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変形性膝関節症|若手医療従事者のための完全ガイド【手術・リハ・国家試験対策も】

変形性膝関節症|若手医療従事者のための完全ガイド【手術・リハ・国家試験対策も】 疾患別
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高齢者に多い「変形性膝関節症」は、膝の痛みや歩行障害を引き起こす代表的な疾患です。この記事では、医療学生〜若手医療従事者を対象に、一般の方にもわかりやすく、膝OAの統計・原因・手術・リハビリ評価・治療方法・国家試験対策・エビデンス付きホームエクササイズまで網羅的に解説します。

🌎統計|どれくらいの人が膝OAを抱えている?

変形性膝関節症は、日本全国で約2530万人が罹患しているとされる非常に多い疾患です(Yoshimura et al., 2009)。

  • 有症状者:約800万人
  • 無症候性の変形所見を持つ人:約1700万人

特に女性に多く、60代以降から急増し、80歳以上では50%以上に変形がみられるという報告もあります(厚生労働省・国民生活基礎調査 2022)。


🦵原因(分類や好発年齢など)

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:KOA)の原因は、大きく一次性(特発性)と二次性に分けられます。
さらに、生活習慣や関節メカニクス、遺伝的背景など複合的な要因が影響しています。

✅一次性変形性膝関節症(特発性)

明確な原因が特定できないものを「一次性」と呼びます。加齢とともに発症率が高まり、以下のような要素がリスクとなります。

要因解説
加齢軟骨の摩耗や関節の水分量低下により、関節の緩衝機能が低下(Yoshimura N. et al., 2012)
性別女性に多く、特に閉経後の女性に好発(エストロゲン減少が関与)※(Spector TD et al., Arthritis Rheum. 1996)
肥満膝への負担が増加(体重1kg増えるごとに膝への負荷は約3kg分増)※(Felson DT et al., Ann Intern Med. 1992)
筋力低下大腿四頭筋の筋力低下により膝関節の安定性が損なわれる(Sharma L. et al., Arthritis Rheum. 2003)
歩行・生活習慣長時間の立ち仕事、正座習慣など膝に負荷のかかる生活(Ishibashi M. et al., J Orthop Sci. 2011)

好発年齢と性差

  • 50歳以降に増加。特に60歳以上の女性で発症率が高くなります。
  • 日本における大規模疫学調査(ROAD study)では、60歳以上女性の約42%がX線上でKOAを有すると報告されています(Yoshimura N. et al., J Bone Miner Metab. 2012)。

✅二次性変形性膝関節症

明らかな原因や基礎疾患がある場合は、二次性と分類されます。比較的若年者でも起こる可能性があり、予防的介入が重要です。

原因
外傷性骨折・靭帯損傷・半月板損傷など(不適切な治癒後に関節不適合)※(Papalia R. et al., Br Med Bull. 2013)
代謝性疾患痛風、偽痛風(ピロリン酸カルシウム沈着症)など
炎症性疾患関節リウマチ、乾癬性関節炎 など
先天異常先天性膝関節形成不全、O脚/X脚の構造的異常
過使用・スポーツ歴若年時の過度なスポーツによる微細損傷の蓄積(例:サッカー、ラグビー)※(Lohmander LS et al., Osteoarthritis Cartilage. 2004)

✅力学的因子と関節アライメント

膝関節におけるアライメント異常も発症に大きく影響します。

  • **内反変形(O脚)**があると内側関節への負荷が増え、内側型OAに。
  • 逆に**外反変形(X脚)**は外側型OAに移行しやすい。
  • 長期間にわたる関節の不均等荷重が関節軟骨を摩耗させ、骨棘や関節裂隙狭小化などの退行変性を引き起こします(Cooke TD et al., Clin Orthop Relat Res. 1997)。

✅遺伝的要因

  • 家族歴のある人では、軟骨代謝酵素やコラーゲン合成に関する遺伝的多型が関連しているとの報告もあります(Valdes AM et al., Nat Genet. 2008)。
  • 特に女性では母娘での発症が一致しやすいという報告もあり、遺伝因子が疑われています。

✅ホルモン・内分泌の影響

  • 女性ホルモン(エストロゲン)には抗炎症・骨保護作用があるため、閉経後のエストロゲン減少はKOAの進行リスクを高めると考えられています(Spector TD et al., 1996)。

📙出現しやすい疾患との関係

  • 半月板損傷(特に内側)
  • 前十字靭帯損傷後のOA変化
  • 関節リウマチ
  • 骨粗鬆症に伴う膝内側荷重変化

これらを併発している場合、関節の変形進行が早くなる傾向があります。

半月板損傷については別記事👉『半月板損傷とは?原因・症状・理学療法まで解説』で詳しく解説しています。


📙解剖学|膝関節の構造を理解する

膝関節は、大腿骨・脛骨・膝蓋骨の3つの骨から構成され、滑膜・軟骨・半月板・靭帯が安定性と可動性を支えています。

  • 関節裂隙が狭小化 → OAの進行サイン
  • 内側コンパートメントに変形が多い(内反膝)

🧤手術適応

以下のようなケースでは手術が検討されます:

  • 保存療法(リハビリ・薬)で6ヶ月以上改善が見られない
  • 歩行困難、階段昇降不能などの日常生活動作の著しい制限
  • 関節変形が高度(Kellgren-Lawrence Grade III〜IV)

🧤手術の種類

手術名説明
高位脛骨骨切り術(HTO)内反膝に対して脛骨の角度を矯正
人工膝関節全置換術(TKA)関節全体を人工関節に置換
単顆置換術(UKA)内側または外側のみを人工関節に置換

それぞれ年齢・活動度・関節変形の程度によって使い分けられます。


💪筋力低下しやすい筋肉

  • 大腿四頭筋(特に内側広筋)
  • ハムストリングス
  • 下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)

痛みによる不動や歩行制限により、筋萎縮が急速に進行することが多いです。

痛みによる異常歩行は別記事で解説👉『跛行とは?原因となる筋力低下・起こりやすい疾患・リハビリアプローチを徹底解説!


📙動作への影響

変形性膝関節症(以下、膝OA)は、主に以下のような日常生活動作(ADL)や移動動作に影響を及ぼします。

  • 歩行
    • 初期は長距離歩行で痛みが出る程度ですが、進行すると数十メートルの歩行でも痛みが生じます。
    • 内反変形(O脚)の進行により、膝関節内側への負荷が増大し、歩行中の膝の内側への不安定感疼痛が顕著になります。
    • また、歩幅の減少・速度の低下・立脚期の短縮など、アンチ・アトラクティブ(非対称)な歩容が特徴的です。
  • 階段昇降
    • 膝関節の屈伸角度が大きくなる階段動作は特に困難。
    • 階段降下時には大腿四頭筋の遠心性収縮が必要ですが、筋力低下や痛みにより片脚ずつの踏み換え動作になる例が多いです。
  • 椅子への立ち座り
    • 膝関節屈曲に伴う疼痛や、立ち上がり時の荷重負荷が強く、体幹を前傾させて両手で補助しながら動作する傾向があります。
  • 正座やしゃがみ込み
    • 膝関節屈曲制限により不可能、あるいは非常に困難なことが多く、和式トイレや床座生活が難しくなる原因となります。

📙理学療法評価

✅保存療法中の理学療法評価

評価項目内容
疼痛VAS、圧痛部位(内側裂隙、鵞足など)の触診
関節可動域(ROM)屈曲制限:和式生活困難、伸展制限:膝折れリスク
筋力大腿四頭筋・ハムストリングス・中臀筋(MMT・5STS)
動作分析歩行・立ち上がり・階段動作での疼痛誘発パターンの観察

💡 MEMO:保存療法中は「症状の出やすい動作」を特定し、関節負荷を下げる運動指導が重要です。


✅術後リハビリ中の理学療法評価(TKA/UKA)

時期評価項目内容
術後急性期(〜1週)ROM、創部、荷重制限屈曲90°・伸展0°目標、術創状態と医師指示の確認
術後回復期(2〜8週)歩行能力、膝蓋骨滑走、筋力6分間歩行、TUG、膝周囲筋の評価と周径計測

ワンポイント:TKAは膝蓋骨の癒着予防、UKAは早期荷重と筋再教育がカギになります。


📙理学療法治療

✅保存療法中の理学療法治療

目的方法ポイント
筋力強化セッティング、SLR、殿筋トレ痛みを避けつつ中臀筋・四頭筋を重点的に
疼痛軽減ホットパック、TENS、筋膜リリース関節周囲の循環促進と疼痛制御
装具・テーピング外側楔状インソール、膝蓋テープ荷重線の調整と膝蓋骨の軌道改善

📌 保存期のキーワード:「無理なく」「反復可能」「疼痛コントロール」!


✅術後リハビリ中の理学療法治療(TKA/UKA)

時期目的方法留意点
急性期(〜1週)血栓予防・ROM確保足関節ポンプ、CPM、アイシング荷重は術者指示で調整。痛み管理が最優先
回復期(2〜8週)筋再教育・歩行能力回復膝蓋骨モビ、スクワット、荷重訓練ステップ練習や神経筋制御に移行

💬 術後注意点:術後の筋抑制を早期に解除し、生活動作に戻す橋渡しをリハビリが担います。

💡物理療法

✅保存療法中の物理療法

目的方法内容・注意点
疼痛軽減ホットパック(HP)温熱刺激による血流改善・筋緊張緩和(15分程度)
炎症抑制超音波療法(US)深部温熱 or 非熱モードで滑膜炎症への対応(1MHz/3MHz)
神経調整経皮的電気刺激療法(TENS)皮膚表面から痛みの閾値を下げ、鎮痛(低頻度・高頻度併用)
関節潤滑促進マイクロ波・極超短波シノビアルフルイド促進、寒冷期に有効な全体加温も可能
  • Kubo, S., et al. (2015).「TENSによる膝OA患者の疼痛軽減効果」Jpn J Rehabil Med.
  • 高橋ら(2021)『物理療法学 改訂第2版』(医歯薬出版)

✅術後リハビリ期の物理療法

時期方法内容・目的
急性期(術後〜7日)アイスマッサージ・冷却パック炎症・浮腫・術後痛の軽減(10〜15分、1日数回)
回復期(2週〜)超音波/低出力レーザー創部周囲の軟部組織修復促進(医師指示下)
筋再教育NMES(神経筋電気刺激)大腿四頭筋の自動収縮困難時に併用(ACL・TKA後にエビデンスあり)

📌 術後物理療法のポイント

  • 創部と機器の接触は厳密に管理し、感染リスクを防ぐ。
  • NMESはRCTで筋力回復効果が示されており、特に術後2週以内の導入が推奨(Morrissey et al., 2017)。

💪ホームエクササイズ(保存期・術後期共通)

目的種目方法と注意点
膝周囲筋の強化セッティング運動ベッド上で膝裏にタオルを置き、圧迫(10秒×10回)
四頭筋活性SLR(Straight Leg Raise)仰向け→膝伸展保持で30°挙上(疲労度を確認)
股関節外転強化側臥位殿筋トレーニング中臀筋・大腿筋膜張筋ターゲット(骨盤の回旋に注意)
膝蓋骨の可動性維持(術後)パテラモビライゼーション術後2週以降、上下左右に軽く動かす(疼痛なければOK)
歩行訓練平地・段差練習1日3回程度、階段昇降は非患側から指導を徹底

💡 患者さん向け指導文例:「痛みが出ない範囲で毎日こつこつ。無理に回数を増やすより、“続けられる範囲”が大切です。」


✅ホームエクササイズの継続支援ポイント

  • 📆 チェックリストや記録表の配布で継続率UP
  • 📸 自宅での正しいフォーム確認にはリーフレットや動画教材が有効
  • 🗣️「毎日できなくてもOK。3日に1回でも意味があります」という心理的ハードルを下げる声かけを

✅エビデンスメモ

  • TENSは保存期のOA疼痛軽減に対し有効性が高い(Khurana et al., 2022, J Clin Orthop Trauma
  • NMESは術後早期の大腿四頭筋再教育にRCTレベルの効果あり(Stevens-Lapsley et al., 2012)

✅ 国家試験対策

出題されやすいテーマ別まとめ

出題テーマよく出る内容覚え方のポイント
好発中高年、女性、肥満「膝は中年女性の悲鳴」など語呂合わせOK
原因・病態関節軟骨の変性・骨棘形成・関節裂隙狭小画像所見と対応させて覚える
症状膝の痛み、可動域制限、O脚、こわばり運動開始時痛と可動域制限に注目
レントゲン所見Kellgren-Lawrence分類(I〜IV)グレード別の違いと画像を見て慣れる
保存療法筋トレ(大腿四頭筋)、減量、杖基本的な保存手段をセットで覚える
手術療法TKA・UKA・骨切り術手術名の略語・適応・禁忌を整理
理学療法ROM訓練、筋力強化、歩行訓練保存・術後で目的と内容が変わる点を強調

🧠 覚えておくべき用語集

  • Kellgren-Lawrence分類:X線でのOA重症度評価(Grade 0〜4)
  • 運動開始時痛:典型的なOA初期症状、安静→動作で痛み
  • 骨棘(osteophyte):関節縁にできる骨のトゲ
  • 膝蓋骨可動性:術後リハで癒着を防ぐポイント
  • 外側楔状インソール:保存療法での荷重線調整

📝 過去問傾向(抜粋)

年度出題内容正解のキーワード
第58回膝OA患者に有効な装具療法外側楔状インソール
第57回TKA後のROM訓練で避けるべきこと術創部への過度な負荷
第56回保存療法に有効な筋力強化大腿四頭筋強化

💡 過去問は「関節可動域」「筋力」「補装具」分野で繰り返し出題されているので、実技・記述の両方に対応できるようにしましょう。

国家試験では、変形性膝関節症の**「原因」「画像所見」「治療法」「リハビリ内容」が一通り問われます。特に保存療法と術後の違いを押さえているかどうか**が合否を分けるポイント。
過去問と併せて、実臨床で使う知識を体系的に理解しておくことが合格への近道です。


📚Q&A

Q:膝OAは歩いていいの?
A:**痛みの程度に応じて歩行は可能です。**負荷が強すぎないように、補助具や歩行時間の調整が重要です。


📚最新ガイドライン

📘『変形性膝関節症診療ガイドライン2020(日本整形外科学会)』では、

  • 保存療法の第一選択(理学療法、減量、疼痛管理)
  • 症状や重症度に応じた手術の検討
  • 患者教育と自己管理の重要性

が示されています。

📚書籍紹介

以下の書籍は膝OAを理解する上で役立つ医学書です。

  1. 『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学』→Amazonリンク
  2. 『膝関節理学療法マネジメント−機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く』→Amazonリンク
  3. 『運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹』→Amazonリンク
  4. 『膝関節機能障害のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)』→ Amazonリンク

💡まとめ

変形性膝関節症は高齢者に多い疾患であり、早期発見と多角的なアプローチが回復の鍵となります。保存療法をベースにしつつ、必要に応じて手術や家庭での運動も大切です。


💡さいごに(注意文)

本記事は一般的な知識に基づいており、症状や病態は個人差があります。症状が持続する場合や判断に迷う場合は、**整形外科を受診し専門医の評価を受けてください。**自己判断での治療は避けましょう。


📚参考文献

  • Yoshimura N, et al. (2009). Cohort Study of Osteoarthritis of the Knee. J Bone Joint Surg Br.
  • 厚生労働省 国民生活基礎調査 2022
  • 日本整形外科学会『変形性膝関節症診療ガイドライン2020』
  • J-STAGE:物理療法の疼痛緩和効果に関する研究(2021)
  • 山口光國『膝関節理学療法マネジメント』医歯薬出版
  • Yoshimura N, et al. “Epidemiology of knee osteoarthritis.” J Bone Miner Metab. 2012.
  • Felson DT, et al. “Obesity and knee osteoarthritis.” Ann Intern Med. 1992.
  • Papalia R, et al. “Post-traumatic osteoarthritis after ACL injury.” Br Med Bull. 2013.
  • Spector TD, et al. “Hormonal factors and osteoarthritis.” Arthritis Rheum. 1996.
  • Valdes AM, et al. “Genetics of osteoarthritis.” Nat Genet. 2008.

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