歩行中に左右どちらかへ体が傾いたり、足を引きずるような動きがみられる「跛行(はこう)」は、整形外科や神経疾患領域において非常に多く見られる症候のひとつです。
日常生活への影響が大きく、リハビリ介入の重要な対象となるこの跛行ですが、「なぜ起こるのか」「どこに問題があるのか」を正確に理解することが、適切な評価・治療につながります。
本記事では、跛行が起こる筋力不足の部位、発生メカニズム、関係する代表的疾患、そしてリハビリテーションでの評価・治療アプローチを、最新の文献やガイドラインを基にわかりやすく解説します。
🌎 統計・疫学情報
- 日本の65歳以上の高齢者において、歩行障害を訴える人は全体の**約20%**とされ、加齢に伴う跛行は転倒やADL低下の大きなリスク因子となります【厚生労働省, 2020】。
- 変形性股関節症では約**30〜40%**の患者が跛行を呈し、人工関節置換術の適応の指標の一つとされています【Nakamura T et al., J Orthop Sci. 2006】。
- 脳卒中患者の約**60〜80%**に跛行や歩行障害がみられ、リハビリでの歩行再獲得が大きな目標となります【Langhorne P et al., Lancet. 2011】。
💡跛行とは?
跛行の定義と分類
跛行(はこう)とは、歩行時のバランスが崩れたり、足を引きずるような異常な歩き方のことを指します。
正常な歩行とは異なり、体の左右どちらかに過度な傾きや、特定の筋肉・関節を庇うような動きが生じます。
医学的には「歩行周期(gait cycle)」において正常なパターンから逸脱した状態を跛行と呼び、以下のような種類に分類されます。
跛行の種類 | 特徴 | 原因の例 |
---|---|---|
疼痛性跛行(Antalgic gait) | 痛みを回避するため荷重時間が短くなる | 骨折、関節炎 |
筋力低下性跛行(Myopathic gait) | 筋肉の力が足りず骨盤が左右に揺れる | 筋ジストロフィー、中臀筋麻痺 |
神経性跛行(Neuropathic gait) | 神経障害による運動麻痺 | 腓骨神経麻痺(鶏歩) |
中枢性跛行(Spastic gait) | 緊張性亢進や協調性の欠如による | 脳卒中、脳性麻痺 |
関節変形性跛行(Arthrogenic gait) | 関節拘縮や変形のため動きが制限 | 変形性関節症、人工関節後 |
このように、跛行は単に「足を引きずっている」だけではなく、原因に応じて多様な歩容(歩き方)を示します。
正常歩行との違い
正常歩行は、左右の脚が交互に地面を蹴り出し、重心移動をスムーズに行うことで前進します。この歩行周期は以下の2つの相で構成されます。
- 立脚期(stance phase):足が地面に接地している時間(約60%)
- 遊脚期(swing phase):足が地面から離れて前に出ている時間(約40%)
跛行がある場合、このバランスが大きく崩れます。たとえば、痛みのある脚では立脚期が短縮し、もう一方の脚に過剰な負担がかかることがあります。逆に、筋力低下により遊脚期の振り出しが困難になるケースもあります。
正常歩行との違いを観察・分析することで、跛行の種類や原因を推定することが可能です。
正常歩行については、別記事「👉 歩行とは何か?|正常歩行のメカニズムと異常歩行(脚長差・装具・疾患)・ロッカー機能・術後リハビリまで徹底解説」で詳しく紹介しています。
🟡【跛行の原因分類チャート】
[跛行]
├─ 筋力低下性跛行(トレンデレンブルグ、鶏歩など)
├─ 疼痛性跛行(関節炎、骨折など)
├─ 神経性跛行(脳卒中、脊髄疾患など)
├─ 骨格異常性跛行(変形性股関節症、下肢長差など)
└─ 機能性跛行(習慣性、小児の一過性など)
🔵【原因筋と跛行パターン対応表】
跛行のタイプ | 関連筋 | 原因疾患の例 | 特徴 |
---|---|---|---|
トレンデレンブルグ跛行 | 中殿筋・小殿筋 | 股関節術後、変形性股関節症 | 立脚側で骨盤が落ちる |
鶏歩(鶏歩様歩行) | 前脛骨筋 | 腓骨神経麻痺、シャルコー・マリー・トゥース病 | 足背不能、つま先が引っかかる |
間欠性跛行 | 脊髄・馬尾神経根 | 腰部脊柱管狭窄症 | 一定距離で痛み、休むと改善 |
痛み性跛行 | 関節周囲筋 | 骨折、変形性関節症 | 荷重時に痛みを避けて短縮歩行 |
💡跛行が起こる主な原因
跛行の発生には、筋肉、神経、関節、疼痛など多くの要素が関係しています。原因を理解することで、的確なリハビリアプローチや装具選定に繋がります。以下では、跛行の主な原因を4つのカテゴリーに分けて解説します。
筋力低下による跛行
筋力のアンバランスや特定筋群の低下は、跛行の最も一般的な原因のひとつです。特に以下の筋群が弱化すると、特徴的な歩行異常が出現します。
筋肉名 | 役割 | 筋力低下による跛行の特徴 |
---|---|---|
中臀筋 | 骨盤の水平維持 | トレンデレンブルグ歩行(患側で骨盤が下がる) |
腸腰筋 | 股関節屈曲 | 歩幅の短縮、足の振り出し困難 |
大腿四頭筋 | 膝伸展 | 膝折れ、過伸展の代償動作 |
前脛骨筋 | 足関節背屈 | 鶏歩(drop foot)、足趾引きずり |
例えば、中臀筋の筋力が低下すると、立脚時に骨盤を支えられず、患側で骨盤が傾く「トレンデレンブルグ徴候」がみられます。この跛行は筋力トレーニングによる改善が期待できる代表例です。

痛みによる跛行(疼痛性跛行)
痛みを回避しようとする防御的な動きによって、跛行が生じることもあります。疼痛性跛行では、痛みのある側への荷重時間が短くなり、健側への依存が増します。
疾患例 | 痛みの部位 | 跛行の特徴 |
---|---|---|
股関節OA | 鼠径部痛・臀部痛 | 痛みを避けて短い立脚期、体幹を患側に傾ける |
膝関節OA | 膝前面痛 | 歩幅の減少、側方揺れ |
疲労骨折 | 足部や脛骨 | 急性期では歩行困難、慢性化で代償パターン出現 |
痛みによる跛行は、疼痛管理や荷重制限の調整とともに、根本疾患の評価が必要です。
神経障害による跛行
中枢神経または末梢神経障害では、運動麻痺・痙縮・協調運動障害などが原因で、複雑な跛行が出現します。
障害部位 | 代表疾患 | 跛行の特徴 |
---|---|---|
中枢神経 | 脳卒中、脳性麻痺、パーキンソン病 | 痙性跛行、すくみ足、はさみ脚歩行 |
末梢神経 | 腓骨神経麻痺、坐骨神経障害 | 鶏歩(drop foot)、歩行時の足の引っかかり |
特に腓骨神経麻痺では、前脛骨筋麻痺により足が下垂し、膝を過度に上げて歩く鶏歩(steppage gait)となります。末梢神経由来の場合は装具(AFO)などの選択が有効です。
関節拘縮や変形による跛行
関節可動域の制限や変形も歩容に大きく影響します。拘縮がある場合、その部位の運動が妨げられ、代償的な歩き方が必要になります。
原因 | 代表疾患 | 跛行の例 |
---|---|---|
関節拘縮 | 関節リウマチ、拘縮後遺症 | 関節の動きが制限され、体幹や他関節が代償 |
変形 | 変形性関節症、大腿骨頭壊死 | O脚、X脚による左右非対称歩行 |
関節拘縮はROM訓練や物理療法で改善が期待され、変形に対しては装具や手術も検討されます。
💡跛行を引き起こしやすい代表的疾患
跛行は多くの疾患でみられる症候の一つですが、特に特定の整形外科・神経系疾患では、歩行パターンに顕著な特徴が表れます。このセクションでは、跛行を引き起こしやすい主要な疾患を、原因別に整理して紹介します。
1. 変形性股関節症(OA of the Hip)
- 特徴的な跛行:跛行性歩行(疼痛性跛行)+トレンデレンブルグ歩行
- 発症機序:股関節軟骨の摩耗により、荷重時痛が出現 → 立脚期短縮
- 合併症:中臀筋の機能低下による骨盤不安定
患者は痛みを避けて短時間で荷重を終えようとするため、患側の立脚期が短くなります。さらに中臀筋の筋力低下があると、骨盤が患側に落ち込むトレンデレンブルグ徴候が観察されます。
📚参考:池田宗弘 他『関節外科』2021年、南江堂
2. 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
- 特徴的な跛行:痙性片麻痺によるサーカムダクション歩行
- 発症機序:上位運動ニューロン障害 → 下肢屈曲困難 → 外回し歩行
- 合併症:尖足、膝伸展制限、体幹の過剰代償
片麻痺側の下肢が屈曲できないため、股関節を外転・外旋して振り出すサーカムダクション歩行が出現します。また足関節が尖足位になると、足底が地面に引っかかるため、さらに代償動作が助長されます。
📚参考:Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2010
3. 筋ジストロフィー(Duchenne型など)
- 特徴的な跛行:鴨状歩行(waddling gait)
- 発症機序:近位筋(骨盤帯筋群)の筋力低下 → 骨盤の左右動揺
- 合併症:過度の腰椎前弯、登攀動作(Gowers徴候)
両側の中臀筋や腸腰筋が弱化することで、歩行時に骨盤が左右に大きく揺れる「鴨状歩行」となります。子どもに見られる疾患で、立ち上がり時に大腿部を登るように手を使う「Gowers徴候」も有名です。
📚参考:松村剛 他『標準小児科学 第9版』医学書院,2020年
4. 腓骨神経麻痺(Peroneal Nerve Palsy)
- 特徴的な跛行:鶏歩(steppage gait)
- 発症機序:前脛骨筋麻痺 → 足背屈不能 → 足尖が引っかかる
- 合併症:足関節背屈筋群の麻痺、足底からの感覚低下
つま先が持ち上げられないため、足が引っかからないよう膝を過度に屈曲して歩く鶏歩になります。ギプス圧迫、膝の外傷、長時間の正座などが原因です。
📚参考:田中栄 他『標準整形外科学 第14版』医学書院,2022年
5. 変形性膝関節症(Knee OA)
- 特徴的な跛行:疼痛性跛行+膝折れ
- 発症機序:関節面の変性・骨棘形成 → 荷重時痛・不安定性
- 合併症:大腿四頭筋の筋力低下、関節水腫、O脚傾向
立脚初期に痛みを避けて体重を早く抜こうとするため、患側の立脚時間が短くなり、健側への体幹移動が大きくなります。膝折れや過伸展がみられることもあります。
📚参考:矢部裕 他『変形性膝関節症診療ガイドライン 2020』日本整形外科学会
6. 大腿骨頸部骨折・術後
- 特徴的な跛行:防御的歩行パターン、立脚短縮
- 発症機序:手術後の疼痛・可動域制限・筋力低下
- 合併症:中臀筋萎縮、脚長差、恐怖回避行動
手術直後や骨癒合後も、歩行時に不安や痛みの記憶が残るため、跛行が持続することがあります。脚長差補正や杖の活用、荷重練習が重要になります。
📚参考:Pinedo‐Villanueva R, et al. Health and quality of life outcomes. 2019;17(1):1–9.
まとめ表
疾患名 | 主な跛行パターン | 原因要素 |
---|---|---|
変形性股関節症 | トレンデレンブルグ歩行 | 中臀筋筋力低下、疼痛 |
脳卒中 | サーカムダクション歩行 | 痙性麻痺、尖足 |
筋ジストロフィー | 鴨状歩行 | 近位筋群の筋力低下 |
腓骨神経麻痺 | 鶏歩 | 足関節背屈筋の麻痺 |
膝関節症 | 膝折れ、疼痛性跛行 | 関節不安定、疼痛 |
大腿骨骨折後 | 防御的歩行 | 痛み、恐怖、筋力低下 |
💡跛行の評価方法
跛行は「症状」ではなく「運動の異常」であるため、その評価には視診・触診・動作分析・検査機器を複合的に用いる必要があります。ここでは、臨床でよく使われる跛行評価の基本から、専門的な動作分析までを体系的に解説します。
1. 問診と既往歴の聴取
✅ 主なチェックポイント
- 発症時期・経過:急性?慢性?進行性?
- 疼痛の有無:どのタイミングで痛むか(立脚期/遊脚期/常時など)
- 既往歴:手術歴、外傷歴、神経疾患の診断の有無
- 生活背景:杖の使用、靴の種類、住宅環境など
📝ポイント:痛みのある箇所を避けるように歩く「防御的跛行」か、筋力低下や麻痺による「運動機能的跛行」かを初期に見極めることが重要です。
2. 視診と観察歩行分析(観察的歩行分析)
歩行観察は最も基本かつ重要な評価方法です。以下の5つの視点で観察します。
👣 歩行観察の5つの視点
観察項目 | 内容 |
---|---|
① 姿勢アライメント | 立位時の骨盤の高さ、側弯の有無 |
② 歩隔・歩幅・歩速 | 左右対称性、足の間隔 |
③ 立脚相の挙動 | トレンデレンブルグ徴候、膝折れ、早期踵離地 |
④ 遊脚相の挙動 | サーカムダクション、鶏歩、足の接地状態 |
⑤ 代償動作の有無 | 体幹のスイング、骨盤のリフト、股関節過屈曲など |
📚参考:Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. SLACK Inc, 2010
3. 筋力・関節可動域(ROM)の評価
跛行の多くは筋力低下や関節可動域の制限に起因しています。MMTや関節ROM評価を通じて、下肢機能の現状を把握します。
筋力評価で重視される筋群:
- 股関節外転筋(中臀筋)
- 膝伸展筋(大腿四頭筋)
- 足関節背屈筋(前脛骨筋)
- 股関節屈筋群(腸腰筋など)
可動域で重要な関節:
関節 | 評価ポイント |
---|---|
股関節 | 屈曲・伸展・外転 |
膝関節 | 伸展不足が跛行に直結 |
足関節 | 背屈制限はサーカムダクションを助長 |
4. 歩行分析ツール(定量的評価)
視診に加え、以下の定量的ツールを使うことで、客観性を持った評価が可能になります。
ツール名 | 内容 |
---|---|
タイムドアップ&ゴー(TUG) | 起立〜3m歩行〜回転〜着席までの時間 |
10m歩行テスト | 通常速度と最大速度を計測 |
歩行周期分析(2D/3D動作解析) | 立脚相・遊脚相の時間、左右対称性などを解析 |
フォースプレート | 荷重量・支持面圧分布を可視化 |
モーションキャプチャ | 関節角度や代償運動の正確な分析に有用 |
📚参考文献:Muro-de-la-Herran A, et al. Sensors (Basel). 2014;14(2):234–256.
5. 動画撮影による記録と再確認
スマートフォンやiPadなどで歩行の前・後・側面から撮影し、スロー再生・一時停止による動作分析を行います。学生や新人セラピストにもおすすめの方法です。
📹 ポイント
- 正面:骨盤の左右差、股関節の挙動
- 側面:体幹の傾き、膝伸展のタイミング
- 背面:踵の高さ、中臀筋の代償運動
6. その他の評価項目
- 脚長差(true leg length / apparent leg length)
- 下肢装具やインソールの有無
- 杖や歩行器の使用状況
- 筋緊張の異常(痙性・弛緩性)
📝まとめ
跛行はさまざまな要因が絡み合う動作異常であり、**「歩き方」だけでなく「なぜその歩き方になるのか」**を評価することがリハビリ介入において不可欠です。問診から視診・動作分析・筋力評価・定量ツールまでを統合し、歩行の原因分析を行うことで、より効果的なアプローチへとつながります。
💡跛行へのリハビリアプローチ(治療・介入)
跛行に対するリハビリテーションは、「症状」そのものではなく、その原因となる機能障害に焦点を当てた介入が基本です。ここでは、臨床でよく行われるアプローチを原因別に整理して解説します。
1. 筋力低下へのアプローチ
✅ 中臀筋の筋力低下(トレンデレンブルグ徴候)
対処法:
- クラムシェル運動(側臥位での股関節外転)
- セラバンドを使った立位外転運動
- 立位での骨盤安定トレーニング(SLR保持、片脚立ちなど)
📚参考:Selkowitz DM et al. Which exercises target the gluteal muscles while minimizing activation of the tensor fascia lata? Electromyographic assessment using fine-wire electrodes. J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(2):54-64.
✅ 前脛骨筋の筋力低下(鶏歩)
対処法:
- セラバンドでの足関節背屈運動
- トウレイズ(つま先を上げて立つ)
- 電気刺激(FES)による歩行時介助
📚参考:Prenton S, et al. Functional electrical stimulation for foot drop in adults with multiple sclerosis: a systematic review. J Rehabil Med. 2016;48(4):356-362.
2. 関節可動域制限へのアプローチ
✅ 足関節背屈制限(早期踵離地、サーカムダクション)
対処法:
- アキレス腱ストレッチ(膝伸展位と屈曲位の両方で)
- 前方への重心移動トレーニング(ランジ動作)
- 関節モビライゼーション(後方滑りの誘導)
📝臨床では、足関節背屈角度が立脚中期に最低10度必要とされるため、可動域の回復は代償動作の軽減に直結します。
3. 姿勢・骨盤制御へのアプローチ
跛行時に骨盤の過剰な傾斜や回旋が見られる場合、体幹・骨盤周囲の安定性トレーニングが重要です。
対処法:
- ブリッジ運動(骨盤リフト)
- 腹横筋・多裂筋の活性化(ドローイン訓練)
- 片脚立位での荷重・バランス練習
📚参考:Akuthota V, Nadler SF. Core strengthening. Arch Phys Med Rehabil. 2004;85(3 Suppl 1):S86-92.
4. 歩行再学習と動作訓練
- ミラー歩行練習:鏡を見ながら左右対称性を確認
- ライン歩行:直線ライン上を歩き、左右ブレの軽減を図る
- タスク指向型練習:物を持ったまま歩く、階段昇降を含む
📝「歩行の正しさ」よりも「安全性と効率性」を重視した再学習が推奨されます。
5. 装具・インソールによる補助
✅ AFO(足関節固定装具)
- 鶏歩の改善:前脛骨筋の代用として使用
- 立脚安定性向上:足関節のブレ防止
✅ インソール調整
- 脚長差:外側リフトなどで補正
- アーチサポート:偏平足や回内傾向の調整
📚参考:Tyson SF, Rogerson L. Assistive walking devices in nonambulant patients undergoing rehabilitation after stroke: the effects on functional mobility and the perception of benefit. Arch Phys Med Rehabil. 2009;90(3):410-415.
6. 神経筋電気刺激(NMES)・FES
神経疾患や筋力低下が著しい場合には、**機能的電気刺激(FES)**が有効です。歩行時のタイミングに合わせて筋収縮を誘導し、動作獲得や代償防止に貢献します。
7. 患者教育と自己訓練プログラム
- 正しい姿勢と歩き方の認識(動画フィードバック)
- 自宅でできるエクササイズの指導(図示・プリント配布)
- 装具・靴の使用方法
📝継続的に取り組める自己管理プログラムは、再発予防にも重要です。
📝まとめ
跛行へのアプローチは、「なぜその歩き方になったのか?」という機能的分析と評価に基づく個別介入が必須です。筋力、柔軟性、バランス、姿勢制御、装具使用など多角的に介入し、動作の質と安全性を高めることが、日常生活のQOL向上にもつながります。
💡物理療法による補助的介入(電気・温熱・超音波)
跛行の原因に対し、運動療法だけでは不十分な場合、**物理療法(Physical Modalities)**を補助的に併用することで、疼痛緩和・筋機能改善・循環促進などの効果が期待できます。ここでは跛行改善に有効とされる主要な物理療法について解説します。
1. 電気刺激療法(NMES・FES)
✅ 神経筋電気刺激(NMES)
- 目的:筋収縮を誘発し、筋力強化や萎縮予防を図る
- 適応例:中臀筋・前脛骨筋・大腿四頭筋の廃用性筋力低下
- 使用方法:収縮可能な出力で10〜15分、1日1〜2回を目安に
📚参考文献:Maffiuletti NA. Physiological and methodological considerations for the use of neuromuscular electrical stimulation. Eur J Appl Physiol. 2010;110(2):223–234.
✅ 機能的電気刺激(FES)
- 目的:動作中のタイミングに合わせて筋収縮を誘導
- 適応例:足関節背屈の障害(鶏歩)など
- 特徴:歩行中のヒールオフ〜スイング初期に前脛骨筋を刺激
📝FESは、脳卒中・脊髄損傷・多発性硬化症などで臨床的に有効性が証明されており、長期使用で歩行速度やエネルギー効率の改善が報告されています。
📚参考文献:Bethoux F, et al. Long-term follow-up of functional electrical stimulation in multiple sclerosis. NeuroRehabilitation. 2012;31(4):413–418.
2. 温熱療法(ホットパック・パラフィン浴など)
✅ 表在温熱(ホットパック)
- 目的:筋緊張の緩和・循環改善・疼痛軽減
- 適応例:股関節・腰部・下腿などの筋緊張由来の跛行
- 使用方法:6層以上のタオルで包み、20分前後が標準
✅ 深部温熱(マイクロ波・極超短波など)
- 目的:関節周囲の組織深部への温熱刺激
- 注意点:感覚障害がある場合や急性炎症時は禁忌
📚参考文献:Lehmann JF, et al. Therapeutic heat and cold. 4th ed. Baltimore: Williams & Wilkins; 1990.
3. 超音波療法(Ultrasound Therapy)
- 目的:微細組織の再生促進・瘢痕の柔軟化・炎症軽減
- 適応例:アキレス腱周囲の滑走不良、足関節周囲の線維化
- 使用方法:1MHz/3MHzを用途に応じて使用、5〜10分照射
📝連続波は温熱効果、間欠波は非温熱効果が主体です。跛行の原因が瘢痕拘縮や筋腱の滑走不全であれば、有効な補助手段になります。
📚参考文献:Robertson VJ, et al. Electrophysical Agents: Evidence-Based Practice. Elsevier, 2019.
4. レーザー・低出力光線療法(LLLT)
- 目的:疼痛軽減、組織修復促進、炎症反応抑制
- 適応例:足底筋膜炎、関節周囲炎、神経痛性疼痛
📝日本国内では整形外科領域での使用も広がっており、跛行の背景に慢性炎症や神経因性疼痛がある場合の一助となります。
📚参考文献:Bjordal JM, et al. Low-level laser therapy for chronic pain: a systematic review of randomized placebo-controlled trials. Clin J Pain. 2003;19(3):200–209.
💡物理療法の注意点
- 単独で跛行が改善するわけではなく、運動療法との併用が前提
- 患者の状態(感覚障害、ペースメーカー、悪性腫瘍など)に応じて適応と禁忌を確認
- 過度な依存は避け、自主性を促す教育的活用が望ましい
📝まとめ
物理療法は、跛行の原因にアプローチするための**“サポート的役割”**として非常に有効です。疼痛の軽減や可動域の改善、筋機能の促進を通じて、運動療法の効果を最大限に引き出すことができます。適切な評価と組み合わせにより、より効果的なリハビリテーション介入が可能となります。
💡跛行の代表的症例と臨床介入例
跛行は、疾患や損傷、疼痛、筋力低下などによって様々な形で現れます。ここでは、リハビリ臨床で頻繁に遭遇する代表的な症例と、それぞれに対する評価・介入例をご紹介します。
■ 症例①:中殿筋機能不全によるトレンデレンブルグ跛行
- 年齢・背景:70歳 女性、変形性股関節症(OA hip)
- 観察された跛行:立脚期に骨盤が反対側へ落ち込む(Trendelenburg徴候陽性)
🔍 評価ポイント
- 中殿筋MMT(3以下)
- SLR保持不能、片脚立位不安定
- 股関節外転可動域は保たれているが痛みあり
💡 介入例
- 運動療法:中殿筋アイソメトリック収縮→側臥位外転→CKCでの骨盤安定化エクササイズへ段階的に
- 物理療法:股関節周囲筋の温熱療法(ホットパック)で筋緊張の緩和
- 補助具:T字杖の使用(患側と反対の手)により股関節外転モーメントをサポート
📚参考文献:Bennell KL, et al. Efficacy of hip muscle strengthening in patients with hip osteoarthritis: a randomized controlled trial. Osteoarthritis Cartilage. 2010;18(11):1239–1246.
■ 症例②:前脛骨筋麻痺による鶏歩(スラップフット)
- 年齢・背景:58歳 男性、L4/L5椎間板ヘルニア後の腓骨神経障害
- 観察された跛行:遊脚期に足が床に引っかかるため、膝と股関節を過屈曲(鶏歩)
🔍 評価ポイント
- 前脛骨筋MMT 1〜2
- 感覚鈍麻あり(足背部)
- ふくらはぎの痩せあり、トウヒールウォーク不可
💡 介入例
- 機能的電気刺激(FES):歩行中の前脛骨筋へのタイミング刺激
- 装具療法:短下肢装具(AFO)を用いた足関節背屈補助
- 神経モビライゼーション:坐骨神経の滑走促進を図るスライディング法など
📚参考文献:van Swigchem R, et al. Effect of functional electrical stimulation of the peroneal nerve on walking speed and endurance in patients with chronic stroke: a systematic review. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(6):933–939.
■ 症例③:大腿四頭筋機能低下による膝折れ跛行(Quadriceps Avoidance Gait)
- 年齢・背景:65歳 女性、人工膝関節置換術(TKA)術後6週目
- 観察された跛行:立脚初期に膝折れを回避するため、膝を伸展位で保持しながら体重移動
🔍 評価ポイント
- 大腿四頭筋MMT 3
- 膝関節屈曲拘縮(−10°)
- 立脚時の前方重心移動困難
💡 介入例
- 運動療法:大腿四頭筋のアイソメトリック収縮、クワドセッティング
- 歩行訓練:Parallel bar内での荷重感覚再教育
- TENS:術後疼痛軽減目的での電気刺激療法
📚参考文献:Petterson SC, et al. The role of quadriceps strength in predicting function and gait after total knee arthroplasty. Phys Ther. 2009;89(1):59–66.
■ 症例④:足底筋膜炎による疼痛回避性跛行(Antalgic gait)
- 年齢・背景:40歳 男性、立ち仕事が多く、近年ランニングを始めた
- 観察された跛行:患側立脚時間が短く、踵接地を避けるような歩き方
🔍 評価ポイント
- 足底腱膜付着部に圧痛
- モーニングペイン(起床後の一歩目が痛い)
- 踵骨のアライメントに左右差あり
💡 介入例
- ストレッチ:足底腱膜・下腿三頭筋の持続伸張
- 物理療法:超音波療法(1MHz間欠波)で組織修復促進
- インソール調整:内側アーチをサポートする足底板の導入
📚参考文献:DiGiovanni BF, et al. Tissue-specific plantar fascia-stretching exercise enhances outcomes in patients with chronic heel pain. J Bone Joint Surg Am. 2003;85(7):1270–1277.
📝まとめ
跛行の背後には様々な原因・病態があり、患者一人ひとりの症状・筋力・可動域・疼痛レベルに応じた評価と対応が求められます。評価→仮説立て→検証→再評価のサイクルを繰り返しながら、的確なリハビリプログラムを組み立てることが重要です。
💡跛行の鑑別と他疾患との見分け方
跛行の評価・治療において重要なのは、「その跛行が本当に筋骨格系の問題によるものか」「他の神経疾患や内科的要因が関与していないか」を見極めることです。ここでは、跛行を呈する他の代表的疾患との鑑別のポイントを紹介します。
■ 神経原性跛行と整形外科的跛行の鑑別
項目 | 神経原性跛行(例:脳卒中後遺症、パーキンソン病) | 整形外科的跛行(例:変形性関節症、腱断裂など) |
---|---|---|
初発症状 | 筋力低下・痙縮・協調運動障害 | 疼痛・可動域制限 |
痛みの有無 | 多くは非疼痛性 | 疼痛を伴うことが多い |
歩行パターン | 引きずる・分回し・小刻み歩行 | 逃避的・荷重短縮・過剰代償 |
神経学的所見 | 痙性・反射亢進・病的反射 | 神経学的所見は原則正常 |
感覚異常 | 随伴することがある | 通常はなし(圧痛などはあり) |
🔍 チェックポイント:
- 片麻痺による分回し歩行か、腸腰筋麻痺による代償かを区別するにはMMTだけでなく、**病的反射(Babinski、Hoffmannなど)**の有無を確認。
- 筋トーヌス評価(痙縮 vs 筋短縮)も鑑別に有効。
📚参考文献:Lennon S, Stokes M. Pocketbook of Neurological Physiotherapy. Elsevier Health Sciences, 2009.
■ 疼痛回避性跛行 vs 心因性跛行(Hysterical gait)
✅ 疼痛回避性跛行(Antalgic gait)
- 局所の圧痛・可動域制限あり
- 荷重期短縮
- 疼痛誘発動作で一貫性がある
✅ 心因性跛行(Psychogenic/Hysterical gait)
- 非常に不自然な歩行パターン(例:ロボットのような歩き方、過剰に目立つ)
- 身体所見と一致しない
- 疼痛報告が一貫しない、反応性に富む
- バランステストや関節ROMテストでは正常に近い結果となる
💡 臨床ヒント:
- 心因性が疑われる場合でも、まず器質的疾患を除外することが最優先です。頭部MRI、脊髄MRI、神経伝導検査などの実施も検討。
📚参考文献:Stone J, et al. Functional symptoms in neurology: diagnosis and treatment. Pract Neurol. 2009;9(3):179–189.
■ 歩行異常が目立つ神経疾患の簡易スクリーニング
疾患名 | 特徴的な跛行 | その他の徴候 |
---|---|---|
パーキンソン病 | 小刻み歩行、突進現象(フェスティネーション) | 姿勢反射障害、無動、振戦 |
正常圧水頭症(NPH) | マグネット歩行(足が床に吸い付くような歩行) | 認知機能低下、尿失禁 |
ALS(筋萎縮性側索硬化症) | 運動ニューロン障害による筋力低下・不安定歩行 | 舌萎縮、線維束性収縮 |
多発性硬化症(MS) | 不規則な筋力低下と痙縮による歩行困難 | 感覚障害、視力障害 |
脳梗塞後遺症 | 分回し歩行・尖足 | 上肢の屈曲位固定などを伴うことも |
🧠 ポイント:
問診にて「他にも症状ありますか? 物忘れ、しびれ、排尿トラブルは?」と尋ねることで、神経疾患を疑うヒントが得られる場合があります。
■ 歩行分析+臨床的検査の併用がカギ
鑑別の精度を上げるためには、歩行分析(視診・ビデオ)と整形外科的検査・神経学的評価を組み合わせることが推奨されます。以下のような手順が効果的です:
- 視診・観察:初動・立脚・遊脚の各フェーズでの異常動作を記録
- 神経学的スクリーニング:深部腱反射、表在感覚、協調運動テスト
- 整形外科的テスト:Patrickテスト(股関節)、SLR(坐骨神経)、Trendelenburgテストなど
- 補助的検査:X線、MRI、超音波、筋電図など
📝まとめ
跛行は単なる「歩き方の異常」ではなく、その背景にある筋骨格系や神経系の異常を反映しています。的確な鑑別は、治療戦略を誤らないために必須です。特に高齢者や神経難病が疑われる場合には、慎重な判断が求められます。
💡国家試験対策で問われやすい跛行の種類とキーワード
国家試験では、跛行の種類とそれに関わる筋・神経・関節の機能障害との関連が頻出です。ここでは、国試で問われやすい跛行の分類と特徴的なキーワードを整理して解説します。
■ 1. トレンデレンブルグ跛行(Trendelenburg gait)
🧩キーワード:中殿筋、股関節外転筋、片脚立位、骨盤の下制
- 【原因】股関節外転筋(特に中殿筋)の筋力低下
- 【症状】立脚側での骨盤の健側への下制
- 【特徴】上体を患側に傾けて代償 → デュシャンヌ徴候(Duchenne徴候)
- 【好発疾患】先天性股関節脱臼、変形性股関節症、上殿神経麻痺
- 【国家試験頻出ポイント】
- Trendelenburgテスト陽性
- 歩行時に「骨盤が左右に揺れる」
📘参考:第57回理学療法士国家試験 午前問題55
■ 2. 鶏歩(Steppage gait)
🧩キーワード:深腓骨神経、前脛骨筋、下垂足、遊脚期に膝を高く上げる
- 【原因】前脛骨筋麻痺(深腓骨神経障害)による足関節背屈障害
- 【症状】遊脚期で足が引っかかるのを避けて膝を高く上げる
- 【特徴】足先がパタッと落ちる、下垂足(drop foot)
- 【好発疾患】腰椎椎間板ヘルニア(L5根障害)、腓骨神経麻痺、Charcot-Marie-Tooth病
- 【国家試験頻出ポイント】
- 深腓骨神経と前脛骨筋の支配関係
- 筋電図・MMTでの評価
📘参考:第53回作業療法士国家試験 午前問題47
■ 3. つま先歩行(尖足歩行・Equinus gait)
🧩キーワード:アキレス腱短縮、痙縮、腓腹筋・ヒラメ筋、踵がつかない
- 【原因】腓腹筋・ヒラメ筋の短縮 or 痙縮
- 【症状】踵接地できず、つま先で歩行
- 【好発疾患】脳性麻痺(CP)、痙性片麻痺
- 【国家試験頻出ポイント】
- 痙縮による尖足 vs 固有関節拘縮による尖足の鑑別
- 足関節背屈ROM制限の有無
📘参考:第58回理学療法士国家試験 午前問題41
■ 4. 分回し歩行(Circumduction gait)
🧩キーワード:腸腰筋、脳卒中片麻痺、膝伸展、尖足、代償運動
- 【原因】股関節屈曲・膝屈曲・足関節背屈のいずれかの機能不全
- 【症状】患側の遊脚期で下肢を外側へ回すように振り出す
- 【好発疾患】脳卒中、CP、外傷性脳損傷などの中枢疾患
- 【国家試験頻出ポイント】
- 膝関節固定・尖足との関連性
- 構音障害などの随伴症状と合わせて出題されやすい
📘参考:第55回理学療法士国家試験 午後問題30
■ 5. 間欠性跛行(Claudication)
🧩キーワード:腰部脊柱管狭窄症、下肢しびれ、前屈で軽減、休むと改善
- 【原因】神経性(腰部脊柱管狭窄)または血管性(閉塞性動脈硬化症)
- 【症状】歩くと下肢にしびれや痛み → 休むと軽減
- 【鑑別ポイント】
- 前屈で軽減 → 神経性(馬尾神経)
- 前屈で無関係 → 血管性(動脈狭窄)
- 【国家試験頻出ポイント】
- 間欠性跛行の鑑別方法
- 腰部前屈・後屈での症状変化
📘参考:第56回理学療法士国家試験 午後問題18
📝まとめ|国家試験で跛行を攻略するには?
- 歩行のどのフェーズで異常が起きているかを把握する
- どの筋が主に関与しているのかを明確にする
- よく出題される「跛行と筋・神経・疾患との関連」を暗記する
💡国家試験では、図を使った歩行分析の問題や、症例ベースの設問も増えています。臨床像とイメージを結びつけながら学習することが合格への近道です!
💡Q&A
Q1. 「跛行(はこう)」ってそもそもどういう意味
A.跛行とは、「正常な歩行周期から逸脱した異常歩行パターン」を指します。筋力低下、疼痛、関節可動域制限、神経障害などにより、左右対称な歩行ができなくなった状態を言います。
Q2. トレンデレンブルグ徴候とデュシャンヌ徴候の違いは?
A.
- トレンデレンブルグ徴候:立脚期に骨盤の健側が下がる(中殿筋の筋力低下による)
- デュシャンヌ徴候:代償として体幹を患側に傾ける動作
👉 セットで出題されることが多く、中殿筋の筋力低下が原因です。
Q3. 歩行時に足先が引っかかってつまずく人がいます。何の跛行?
A.これは典型的な「鶏歩(Steppage gait)」です。足関節背屈ができず、下垂足(drop foot)となるため、遊脚期に膝を高く上げて代償します。原因は**前脛骨筋麻痺(深腓骨神経障害)**が多いです。
Q4. 「間欠性跛行」って2種類あるって聞いたけど?
A.はい、以下の2種類があります:
種類 | 原因 | 特徴 |
---|---|---|
神経性 | 脊柱管狭窄などで神経圧迫 | 歩くとしびれ、前屈で軽減 |
血管性 | 動脈硬化による虚血 | 歩くと痛み、前屈で変わらず |
👉 鑑別ポイントとして「前屈での変化」は国家試験でも重要です。
Q5. 小児に多い跛行はありますか?
A.代表的なものは以下の通りです:
- 先天性股関節脱臼(CDH):トレンデレンブルグ跛行
- 脳性麻痺(CP):尖足歩行、分回し歩行
- ペルテス病や大腿骨頭すべり症:疼痛性跛行
👉 小児整形では「痛みを訴えない跛行」にも注意が必要です(例:大腿骨頭壊死)。
Q6. 跛行の観察ではどこを見ればいいの?
A.以下のポイントをチェックしましょう:
- 左右の歩幅・リズム・対称性
- 立脚期と遊脚期のバランス
- 骨盤や体幹の揺れ(代償動作)
- 足部の接地方法(踵接地か、つま先歩きか)
- 歩行中の主観的な訴え(痛み、引っかかり感など)
📷可能ならビデオ撮影してスローモーション解析するのも◎
Q7. 跛行はリハビリで改善しますか?
A.多くの場合、原因に応じたアプローチで改善が期待できます。
- 筋力低下 → 筋力トレーニング・装具
- 可動域制限 → 関節可動域訓練・モビライゼーション
- 痛み → 物理療法、荷重調整、体重分散
- 神経障害 → 再教育訓練・バランス訓練
ただし、進行性疾患や構造的変形がある場合は、症状の軽減や代償動作の最適化が目標になることもあります。
Q8. 国家試験ではどう対策すべき?
A.✅以下を重点的に覚えておくと安心です:
- 跛行の種類+原因筋+好発疾患のセット
- 運動連鎖や代償動作の理解
- 臨床場面を想定した歩行観察や評価の読み取り問題
過去問演習+図解資料の活用で、視覚的にも整理しておきましょう!
✏️まとめ
跛行は「原因と特徴をペアで覚える」ことが攻略のカギ。国家試験でも臨床でも、「どこにアプローチすべきか?」を筋・関節・神経の観点から整理する視点が非常に重要です。
💡跛行に関する最新ガイドライン・診療指針・学会見解
跛行そのものに関する包括的なガイドラインは現時点では存在しませんが、跛行の原因となる代表的疾患や評価・介入に関する最新の指針・推奨は以下のように各種ガイドラインに示されています。臨床でも国家試験でも重要なポイントをピックアップしてご紹介します。
🦵 1. 【脊柱管狭窄症と間欠性跛行】に関するガイドライン
- 参考文献:
- 日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会 編『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021』(南江堂)
- ポイント:
- 神経性間欠性跛行は最重要キーワード。
- 「前屈位で症状軽減」「歩行距離が制限される」などの所見を重視。
- 保存療法(運動療法、薬物療法)と手術療法の使い分けが明記。
🩻 2. 【変形性股関節症/変形性膝関節症】に関する診療ガイドライン
- 参考文献:
- 日本整形外科学会監修『変形性膝関節症診療ガイドライン2020』(南江堂)
- 『変形性股関節症診療ガイドライン2020』(南江堂)
- ポイント:
- **疼痛性跛行(跛行パターン)**の記載あり。
- 評価ではWOMACスコアや歩行速度の測定を推奨。
- 運動療法(筋力強化・可動域訓練)+物理療法(温熱など)が効果的と明示。
🧠 3. 【脳卒中後の跛行/神経筋疾患】に対するリハビリ指針
- 参考文献:
- 日本リハビリテーション医学会『脳卒中のリハビリテーション診療ガイドライン 第4版(2023年)』
- 日本神経学会『筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013』
- ポイント:
- スウィング期の代償(分回し・トゥドラッグ)やスタンス期の不安定性が強調。
- 装具療法(足継手付き短下肢装具など)やFES(機能的電気刺激)も推奨される場合あり。
- 歩行訓練は「課題志向型訓練」「トレッドミル+免荷装置」などが効果的。
👟 4. 【小児の跛行に関する評価と診療】に関する見解
- 参考文献:
- 日本小児整形外科学会の見解、ならびに『小児整形外科学』などの専門書籍。
- ペルテス病、大腿骨頭すべり症、脳性麻痺における歩容の評価が重要視。
- ポイント:
- 小児では痛みの訴えが曖昧であるため、「不自然な歩行=重大な疾患のサイン」という視点でアプローチ。
- 早期診断にはX線・MRIなどの画像評価と、保護者からの情報収集が重要。
📊 5. 【歩行評価の標準化】に関する提言
- 参考文献:
- 日本理学療法士協会による「理学療法評価指針(最新版)」
- GAITRite®システムなどによる客観的歩行分析の推奨
- ポイント:
- 評価指標として以下が用いられる:
- 歩行速度
- 歩隔・歩幅
- 立脚・遊脚の比率
- Time Up & Go Test(TUG)
- 10m歩行テスト
- 評価指標として以下が用いられる:
- 臨床での推奨:
- **視診+計測+患者報告アウトカム(PRO)**を組み合わせる評価が標準。
📌まとめ:ガイドライン活用のポイント
疾患 | ガイドライン年 | キーワード |
---|---|---|
脊柱管狭窄症 | 2021年版 | 神経性跛行・前屈で軽減 |
変形性膝関節症/股関節症 | 2020年版 | 疼痛性跛行・筋力訓練・温熱療法 |
脳卒中 | 2023年改訂版 | 装具・課題志向型訓練・歩行分析 |
小児整形 | 学会推奨ベース | 無痛性跛行=要注意、画像診断 |
歩行分析 | 継続的更新あり | 歩行速度・立脚率・GAITRite利用推奨 |
📙書籍紹介
- 『ペリー歩行分析原著第2版正常歩行と異常歩行』(Jacquelin Perry、武田 功、医歯薬出版社株式会社)
- 『観察による歩行分析』(キルステン ゲッツ・ノイマン、医学書院)
- 『印象から始める歩行分析 エキスパートは何を考え,どこを見ているのか? 』(盆子原秀三、山本澄子、医学書院)
- 『姿勢・動作・歩行分析 第2版 (PT・OTビジュアルテキスト) 』(臨床歩行分析研究会、畠中 泰彦、羊土社)
- 『義肢・装具学 第2版〜異常とその対応がわかる動画付き (PT・OTビジュアルテキスト)』(高田 治実、豊田 輝、石垣 栄司、羊土社)
✅ まとめ
跛行とは、歩行のリズムや姿勢が乱れる状態であり、筋力低下・疼痛・神経障害・関節変形など、さまざまな原因で生じます。多くの疾患に共通して現れる症状のため、適切な評価と介入が重要です。
本記事では、跛行の種類・原因・評価方法・リハビリ介入・物理療法・鑑別・国家試験対策などを幅広く解説しました。歩容の観察を通じて、その人の背景にある病態を見抜く力を高めていきましょう。
リハビリに関わるすべての医療者にとって、跛行の理解は基本であり応用です。
⚠️ さいごに(注意点)
跛行の評価と介入を行う際には、次のような点に注意が必要です。
❶ 原因は一つとは限らない
跛行の背景には、筋力低下だけでなく痛み・感覚障害・習慣化した動作など、複数の要因が重なっていることがほとんどです。一つの原因に絞らず、多角的な視点で評価しましょう。
❷ 無理な歩行練習は逆効果
誤ったフォームでの歩行訓練や、症状を無視した介入は二次的な障害や代償動作を助長してしまうことがあります。必ず「安全・安定・痛みのコントロール」を優先して、段階的に訓練を進めましょう。
❸ 疾患ごとの特性を理解する
同じような跛行でも、脳卒中・パーキンソン病・整形外科疾患ではアプローチが異なります。疾患の自然経過や予後を理解したうえで、個別性の高い支援が必要です。
❹ 評価と介入はセットで
歩容を評価するだけで満足せず、実際の動作改善につながる介入を設計することが重要です。記録や報告ではなく、利用者本人の「歩きやすさ」や「生活のしやすさ」に直結する支援を意識しましょう。
歩行は日常生活の基本です。だからこそ、跛行の背景にある要因を丁寧に読み解き、その人にとって**「よりよい歩き方」**を一緒に探していくことが、私たちの大切な役割です。
📚 参考文献
- 小川真広, 小林和人. 歩行異常の見かたとリハビリテーション. 医学書院, 2019.
➡︎ 歩行分析と跛行の種類、臨床評価の観点について詳述。 - 日本理学療法士協会. 理学療法診療ガイドライン2020:神経系疾患編. 南江堂, 2020.
➡︎ 脳卒中後遺症やパーキンソン病における歩行リハビリの推奨内容を記載。 - 伊藤俊一, 三木則尚. 動作分析の進め方と歩行分析の基礎. 理学療法ジャーナル, 2008;42(6): 499-504.
➡︎ 歩行周期と跛行パターン、観察のポイントに関する基礎的文献。 - 西尾幸作. 歩行障害におけるトレンデレンブルグ徴候とその解釈. 理学療法学, 2002;29(4):174-178.
➡︎ 中殿筋機能と跛行の関係についての詳細な解説あり。 - 日本整形外科学会. 変形性股関節症診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
➡︎ 関節疾患による跛行の診療指針と評価項目。 - 本間生夫. 臨床運動学 第2版. 医歯薬出版, 2017.
➡︎ 鶏歩、間欠性跛行、パーキンソン歩行など、各種跛行の運動学的背景を網羅。 - 岩崎真宏ほか. 臨床における歩行分析:ケーススタディから学ぶ評価と介入. 文光堂, 2016.
➡︎ 症例ベースでの跛行評価・アプローチが豊富。 - 岡部昌弘. トレーニングと物理療法:最新の科学的知見に基づくアプローチ. 理学療法科学, 2017;32(2):201-206.
➡︎ 電気・温熱・超音波治療が歩行訓練に与える影響について。
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