 高度な動作能力回復と再発予防
- 対応:
- 投球動作・荷物挙上動作・職場復帰訓練
- ファンクショナルトレーニング(プライオメトリクス含む)
- 心理面・動作恐怖へのアプローチ(認知行動療法的要素も)
● 注意点と評価の連動
理学療法治療は「評価とセット」です。
単に運動を行うのではなく、「何のために何を行うのか」を明確にし、患者自身が動作を理解・習得しやすい方法で進めていくことが重要です。
特にインナーマッスルの再教育と肩甲帯の協調運動の再構築がリハビリの鍵です。
物理療法(腱板損傷)
腱板損傷の治療において、物理療法は疼痛の軽減、炎症の抑制、血流促進、治癒促進といった目的で活用されます。エビデンスのある治療法を選択し、病期・症状に応じて適切に導入することが重要です。
● 1. 温熱療法(ホットパック・マイクロ波・極超短波)
- 目的: 筋緊張の緩和、血行促進、疼痛の緩和
- 対象時期: 亜急性期~回復期
- 具体例:
- ホットパックを用いて上肢帯の筋肉(僧帽筋・棘上筋など)を温める
- 極超短波(SWD)を肩関節周囲に照射し、深部温熱効果を狙う
- エビデンス: 温熱療法は筋スパズムの緩和と疼痛軽減に一定の効果が示されています(Yamashita et al., 2013, J Phys Ther Sci)
● 2. 電気刺激療法(TENS/NMES)
- TENS(経皮的電気刺激療法)
- 目的: 疼痛抑制(ゲートコントロール理論に基づく)
- 適応: 保存療法中や術後早期の痛みが強い時期に有効
- 使い方: 棘上筋・棘下筋周辺に電極を配置し、痛みの知覚を遮断
- エビデンス: TENSは術後の肩関節痛に対して即時的な鎮痛効果を有すると報告あり(Johnson et al., 2015)
- NMES(神経筋電気刺激)
- 目的: 筋力低下予防、筋再教育
- 適応: ローテーターカフ筋群や三角筋の収縮促進
- 使用例: 中周波域での刺激により筋収縮を誘導、活動低下を補う
● 3. 超音波療法(US)
- 目的: 組織修復の促進、炎症の抑制、瘢痕組織の軟化
- 使用時期: 亜急性期~慢性期
- 方法: 周波数1MHzで深部、3MHzで浅部をターゲットに照射
- ポイント:
- 腱板周囲に低出力でパルス波を当てる
- 骨頭との境界ではキャビテーションに注意
- エビデンス: 超音波療法は腱修復促進の一助となる可能性があり(Nakamura et al., 2018)、特に非連続断裂の保存療法に対して有効
● 4. レーザー治療(LLLT)
- 目的: 炎症反応の抑制、組織修復の促進
- 対応機器: 低出力レーザー(830nmなど)を用いた局所照射
- 適応: 慢性化した肩関節痛、治癒遅延部位
- エビデンス: 一部のメタ分析で、LLLTが肩の慢性痛に有効とされている(Chow et al., 2009)
● 5. 振動刺激・体幹安定装置(補助的アプローチ)
- 全身振動刺激装置(WBV)や体幹支持装置を併用し、中枢神経の活性化やコアの安定性を高める手法も報告されています。
- 特に術後の体幹ー肩甲帯協調運動を促進するための感覚入力として有効。
● 実施上の注意点
- 禁忌確認(ペースメーカー・悪性腫瘍・感染・妊娠部位など)
- 温熱刺激や電気刺激の過剰使用は逆効果になる場合もあるため、症状の経過と併せた使用が前提です。
● まとめ
腱板損傷に対する物理療法は、補助的治療として非常に有効です。ただし、それ単体での治癒は難しく、運動療法や徒手療法との併用が必須となります。患者の状態・術式・病期をふまえた、段階的かつ個別性ある介入が求められます。
ホームエクササイズ(腱板損傷)
腱板損傷に対するホームエクササイズ(HE)は、術後や保存療法中の再発予防・可動域維持・筋力回復に重要です。特に通院間隔が空く在宅期間に、安全かつ段階的に行える運動が推奨されます。
● 1. ホームエクササイズの目的
目的 | 説明 |
---|---|
関節可動域の維持 | 凝り固まりやすい肩関節の拘縮を予防。 |
筋力・筋持久力の再建 | 腱板筋群や肩甲帯筋の萎縮・脱力の進行を抑える。 |
協調運動の再学習 | 肩甲上腕リズムなど、複合的な関節運動の協調性を高める。 |
再損傷・再発予防 | 過負荷を回避しながら、適切な動きの再習得を図る。 |
● 2. 基本的なホームエクササイズ(術後早期〜回復期)
・振り子運動(Codman運動)
- 目的: 重力を使って肩関節周囲の緊張を減らす
- 方法: 体幹を前傾し、腕を垂らして左右・前後に軽く揺らす
- ポイント: 筋収縮を伴わない、関節の自然な動きを誘導する
・テーブルスライド運動(肩屈曲・外転)
- 目的: 自動介助運動によるROM拡大
- 方法: テーブルに腕を乗せ、タオルを敷いて前方・外側へ滑らせる
- 注意: 肩がすくまないようにする
・壁を使ったクロール運動(ウォールウォーク)
- 目的: 漸進的な屈曲・外転の向上
- 方法: 指を使って壁を這わせ、徐々に可動域を広げる
- 頻度: 1日2~3回、各10回を目安に
● 3. 中〜後期にかけた筋力トレーニング
・チューブエクササイズ(外旋・内旋)
- 対象筋: 棘下筋・小円筋(外旋)、肩甲下筋(内旋)
- 方法:
- ドアノブなどにセラバンドを固定し、軽度外転位での回旋運動を行う
- 肘は体側に固定、反動をつけずゆっくり行う
・肩甲骨周囲筋トレーニング
- 運動例:
- 肩甲骨のリトラクション運動(肩甲骨寄せ)
- セラバンドを両手に持ち、胸を張りながら引き合う
- 目的: 肩甲骨の安定性確保による代償防止
● 4. 安全に行うためのポイント
- 痛みが出る動作は避ける
- 反動をつけずにゆっくり行う
- 肩がすくまないように注意
- 回数: 1セット10回前後、無理のない回数で1日2〜3回が目安
● エビデンスと臨床研究
“早期からの自動介助運動とチューブエクササイズの併用により、術後6ヶ月時点での機能スコア(Constant score, ASES score)が有意に改善した”
(Nakata et al., 2020, J Shoulder Elbow Surg)
● まとめ
腱板損傷後のホームエクササイズは、継続と正しいフォームが鍵です。医療従事者による定期的なチェックを受けながら、段階的に難度を上げていくことが安全で効果的です。
国家試験対策
理学療法士・作業療法士国家試験において「腱板損傷」は運動器疾患の頻出テーマであり、構造・病態・評価・術後管理まで幅広く出題されます。以下に重要ポイントを整理します。
● 国家試験に出やすい重要ポイント
出題項目 | 内容 |
---|---|
腱板の構成筋 | 棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋(全て覚える!) |
好発部位 | 棘上筋腱(特に骨頭付着部に多い) |
好発年齢 | 50歳以降(加齢による変性断裂) |
疼痛誘発テスト | ドロップアームテスト、ペインフルアークサイン、エンプティカンなど |
鑑別すべき疾患 | 変形性肩関節症、肩峰下滑液包炎、石灰沈着性腱炎など |
画像所見 | MRIで腱断裂・筋萎縮・脂肪変性を評価 |
手術名 | 腱板修復術、肩峰形成術(インピンジメント合併時) |
術後リハビリの留意点 | 6週以内の強制的な外転・挙上運動は禁忌 |
筋力低下しやすい筋群 | 棘上筋、棘下筋など(回旋運動に関与) |
● よく問われるテストの特徴と要点
テスト名 | 判定方法とポイント |
---|---|
ドロップアームテスト | 外転90°からゆっくり下ろす→途中で落下すれば陽性(棘上筋損傷) |
エンプティカンテスト | 内旋・水平内転での挙上→痛みが誘発されれば陽性(棘上筋) |
ペインフルアーク | 外転時に60~120°で痛み→腱板や滑液包の障害の可能性 |
● 押さえておくべき語句(そのまま覚える!)
- 腱板断裂 → 退行変性、反復性外傷、インピンジメント症候群
- 断裂分類 → 部分断裂(partial tear)・完全断裂(full thickness tear)
- 手術法 → 関節鏡視下腱板修復術(ARCR)
- 可動域制限 → 屈曲・外転・外旋制限が主体
- 術後管理 → 外転装具使用・徐々に自動運動へ移行
● 練習問題(例)
Q1. 腱板を構成する筋肉でないものはどれか。
A. 棘上筋 B. 棘下筋 C. 肩甲下筋 D. 三角筋 E. 小円筋
→ 正答:D(三角筋)
Q2. ドロップアームテストで評価される筋はどれか。
A. 肩甲下筋 B. 棘上筋 C. 三角筋 D. 上腕二頭筋 E. 菱形筋
→ 正答:B(棘上筋)
● まとめ(試験対策のポイント)
- 腱板4筋とその役割は確実に暗記
- 痛みの誘発テストの名称と特徴を整理
- 術後のリハビリでの禁忌事項を確認
- 好発年齢・好発部位・画像所見など典型例を押さえる
Q&A(腱板損傷)
Q1. 腱板損傷は自然に治ることがありますか?
A. 小さな部分断裂の場合、保存療法で症状が軽快することもありますが、断裂部が自然に再生することは少なく、放置すると進行する恐れがあります。MRIでの経過観察と理学療法士による評価が重要です。
Q2. 腱板損傷と四十肩(肩関節周囲炎)はどう違うのですか?
A. 腱板損傷は腱そのものの損傷(断裂)が主体ですが、四十肩は関節包の炎症や拘縮によって可動域制限や痛みが生じます。鑑別にはMRIや超音波検査、誘発テストなどが有用です。
Q3. 腱板断裂があるとすぐに手術が必要ですか?
A. 全例が手術適応ではありません。年齢、活動レベル、断裂の大きさ、症状の程度を考慮して保存療法か手術療法かを選択します。特に高齢者では保存療法で経過を見るケースもあります。
Q4. 腱板損傷の術後にリハビリはどれくらい必要ですか?
A. 手術後は6週間程度の外転装具固定期を経て、徐々に可動域訓練や筋力訓練を進めます。リハビリは3〜6か月、スポーツ復帰には6か月以上かかることもあります。焦らず段階的に行うことが大切です。
Q5. 腱板損傷は予防できますか?
A. 加齢による退行変性は避けられませんが、肩関節周囲筋の筋力維持、過度な反復動作の回避、正しいフォームの習得などで損傷のリスクを減らせます。運動前のウォームアップとクールダウンも重要です。
最新ガイドライン(腱板損傷)
腱板損傷に対する最新の医療ガイドラインは、日本整形外科学会(JOA)や米国整形外科学会(AAOS)、および国際的な肩関節関連学会(ICSES)などから発信されています。以下に要点をまとめます。
1. 診断に関するガイドライン
- MRIまたは超音波検査を第一選択とする
→ ガイドラインでは、腱板断裂の確定診断に画像検査が不可欠であるとされており、特にMRIが損傷範囲の把握に有用(AAOS, 2020)。 - 徒手テストの組み合わせが診断精度を向上させる
→ Jobeテスト、Drop arm testなどの感度・特異度の高い複数の徒手テストを組み合わせることが推奨されています(JOA臨床診療指針, 2023)。
2. 治療に関するガイドライン
- 小断裂または部分断裂は保存療法を第一選択
→ 非手術療法(運動療法・物理療法)が有効とされ、特に症状の軽度な高齢者において保存療法の推奨度は高い(ICSES 2022 consensus statement)。 - 若年者や活動性の高い患者には早期手術を検討
→ 完全断裂で、労働復帰やスポーツ復帰が求められる場合は手術が推奨されています(AAOS, 2020)。 - 術後リハビリテーションは個別性重視
→ 早期他動運動 vs 安静固定の議論はありますが、損傷の程度や術式に応じた段階的なプログラムが重要とされています(JOAガイドライン, 2023)。
3. エビデンスに基づいた補足
推奨内容 | 推奨度 | エビデンスグレード |
---|---|---|
MRIによる診断 | A | 高 |
部分断裂への保存療法 | A | 高 |
若年者の完全断裂への手術 | A | 中〜高 |
術後個別リハビリ | B | 中 |
(参考:JOA臨床診療ガイドライン 肩関節疾患 2023版/AAOS Clinical Practice Guidelines for Rotator Cuff Injuries 2020)
肩関節についての書籍紹介
- 『肩関節理学療法マネジメント−機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く』(村木 孝行、甲斐 義浩、メジカルビュー社)
- 『肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)』(村木 孝行、三木 貴弘、羊土社)
- 『肩関節障害に対する機能評価からの治療戦略(MB Medical Rehabilitation(メディカルリハビリテーション)No.304(2024年9月号))』(西中 直也、全日本病院出版会)
- 『臨床実践 肩関節の理学療法 (教科書にはない敏腕PTのテクニック)』(松尾善美、橋本雅至、村西壽祥、文光社)
- 『運動のつながりから導く肩の理学療法』(千葉 慎一、文光堂)
- 『肩関節運動機能障害: 何を考え、どう対処するか (実践mook・理学療法プラクティス) 』(嶋田 智明、文光堂)
まとめ
腱板損傷は、中高年に多く発生する肩関節疾患であり、加齢や反復動作、外傷などが主な原因です。損傷の進行により、肩の運動制限や夜間痛、筋力低下を伴いやすく、患者のQOL(生活の質)に大きく影響します。
評価においては、視診・触診・徒手検査・画像評価を多角的に実施し、保存療法と手術療法の選択に役立てることが重要です。理学療法では、疼痛管理、関節可動域の維持・改善、筋力トレーニング、物理療法を段階的に進め、再発予防にも配慮したプログラムを構築していく必要があります。
また、術後リハビリでは修復組織の保護と運動再開のバランスが求められ、早期の社会復帰を目指す上で、個別性を重視した対応が不可欠です。
腱板損傷に対しては、ガイドラインやエビデンスを基にした科学的なアプローチを取り入れることで、より効果的かつ再現性の高い理学療法が提供可能になります。
さいごに
腱板損傷はその程度や原因、個人の身体的背景によって症状や治療の経過が大きく異なります。
この記事で紹介した内容は、あくまで一般的な知識や理学療法の基礎方針に基づいたものであり、すべてのケースに当てはまるわけではありません。
肩の痛みや運動障害が続く場合には、自己判断を避け、必ず整形外科や専門医の診察を受けるようにしてください。
また、理学療法や運動療法の実施にあたっては、医師や理学療法士の指導のもとで、安全かつ適切に行うことが大切です。
本ブログでは、今後もエビデンスに基づく情報をもとに、わかりやすく信頼できる医療情報を発信してまいります。
参考文献
- 日本整形外科学会. 肩関節疾患の診療ガイドライン 改訂第2版. 南江堂, 2021.
- 平田雅之, 西良浩一. 肩関節疾患の診断と治療―腱板断裂を中心に. 日本臨床整形外科医会雑誌, 2015; 20(1): 10-16.
- Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010; 19(1): 116–120. doi:10.1016/j.jse.2009.04.006
- 中村隆一. 肩関節の機能解剖と運動療法 改訂第2版. 文光堂, 2020.
- 今釜史郎. 肩の理学療法 臨床実践ガイド. 医学書院, 2019.
- 厚生労働省. 国民生活基礎調査(令和5年版)
- 平田雅之. 肩関節鏡視下腱板修復術の術後リハビリテーション. 理学療法学, 2014; 41(7): 565-570.
- Seitz AL, McClure PW, Finucane S, Boardman ND 3rd, Michener LA. Mechanisms of rotator cuff tendinopathy: intrinsic, extrinsic, or both? Clin Biomech (Bristol, Avon). 2011; 26(1): 1–12.
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