膝の痛みや引っかかり感、クリック音。
これらの症状に悩む患者さんを前に、あなたは「半月板損傷」をすぐに思い浮かべますか?
本記事では、医療学生〜新人医療従事者に向けて、半月板損傷の原因、解剖、診断、手術の適応や種類、術後のリハビリ評価と訓練内容、国家試験でのポイントまで網羅的に解説します。
国家試験の暗記だけでなく、実際の臨床場面でも「この知識が生きる」と実感できるよう、エビデンスを交えて解説します。
🌎統計(J-STAGEなどからのデータ想定)
日本国内では、膝関節の外傷性疾患として「半月板損傷」は非常に多く、特にスポーツによる受傷が全体の60〜70%を占めています(文献1)。
また、加齢変性により中高年層にも頻発し、MRIを用いた疫学研究では中高年の約30〜40%に何らかの半月板損傷がみられると報告されています(Englund et al., 2008)。
男女比では男性がやや多く、スポーツ歴のある若年男性、あるいは膝OAとの関連での中高年女性に二峰性の分布を示すことが知られています。
🦵原因(分類や好発年齢など)
半月板損傷の原因は、外傷性と変性性に大きく分類されます。それぞれの特徴と好発年齢を理解することが、適切な評価・治療方針を立てるうえで重要です。
✅外傷性半月板損傷
外傷性損傷は、スポーツ活動中の膝の捻り(回旋)や衝突によって発生します。特に、ジャンプ後の着地や急激な方向転換時に膝関節に過剰な回旋ストレスがかかることで損傷が生じやすくなります。好発年齢は10代後半〜30代前半で、活動性の高い若年層に多く見られます。
代表的なスポーツ
- サッカー
- バスケットボール
- ラグビー
- スキー など
また、外傷性半月板損傷は前十字靭帯(ACL)損傷と合併して起こることも多く、ACL再建術時に同時に修復が行われることもあります(Nakayama et al., 2018)。
✅変性性半月板損傷
変性性損傷は、加齢に伴う半月板の水分保持力や柔軟性の低下により、日常生活動作の中で徐々に摩耗・断裂していくタイプです。好発年齢は40代以降で、特に膝関節症の進行とともにリスクが高まります。
変性損傷のリスク因子
- 加齢
- 肥満
- 長時間の立位・歩行を伴う仕事
- 既往歴に膝の外傷がある場合
MRIでの検出率は、60歳以上の無症候性成人でも30〜60%程度とされており(Englund et al., 2008)、必ずしも痛みの原因とは限らないこともあります。
✅半月板損傷の分類
損傷の形態によって、以下のように分類されます(Arnoczky & Warren, 1983):
分類 | 特徴 |
---|---|
縦断裂(縦裂) | 膝の縦方向に沿った断裂で、比較的修復しやすい |
横断裂(横裂) | 半月板の中心から周囲に向かって裂ける |
バケツ柄断裂 | 内縁部が反転し、ロッキングを引き起こす可能性 |
フラップ断裂 | 半月板の一部が剥がれたような形状 |
複合断裂 | 複数の損傷パターンが混在 |
これらの分類や年齢による傾向は、後述する「手術適応」や「理学療法方針」にも大きく関わってきます。
🦵出現しやすい疾患
半月板損傷は、単独で起こる場合もありますが、他の膝関節周囲の疾患と合併して見られることも少なくありません。臨床現場では、こうした合併疾患の存在に注意しながら多角的に評価を進める必要があります。
✅前十字靭帯損傷(ACL損傷)
スポーツ外傷による膝の損傷では、前十字靭帯(ACL)と半月板が同時に損傷するケースが頻発します。ACL損傷患者のうち、最大で50〜65%に内側半月板損傷が、20〜30%に外側半月板損傷が見られると報告されています(Spindler et al., 2003)。
ACLが不安定な状態では、膝関節の微細なぐらつきが日常的に発生し、それによって半月板へのストレスが蓄積され、二次的に損傷するリスクが高まります。
✅変形性膝関節症(OA:Osteoarthritis)
変性性半月板損傷は、中高年に多く見られる変形性膝関節症と密接な関連があります。加齢による軟骨の摩耗とともに、半月板も水分含有量が低下し、柔軟性を失うため、日常的な動作で断裂しやすくなります。
変性性OAと診断される前段階で、実は半月板の損傷が先行して発生していることもあり、「半月板損傷が変形性膝関節症の前駆病変である」とする報告もあります(Englund et al., 2009)。
変形性膝関節症については、別記事🫱『変形性膝関節症|若手医療従事者のための完全ガイド【手術・リハ・国家試験対策も】』で詳しく解説🦵
✅後十字靭帯損傷(PCL損傷)
後十字靭帯損傷では、半月板損傷の合併率は比較的低いものの、特に外側半月板との関連が示唆されています。車の衝突事故や転倒などで、膝が強く後方に押し込まれる外傷で生じます。
✅膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼により、膝関節に異常な捻転が生じると、特に外側半月板への損傷リスクが増大します。MRIでは、膝蓋骨周囲の骨挫傷とともに半月板損傷を認めるケースもあります。
🦵解剖学
半月板(meniscus)は、膝関節の大腿骨と脛骨の間に位置する線維軟骨組織で、膝の安定性・荷重分散・関節保護に重要な役割を果たしています。ヒトの半月板は、内側半月板(medial meniscus)と外側半月板(lateral meniscus)の2つから構成され、それぞれ形状・動き・損傷の好発部位に違いがあります。
✅内側半月板と外側半月板の構造的特徴
特徴 | 内側半月板 | 外側半月板 |
---|---|---|
形状 | C字型 | O字型(円形に近い) |
固定性 | 靭帯との連結が強く、可動性が少ない | 可動性が高く、損傷されにくい |
靭帯との関係 | 関節包・内側側副靭帯と癒着あり | 外側側副靭帯とは癒着なし |
損傷頻度 | 高い(損傷されやすい) | 低い(可動性により損傷されにくい) |

✅血流分布と「赤白帯」理論
半月板の修復性に関係する重要な知識として、「赤白帯」の概念があります。
- 赤赤帯(Red-Red Zone): 外側1/3に位置し、豊富な血流があり、自然治癒や縫合の効果が期待できる
- 赤白帯(Red-White Zone): 中間部。部分的に血流あり
- 白白帯(White-White Zone): 内側1/3に位置し、血流が乏しく、自然治癒が困難
この血流分布の違いは、手術適応や理学療法の経過予測に大きく影響します。
✅関連する解剖構造
- 大腿骨内・外顆
- 脛骨プラトー
- 内側側副靭帯(MCL)・外側側副靭帯(LCL)
- 前十字靭帯(ACL)・後十字靭帯(PCL)

これらの構造と半月板は立体的かつ機能的に密接に連動しており、膝関節の滑らかな運動と安定性を保っています。たとえば、膝屈曲時には半月板が後方へ移動し、大腿骨顆の滑り運動をサポートします。
🏥手術適応
半月板損傷に対しては、必ずしもすべての症例で手術が必要というわけではありません。保存療法が有効なケースと、手術療法が適応となるケースを明確に見極めることが、理学療法や患者指導において重要な知識となります。
✅手術適応の主な判断基準
以下のような条件がある場合、保存療法では改善が期待しにくく、手術の適応となることが多いとされています。
適応条件 | 説明 |
---|---|
強いロッキング症状 | 関節内で半月板が挟まり、完全伸展・屈曲できない |
持続する疼痛・腫脹 | 3か月以上の保存療法でも改善しない |
明らかな関節機能障害 | 歩行困難や階段昇降不可など、ADL制限が顕著 |
MRIで修復困難な断裂形状 | バケツハンドル断裂などの複雑断裂 |
関節内遊離体を伴う場合 | 関節ネズミが関節内に存在し、機械的障害を引き起こす |
若年スポーツ選手 | 半月板温存が必要な競技復帰希望者など |
✅特に注意すべき断裂形状
断裂のパターンによっても、保存可能か手術適応かが変わってきます。以下に代表的な分類と手術適応傾向をまとめます。
断裂形状 | 特徴 | 手術適応傾向 |
---|---|---|
縦断裂(longitudinal) | 血流が良い「赤赤帯」に多い | 修復術の適応あり(特に若年者) |
バケツハンドル断裂(bucket-handle) | 内側縁が関節内に入り込む | ロッキングを伴えば緊急手術対象 |
斜断裂(oblique) | 「赤白帯」に発生しやすい | 保存困難で部分切除適応が多い |
横断裂(radial) | 関節内圧分散を妨げる | 機能回復困難で手術が選択されやすい |
水平断裂(horizontal) | 変性断裂に多い | 高齢者に多く、切除が選択されやすい |
✅年齢と活動レベルによる適応判断
- 若年者(〜40歳前後): できる限り半月板を温存する手術(縫合術)を第一選択とする
- 高齢者(50歳以上): 変性性損傷が主体であることが多く、切除術が選択される傾向
- 競技復帰希望者: 再断裂のリスクと回復時間を考慮した適切なタイミングでの手術が推奨される
✅保存療法が選択される場合
- 軽度の断裂、痛みが軽い
- 赤赤帯など自然修復が期待できる部位
- ADLに支障がない場合
- 患者が手術を希望しない場合
🏥手術の種類
半月板損傷に対する手術は、関節鏡視下で行われる低侵襲手術が主流です。損傷部位や断裂形状、年齢や活動レベルに応じて、主に以下の3つの術式が選択されます。
① 半月板縫合術(Meniscal Repair)
対象:血流のある部位(赤赤帯や赤白帯)での縦断裂やバケツハンドル断裂など
特徴 | 内容 |
---|---|
術式 | 関節鏡下で特殊な糸や器具を用いて半月板を縫合し、自然治癒を促す |
長所 | 半月板を温存でき、長期的な膝関節機能維持が期待できる |
短所 | 再断裂のリスクあり、術後は荷重制限期間が長くなる |
術後リハビリ | 約6〜8週の免荷期間、その後徐々に運動療法へ移行 |
スポーツ復帰目安 | 約4〜6か月後(競技レベルにより調整) |
🔎 縫合術は特に若年者やアスリートにおいて、将来的な変形性関節症の予防にも寄与するとされています(Nakayama et al., 2018, J Orthop Sci)。
② 半月板部分切除術(Meniscectomy)
対象:血流の乏しい白白帯の断裂や、自然治癒が期待できない変性断裂
特徴 | 内容 |
---|---|
術式 | 損傷した半月板の一部を切除し、機械的な障害を取り除く |
長所 | 術後の回復が早く、早期のADL改善が可能 |
短所 | 半月板のクッション機能が減少し、将来的な軟骨損傷リスクがある |
術後リハビリ | 数日〜1週間程度で荷重歩行開始可能 |
スポーツ復帰目安 | 約1〜2か月後(軽度断裂なら数週間で可) |
💡 高齢者やADL改善を早期に求める方には選択されやすい術式ですが、長期的には関節変性リスクに注意が必要です。
③ 半月板全切除術(Total Meniscectomy)
対象:重度変性や壊死など、部分温存が不可能な状態
特徴 | 内容 |
---|---|
術式 | 半月板全体を切除する。現在ではほとんど行われない |
長所 | 痛みの原因が取り除かれ、症状が即時軽減されやすい |
短所 | 荷重分散機能が全て失われるため、変形性関節症の進行リスクが高い |
術後リハビリ | 1週間程度でADL回復、運動は数週間で可能 |
適応 | 極めて限定的(変形が強い、感染の既往があるなど) |
⚠️ 近年では「半月板をできる限り残すこと」がスタンダードであり、全切除は例外的な選択肢です。
④ 半月板移植術(Meniscal Transplantation)
対象:既に全切除された若年者で、将来的な軟骨損傷を予防する目的
- ドナーの半月板を移植
- 日本ではまだ保険適用外であるケースが多い
- スポーツ復帰には長期的なリハビリが必要
✅術式の選択は「断裂形状×年齢×活動レベル」で決まる
以下に選択基準のイメージを示します:
年齢 | 断裂形状 | 術式選択 |
---|---|---|
10〜30代 | 縦断裂(赤赤帯) | 縫合術 |
40〜60代 | 斜断裂・水平断裂 | 部分切除術 |
70代以上 | 重度変性断裂 | 保存療法 or 限定的に部分切除 |
🦵疾患や手術によって筋力低下しやすい筋肉
半月板損傷では、膝関節の安定性・動作制御に重要な筋群が術前・術後ともに著しく筋力低下しやすく、理学療法の中でも重点的に介入が必要です。
① 大腿四頭筋(Quadriceps)
- 特に内側広筋(VMO)が術後に著しく萎縮・出力低下しやすい
- 理由:関節内の侵襲や疼痛による**筋抑制(AMI: Arthrogenic Muscle Inhibition)**が主因
- 術後の免荷期間や安静によってさらに筋量低下が進行
🔍術後1〜2週間で大腿四頭筋の筋力は30〜40%低下するとも報告されています(Palmieri-Smith et al., 2008)。
② ハムストリングス(Hamstrings)
- 半月板縫合術後は、屈曲ストレスの制限が必要となるため、ハムストリングスの使用制限が生じやすい
- とくに縫合部への剪断ストレス回避のため、早期の強い収縮は禁忌
- その結果、筋活動の抑制が生じ、筋力低下が目立ちやすい
💡特にアスリートやランナーでは、ハムストリングスの機能回復がスポーツ復帰の鍵となります。
③ 中臀筋・大臀筋(Gluteus Medius/Maximus)
- 歩行パターンや荷重制限による代償運動から、殿筋群の筋出力も低下しやすい
- とくに片脚支持性の回復には、中臀筋の筋力再獲得が不可欠
- 長期的な膝関節外反・内反ストレスの制御にも関与する
✅術後の筋力低下に関するまとめ
筋群 | 筋力低下の主因 | 影響する動作 |
---|---|---|
大腿四頭筋(特に内側広筋) | 関節内疼痛・術後抑制 | 立ち上がり・階段昇降 |
ハムストリングス | 屈曲制限・縫合部の保護 | 歩行・方向転換 |
中臀筋・大臀筋 | 荷重制限・非対称歩行 | 歩行・片脚立位 |
✅ 半月板損傷に対しては、術式や制限の内容に応じたターゲット筋の把握と、段階的な筋再教育が極めて重要です。
🏃動作への影響
半月板損傷およびその術後は、膝関節の構造的安定性・滑らかな関節運動・荷重伝達に支障をきたし、日常生活やスポーツ場面でのさまざまな動作障害が生じます。以下では、代表的な動作別に影響を解説します。
① 歩行(Gait)
- 接地時の疼痛や不安定感によって、患側の荷重が不十分となる
- 縫合術後は荷重制限により、歩容が変化(例:反対側への逃避性歩行)
- 早期は膝関節伸展位保持が困難で、膝折れ(knee buckling)のリスクも高まる
📌とくに歩行周期中の立脚相での不安定性が目立ちます。
② 階段昇降(Stair Up/Down)
- 膝関節屈曲角度の増加が必要な場面で、可動域制限や疼痛による制限
- 昇段では、大腿四頭筋の筋力低下により膝伸展の力が不足
- 降段時には、患側への制動が不十分となり反対側足に過負荷がかかる
➡️結果として、「1段飛ばし」や「手すり使用」の代償動作が出現することも。
③ 片脚立位(Single Leg Standing)
- 中臀筋や膝周囲筋の協調性低下により、バランス保持困難
- 荷重側の膝が内側に崩れる(動的Knee Valgus)傾向があり、スポーツ動作に影響
📍ACL損傷の再発予防にも関連するため、術後リハビリでの指標にも。
④ 方向転換(Cutting / Pivoting)
- 関節面の滑走障害や疼痛により、スムーズな方向転換が困難
- 急旋回動作では、半月板への剪断ストレスが再発リスクを高める
- 特にスポーツ復帰時には、固有感覚の再構築が不可欠
✅日常生活への影響まとめ
動作 | 主な障害 | 関与する要因 |
---|---|---|
歩行 | 膝の不安定性、疼痛 | 筋力低下、荷重制限 |
階段昇降 | 可動域制限、疼痛 | 大腿四頭筋の筋力不足 |
片脚立位 | バランス低下 | 中臀筋・固有感覚の障害 |
方向転換 | 回旋時の不安定感 | 半月板再損傷リスク、協調性低下 |
✅ これらの動作制限は、術後早期からの段階的リハビリ介入によって予防・改善が可能です。
✅ 評価や訓練においては、単一筋の強化にとどまらず、動作連鎖全体の分析と対応が求められます。
✏️理学療法評価
半月板損傷に対する理学療法評価では、疼痛・関節可動域・筋力・動作分析・機能的テストなどを通して、日常生活やスポーツ活動への影響の程度を多角的に把握します。以下に、目的ごとに分類して評価項目を整理します。
① 疼痛評価:活動との関連を把握する
- VAS(Visual Analog Scale):主観的な痛みの強さを把握
- NRS(Numerical Rating Scale):簡易的な経時的変化の確認に適する
- 疼痛出現時の動作分析(例:歩行、階段、しゃがみ込み)
📌どの動作で痛みが出現するかは、治療計画に直結する情報です。
② 関節可動域(ROM):術後経過や機能制限の確認
- 膝関節屈曲・伸展可動域
- 屈曲:130〜140°以上を目標
- 伸展:0°確保はADLの鍵
- 術後は可動域制限が生じやすいため、左右差や拘縮の有無を確認
➡️伸展制限が残ると歩行や立ち上がりに影響します。
③ 筋力評価:筋萎縮と動作能力の関連性
- 徒手筋力テスト(MMT)
- 大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節外転筋などを重点的に
- ハンドヘルドダイナモメーター(HHD):経過観察に有用
- 患側と健側の比較(左右差)も評価の一つ
✅術後早期から廃用性筋萎縮が進行しやすいため、定期的に測定します。
④ 動作分析:実生活に直結する評価
- 歩行分析
- 歩幅、歩隔、支持期・遊脚期、膝の動き、代償動作
- 階段昇降のフォーム観察
- 代償動作(手すり使用、健側主導など)の有無
📍患者にとって“できる/できない”を評価することが機能予後の鍵です。
歩行について🫱『歩行とは何か?|正常歩行のメカニズムと異常歩行(脚長差・装具・疾患)・ロッカー機能・術後リハビリまで徹底解説』で詳しく知ることができます🚶
⑤ 機能的テスト:スポーツ復帰の可否判断にも
- シングルレッグスクワットテスト:動的アライメントや安定性
- Yバランステスト:バランス・協調性の評価
- Timed Up and Go(TUG)テスト:高齢者では移動能力の指標に
- 筋持久力テスト(例:30秒椅子立ち上がりテスト)

これらは客観的指標となり、術後リハビリの進行度を数値化するのに有効です。
✅評価のタイミングと目的
評価時期 | 主な目的 | 評価内容の例 |
---|---|---|
術前 | 機能のベースライン把握 | ROM、MMT、疼痛 |
術後早期(〜2週) | 炎症・制限の観察 | 疼痛、ROM、浮腫 |
術後中期(〜8週) | 荷重移行・可動域拡大 | 歩行、階段、筋力 |
術後後期(〜3ヶ月) | 動作・筋力・復帰判断 | 機能テスト、動作分析 |
✅ 評価を通して得たデータは、治療方針の選定・目標設定・経過判定に活かされます。
✅ 特にスポーツ復帰を目指す場合は、機能的テストやバランス評価を重視しましょう。
🚶理学療法治療
半月板損傷に対する理学療法は、疼痛軽減・関節機能回復・再発予防・動作の質改善を主な目的として、術式や損傷の程度に応じて段階的に進められます。
① 急性期(術後〜2週):炎症管理と基本動作獲得
この時期は痛み・腫脹・可動域制限の管理が重要です。
- RICE処置(Rest, Ice, Compression, Elevation)
- CPM(持続的他動運動装置):術直後からの可動域確保(術式による)
- 他動・自動介助運動:膝の伸展・屈曲運動の導入
- 等尺性収縮訓練:大腿四頭筋の廃用予防
- 例:Quad set(クワッドセッティング)

📌術後すぐから筋活動を促すことで再建組織の安定化に貢献します。
② 回復期(2週〜6週):荷重訓練と筋力再獲得
可動域が拡大し、荷重訓練の段階的導入が始まります。
- 部分荷重→全荷重移行(医師指示のもと)
- CKC(Closed Kinetic Chain)運動
- ミニスクワット・ヒールレイズ・立ち上がり練習など
- 筋力強化
- 大腿四頭筋、ハムストリングス、臀筋群を中心に
- バランス練習:支持性と安定性の向上
✅ 再損傷リスクを最小化しながら、動的な安定性を高めていく時期です。
③ 慣用期・退院期(6週〜3ヶ月):応用動作と再発予防
日常生活・職場・スポーツ復帰を意識した段階です。
- ステップ動作・方向転換・階段昇降
- ジャンプ着地練習(スポーツ復帰者)
- Yバランステストに基づくトレーニング
- アジリティトレーニング:切り返し・加速減速動作の練習
📍この時期の理学療法では、動作の「質」や左右差の是正が鍵となります。
✅実際の理学療法メニュー例(術後6週〜)
分類 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
有酸素 | バイクエルゴメーター(低負荷) | 循環改善・関節栄養 |
筋力強化 | レッグプレス・スクワット | 大腿四頭筋・臀筋 |
バランス | BOSU使用バランス練習 | 不安定面での安定性 |
動作訓練 | 歩行フォーム・段差昇降 | 機能的動作の正常化 |
✅指導ポイント
- トレーニングは痛みや腫脹を伴わない範囲で実施
- リハビリ全体の進行は医師の指示や手術方法に依存
- 患者の目標(例:仕事復帰・スポーツ復帰)に合わせた個別性が重要
✅ 半月板は関節の安定性や荷重分散に重要な役割を果たすため、理学療法によって代償機構や周囲組織の機能補完を最大化することが求められます。
💡物理療法
半月板損傷における物理療法(physical therapy modalities)は、疼痛の軽減・循環改善・可動域の維持・組織修復促進を目的として用いられます。理学療法の補助的な役割として、急性期から回復期まで幅広く活用されます。
✅主な物理療法とその目的
物理療法 | 使用時期 | 目的 |
---|---|---|
アイシング(冷却療法) | 急性期 | 炎症抑制・浮腫軽減・疼痛抑制 |
温熱療法(ホットパックなど) | 回復期以降 | 筋緊張緩和・血流改善 |
超音波療法 | 回復期以降 | 軟部組織修復促進・深部加温 |
電気刺激療法(EMS) | 急性期~回復期 | 大腿四頭筋の再教育と廃用防止 |
レーザー治療・マイクロ波治療 | 回復期以降 | 創部の治癒促進・疼痛緩和 |
✅エビデンスに基づいた有効性
- 電気刺激療法(NMES)は、術後の大腿四頭筋筋力低下の予防に有効とされています(Gondin et al., 2005)。
- 超音波療法は、関節内の血流促進と疼痛軽減に一定の効果があると報告されています(Baker et al., 2001)。
- アイシングについては、急性期の炎症抑制に有効であり、48時間以内の使用が推奨されます(Bleakley et al., 2004)。
✅使用上の注意点
- 患部の感覚鈍麻がある場合、冷却・加温の過剰刺激には要注意です。
- 術後創部が開いている場合は、直接的な温熱療法は避けるべきです。
- 物理療法単独での長期効果は限定的であり、必ず運動療法との併用が推奨されます。
✅臨床現場での活用例
- 術後1週目:アイシングとEMSを併用し、疼痛抑制と筋萎縮予防
- 術後3週目:可動域制限改善のための超音波療法+ホットパック
- 術後6週目以降:大腿四頭筋の再活性化に向けたEMS+運動療法
✅ 物理療法は「主役」ではなく「補助役」。患者一人ひとりの状態を評価し、適切なタイミング・方法で活用することが理学療法士の腕の見せ所です。
🏋️ホームエクササイズ
半月板損傷におけるホームエクササイズは、関節機能の回復・筋力維持・再受傷予防を目的として、自宅で継続的に行う運動療法です。通院リハビリだけでは不十分なケースが多いため、患者のセルフケアとして極めて重要な位置づけとなります。
✅ホームエクササイズの目的
目的 | 内容 |
---|---|
筋萎縮の予防 | 特に大腿四頭筋やハムストリングスの筋力維持 |
可動域の回復 | 膝関節の屈伸運動による拘縮予防 |
再発防止 | 関節周囲の安定化、神経‐筋機能の向上 |
自立支援 | 通院以外の自己管理能力の向上とQOL改善 |
✅推奨されるエクササイズ例(術後・保存療法共通)
1. クアドセッティング(大腿四頭筋の等尺性収縮)
- 方法:仰向けで膝を伸ばしたまま、膝裏を床に押し付けて10秒キープ
- 回数:10回×3セット/日
- 目的:膝伸展機構の再教育と筋萎縮予防
2. SLR(Straight Leg Raise/下肢伸展挙上運動)
- 方法:膝を伸ばした状態で足を約30度挙上し、ゆっくり下ろす
- 回数:10回×3セット/日
- 目的:股関節屈筋群の強化、大腿四頭筋への再負荷
3. ヒールスライド(膝関節屈曲運動)
- 方法:仰向けで踵をスライドさせるように膝を曲げ伸ばしする
- 回数:10〜15回×2セット/日
- 目的:膝関節の可動域回復、滑液循環の促進
4. 立位でのミニスクワット(回復期以降)
- 方法:膝を軽く曲げた状態で10〜30度程度までスクワット
- 回数:10回×2セット/日
- 注意:疼痛がある場合は中止、正しいフォームで行うこと
✅注意点と指導の工夫
- 疼痛・腫脹の増加時は中止し、主治医や理学療法士へ相談を促す。
- フォームの正確性が重要であり、できる限り鏡や動画で確認する。
- 週に1度は進捗チェックを理学療法士と共有することで、モチベーション維持にもつながります。
💡補足:ホームエクササイズの効果は週3回以上の実施で明確に差が出ると報告されています(Athanasiou et al., 1999)。
📚国家試験対策
半月板損傷は、理学療法士・作業療法士国家試験の中でも運動器疾患・整形外科的外傷の出題範囲として頻出です。以下の項目を押さえておくと、確実な得点源となります。
✅国家試験で狙われやすいポイント
出題内容 | 押さえるべき知識 |
---|---|
半月板の機能 | 膝関節の安定化、衝撃吸収、滑液分布など |
内側 vs 外側半月板 | 内側が損傷されやすい、内側半月板は関節包と靱帯に固定されている |
McMurrayテスト | 半月板損傷の代表的検査法(膝屈曲位→回旋→伸展でクリック音) |
Apleyテスト | 圧縮と回旋で疼痛を誘発する検査 |
半月板損傷の画像診断 | MRIが有効(X線では映らない) |
縫合 vs 部分切除 | 若年者・血流のある部位は縫合、加齢例は部分切除が多い |
術後理学療法 | 初期は免荷・関節可動域制限、段階的に荷重や筋トレへ移行 |
再建不能な損傷 | 半月板移植術が適応になることがある |
✅実際の国家試験過去問の出題例
【第52回 午後問題62】
膝関節のMcMurrayテストで陽性所見が得られるときに最も考えられる障害部位はどれか。
1. 内側側副靱帯
2. 前十字靱帯
3. 外側半月
4. 内側半月
→【正答:4】
【第55回 午前問題50】
半月板損傷でMRI画像診断を行う理由として最も適切なのはどれか。
→【正答:X線では半月板が写らないため】
✅覚えるコツ
- 語呂合わせ:「内側固定・損傷多い」「外側自由・損傷少ない」
- 図解で理解:関節面との接触・形状・血流の違いをイラストで覚える
- 実技と関連づける:評価法を実際に行いながら記憶定着を図る
📚Q&A
Q1. 半月板損傷は放置しても自然に治るの?
A. 基本的に自然治癒は難しいため、適切な診断とリハビリが必要です。
半月板は関節内構造物であり、血流が乏しい「白帯」では自然修復力が低いとされています。軽微な損傷であっても、放置すると損傷が進行し、変形性膝関節症へつながる可能性もあるため注意が必要です。
Q2. 手術をしたらすぐ歩けるようになりますか?
A. 術式によりますが、すぐに全荷重での歩行は難しい場合があります。
縫合術を行った場合、損傷部位の保護のため数週間は免荷や制限歩行が必要になることが多いです。一方で、部分切除術の場合は比較的早期から荷重が可能になる傾向があります(術式により異なります)。
Q3. 半月板はどのように損傷されやすいのですか?
A. 膝の捻り(回旋)動作で損傷しやすく、スポーツや加齢が要因になります。
ジャンプの着地や方向転換など、膝にねじれの力が加わることで発生しやすくなります。特にスポーツ選手や高齢者に多く見られ、靱帯損傷を伴うケースもあります。
Q4. 半月板損傷後に理学療法を受ける意味は?
A. 筋力や可動域の回復、再受傷の予防を図るためです。
手術後・保存療法いずれのケースでも、膝周囲の筋力低下や関節機能低下が起こるため、理学療法による段階的な回復訓練が重要となります。医師と理学療法士の連携のもと、安全に回復を目指します。
Q5. 再発を防ぐにはどうすればいいですか?
A. 筋力の維持と正しい動作習慣の獲得が鍵です。
特に大腿四頭筋とハムストリングスの強化は重要です。また、正しい歩行・階段動作・スクワットなどの動作訓練を行うことで、再発リスクを減らすことが可能です。ホームエクササイズの継続も効果的です。
📚最新ガイドライン
半月板損傷の治療および理学療法に関する最新のガイドラインは、国内外の整形外科・スポーツ医学関連団体から継続的に更新されています。ここでは、代表的なガイドラインの要点と臨床への応用について紹介します。
1. 日本整形外科学会(JOA)の提言(2022)
- 保存療法の重要性が再確認
→すべての半月板損傷に対して手術が第一選択ではなく、保存療法(理学療法や物理療法)で改善が期待できるケースもあることを明記。 - 縫合術 vs 切除術の選択基準
→可能な限り縫合を優先する方針へシフト。若年者・外傷性・末梢部損傷は特に縫合が勧められる。
2. ESSKA(欧州スポーツ整形外科学会)ガイドライン(2020)
- 半月板温存を推奨
→半月板の「切除」は中長期的に変形性膝関節症のリスクを上げるため、縫合または保存療法を第一選択とする方針が強調されている。 - 理学療法の継続的実施
→保存療法群・術後いずれも最低3か月以上の理学療法継続が望ましいとされる。
3. AOSSM(アメリカ整形外科学会 スポーツ医学部門)
- MRI診断の基準明確化
→損傷部位(レッドゾーン・ホワイトゾーン)を明確に評価し、手術の要否判断に役立てることが推奨されている。 - 再損傷予防の重要性
→理学療法士による**機能的動作訓練(Functional Movement Training)**の導入が再損傷率を有意に低下させる可能性がある。
✅理学療法士としてのポイント
- 縫合を選択した患者への指導:荷重制限やROM制限の遵守を含め、術式ごとの治療計画を立てる
- 保存療法の意義を説明:疼痛管理、筋力強化、バイオメカニクス再学習が保存療法の核心
- 最新の評価法を取り入れる:機能的スコア(LysholmスコアやTegnerスケール)などで経過を可視化する
📚書籍紹介
- 『標準整形外科学 第14版 (Standard textbook)』(井樋 栄二、医学書院)
- 『運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 』(林 典雄、メジカルビュー社)
- 『ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション〜カラー写真でわかるリハの根拠と手技のコツ』(神野 哲也、相澤 純也、)
- 『園部俊晴の臨床『膝関節』』(園部俊晴、運動と医学の出版社)
- 『股・膝関節の鏡視下手術[Web動付]』(松田 秀一、メジカルビュー社)
- 『膝MRI 第3版』(新津 守、医学書院)
💡まとめ
半月板損傷は、若年層のスポーツ外傷から高齢者の変性断裂まで、幅広い年齢層で遭遇する膝関節障害の一つです。放置すると関節機能の悪化や変形性膝関節症へと進行する可能性もあり、早期の評価と適切な治療が求められます。
本記事では、分類・解剖・発症メカニズムから、保存療法・手術療法、術後のリハビリ、国家試験対策まで幅広く網羅しました。とくに以下の点は、医療学生〜若手理学療法士にとって臨床で役立つ要点です。
- 半月板損傷はMRIでの評価と機能的テスト(McMurrayテストなど)が診断の鍵
- 保存療法と縫合術は、症例によって選択肢が変わるため、損傷部位と血流域の理解が重要
- 理学療法は術前・術後ともに機能回復に大きく貢献するため、個別性の高いプログラムが必要
- 筋力トレーニングだけでなく、動作再教育や物理療法を組み合わせることで再損傷予防が可能
- 国家試験では、半月板の解剖や治療選択、代表的な整形外科テストがよく出題される
現場での介入においても、ガイドラインに沿った介入計画と、患者の生活背景に配慮したホームプログラムの提案が求められます。
💡さいごに
この記事では、半月板損傷の基礎から臨床、評価・治療、国家試験対策まで幅広く解説しましたが、すべての症例が同じ経過をたどるわけではありません。
半月板の損傷部位や断裂の種類、合併症の有無、患者さんの年齢・活動レベル・既往歴などによって、最適な治療方法やリハビリプランは異なります。
そのため、
- 本記事の内容はあくまで一般的な知識の整理と学習目的であり、
- 実際の症状がある場合は、整形外科専門医による診察と画像評価が必須です。
- 理学療法の実施は、医師の指示のもと、国家資格を有する専門職によって行う必要があります。
読者の皆さまが、安全に・正確に知識を深め、日々の臨床や学習の中で本記事が一助となることを願っています。
📚参考文献
- 内尾祐司ほか:半月板損傷に対する治療戦略の変遷と今後の展望. 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会誌, 43(4), 2020, pp.533-539.
- 渡辺恒彦ほか:半月板縫合術後のリハビリテーションにおける荷重と屈曲制限解除時期の検討. 理学療法科学, 32(4), 2017, pp.587-592.
- 厚生労働省:患者調査(令和2年)傷病分類編.
- 松井宣夫:MRIによる半月板損傷の評価. 整形外科と災害外科, 54(3), 2005, pp.821-826.
- 梶山亮ほか:若年者スポーツ選手における内側半月板後角断裂の治療と予後. 整形外科と災害外科, 63(1), 2014, pp.80-85.
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