腰痛に悩む患者は非常に多く、その原因は「筋性」「骨性」「神経性」など多岐にわたります。原因によって治療方針は大きく異なり、保存療法で改善するケースもあれば、手術や集中的なリハビリテーションが必要となる場合もあります。
本記事では、腰痛の種類とその鑑別、保存的治療、手術適応の考え方、そして理学療法による評価と治療のポイントまで、医療者・医療学生・リハビリ職初心者向けにわかりやすく整理しました。
※この記事は医学的情報に基づいて構成されていますが、症状や対応は個人差があります。必ず医師や理学療法士の診断と指導を受けてください。
🌎統計
腰痛は世界で最も多い身体の痛みの一つとされ、日本でも国民の約84%が一生のうちに一度は腰痛を経験すると報告されています(厚生労働省 国民生活基礎調査 2022年)。
さらに、整形外科外来の主訴で最も多い疾患が「腰痛」であり、特に20〜50代の労働世代に多くみられます。
以下のようなデータも報告されています👇
調査項目 | 結果 | 出典 |
---|---|---|
一生涯で腰痛を経験する割合 | 約84% | 厚労省(2022) |
医療機関にかかる腰痛患者の割合 | 外来整形患者の約30%以上 | J-STAGE「慢性腰痛に関する疫学調査」 |
就労不能の原因としての腰痛 | 世界的に1位 | WHO報告書 2019 |
腰痛の背景には、生活習慣、職業、筋肉量、加齢、心理的ストレスなどの要因が複雑に絡み合っています。
💡腰痛の原因と分類
腰痛はその原因により大きく以下のように分類されます。
一見同じような「腰の痛み」でも、筋肉・骨・神経・内臓・心理的要因など、背景が大きく異なり、対応も異なります。
ここでは代表的な4つの分類とその特徴を整理します。
✅筋性腰痛(筋・筋膜性)
🔸 概要
筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)由来の腰痛で、腰痛の中でも最も頻度が高いとされています。
長時間の同一姿勢や過負荷、筋疲労、不良姿勢などによって、腰部の筋緊張が高まり、血流障害や筋スパズムを起こして疼痛を誘発します。
🔸 好発年齢・職業
- 20~50代の活動世代に多い
- デスクワーク、看護・介護職、建設業など、前屈姿勢や重労働の多い職種
🔸 特徴
- 安静時には痛みが軽減しやすい
- 動作開始時痛や姿勢維持困難がみられる
- 圧痛点(トリガーポイント)が存在することが多い
🔸 代表例
- 急性腰痛症(ぎっくり腰)
- 慢性筋筋膜性腰痛
✅骨性腰痛(椎体・椎間板・椎間関節)
🔸 概要
腰椎そのものや椎間板、椎間関節に起因する腰痛で、加齢変化や構造的異常が関与しています。
変形性の疾患や不安定性、圧迫骨折なども含まれます。
🔸 好発年齢・職業
- 50歳以上の高齢者
- 骨粗鬆症を持つ女性や転倒歴のある方
🔸 特徴
- 朝のこわばりや長時間の立位での疼痛増悪
- 運動時の荷重・姿勢変化で痛みが出やすい
- X線やMRIで構造異常が確認されることが多い
🔸 代表例
- 変形性腰椎症
- 腰椎椎間板変性
- 腰椎分離症・すべり症
- 圧迫骨折(高齢者)
✅神経性腰痛(坐骨神経痛など)
🔸 概要
椎間板や骨構造などによって神経根や馬尾神経が圧迫・刺激されることによる腰痛で、痛みとともにしびれや脱力感などの神経症状を伴います。
🔸 好発年齢・職業
- 30~70代
- 長時間の座位・運転を行う職業に多い
🔸 特徴
- 片側の下肢への放散痛(坐骨神経痛)
- 感覚障害、筋力低下、腱反射の低下
- 長距離歩行で下肢のしびれ・脱力(間欠性跛行)
- SLR(下肢伸展挙上テスト)陽性など
🔸 代表例
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 馬尾症候群(手術緊急)
腰椎椎間板ヘルニア/脊柱管狭窄症については、
別記事🫱『【椎間板ヘルニアとは?】症状・原因・治療・リハビリまで徹底解説|若手医療者にもわかりやすく解説!』
『脊柱管狭窄症とは?原因と手術、理学療法までわかりやすく解説』で詳しく解説しています🚶
その他(内臓性・心因性など)
🔸 内臓性腰痛
- 尿路結石・腎盂腎炎・子宮筋腫・膵炎などが原因となることがあります
- 腰背部の鈍痛として現れることがあり、体位で軽減しない・再現性が乏しいのが特徴
🔸 心因性腰痛(心身症的要因)
- ストレス、不安、抑うつなどが腰痛の持続や慢性化に影響することがあります
- 身体所見と主観的訴えに乖離がある場合は心理社会的因子の評価も重要です
✅ まとめ表|腰痛の分類と特徴
分類 | 主な原因 | 症状の特徴 | 好発年齢 |
---|---|---|---|
筋性 | 筋疲労・筋膜炎 | 姿勢・動作で変動 | 20〜50代 |
骨性 | 変性・骨粗鬆 | 構造異常・こわばり | 中高年 |
神経性 | 神経根圧迫 | 放散痛・しびれ | 30〜70代 |
内臓・心因性 | 内臓疾患・ストレス | 再現性乏しい・全身症状あり | 年齢問わず |

💡出現しやすい疾患と鑑別
腰痛を訴える患者において、原因となる疾患は多岐にわたります。
その中でも臨床でよく遭遇する疾患を中心に、原因分類ごとの代表疾患と鑑別ポイントを整理していきます。
特に神経性・骨性・筋性の見極めは、評価や治療方針の大きな分かれ道になります。
✅筋性:筋・筋膜性腰痛
🔸 特徴
- 局所的な圧痛点や筋スパズム
- 姿勢や動作による痛みの変動が大きい
- 画像所見は基本的に正常
🔸 鑑別ポイント
- ストレッチや筋収縮に伴う痛み
- 触診で誘発される痛みの有無
- 安静で軽快するかどうか
🔸 鑑別すべき他疾患
- 椎間板ヘルニア(神経性)
- 変形性腰椎症(骨性)
✅骨性:椎体・椎間関節由来の腰痛
🔸 代表疾患
- 変形性腰椎症
- 腰椎分離症・すべり症
- 圧迫骨折(骨粗鬆症性)
🔸 鑑別ポイント
- 朝のこわばりや起床時痛
- 運動や長時間の立位で悪化
- X線・CT・MRIで構造変化が確認できる
🔸 特記事項
- 骨粗鬆症性圧迫骨折は特に女性高齢者に多く、転倒後の急激な疼痛やADL低下を伴う
✅神経性:坐骨神経痛・ヘルニア・狭窄症
🔸 代表疾患
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 馬尾症候群(緊急対応が必要)
🔸 鑑別ポイント
- 下肢への放散痛・しびれの有無
- SLRテストやFNSテストでの再現性
- 筋力低下・感覚障害・腱反射の異常
🔸 注意:馬尾症候群
- 両側性のしびれ・膀胱直腸障害・鞍部感覚障害が見られる
- 緊急手術が必要なことがあるため見逃し厳禁
✅内臓性・心因性の腰痛
🔸 内臓性
- 尿路結石:側腹部の疝痛、血尿、嘔気
- 子宮筋腫、子宮内膜症:月経周期に連動した下腹部〜腰痛
- 胃潰瘍、膵炎など:背部痛として現れることがある
🔸 心因性
- ストレス、抑うつ、不眠などが背景
- 身体所見に乏しく、心理社会的要因の評価が重要
✅ 鑑別早見表
疾患 | 主症状 | 特徴的な所見 | 画像診断 |
---|---|---|---|
筋筋膜性腰痛 | 局所痛 | 動作誘発痛・圧痛点 | 異常なし |
椎間板ヘルニア | 放散痛・しびれ | SLR陽性・片側下肢症状 | MRIで確認 |
脊柱管狭窄症 | 間欠性跛行 | 前屈で軽快・後屈で増悪 | MRIで狭窄確認 |
圧迫骨折 | 急な強い腰痛 | 高齢・転倒歴・叩打痛 | X線で骨折線 |
尿路結石 | 疼痛発作 | 側腹部痛・血尿・嘔気 | CT・エコー |
心因性腰痛 | 慢性的な痛み | 所見乏しい・心理的要因 | 画像異常なし |
💡腰痛に関わる解剖学の基礎
腰痛の原因を正しく評価し、適切な治療・リハビリへつなげるには、腰部の構造的理解が不可欠です。ここでは、特に理学療法で着目すべき以下の構造を解説します。
✅腰椎(L1〜L5)と仙椎(S1)の構造
腰椎は**5つの椎骨(L1〜L5)**で構成され、下方には仙椎(S1)があります。
これらは体幹の荷重を支持するだけでなく、運動の自由度と脊髄・馬尾の保護という役割も担います。

🔹 椎骨の特徴
- 腰椎は頚椎・胸椎と比べ椎体が大きく、支持性が高い
- 棘突起は太く、筋・靭帯が付着しやすい構造
- 椎間板(Intervertebral disc)は線維輪と髄核から成り、衝撃吸収の役割
🔹 関連筋群
- 多裂筋(Multifidus):体幹安定化の要
- 腰方形筋(Quadratus lumborum):側屈・骨盤の安定
- 腸腰筋(Psoas major, Iliacus):股関節屈曲・体幹前屈に関与
- 脊柱起立筋(Erector spinae):伸展動作に重要


✅神経系の構造:馬尾と末梢神経
腰椎レベルでは、脊髄はすでに終わっており、馬尾(cauda equina)と呼ばれる神経束が走行しています。
🔹 馬尾神経の特徴
- L1〜S5レベルの末梢神経が集束している状態
- 圧迫されると膀胱直腸障害・鞍部感覚障害を生じる(→馬尾症候群)
🔹 主な末梢神経
神経 | 支配領域 | 臨床的意義 |
---|---|---|
大腿神経(L2-L4) | 大腿前面、腸腰筋 | 股関節屈曲・膝伸展 |
坐骨神経(L4-S3) | 下腿後面、足底 | 膝屈曲・足関節動作 |
総腓骨神経 | 下腿外側 | 背屈・外反 |
脛骨神経 | 足底 | 足底屈・内反 |
✅靭帯・関節構造
🔹 主な靭帯
- 前縦靭帯:椎体前面を支持。過伸展を制限
- 後縦靭帯:椎体後面〜椎間板の後面。椎間板ヘルニアとの関連あり
- 黄色靭帯:椎弓間を結ぶ。脊柱管狭窄に関与することも
🔹 椎間関節(Facet joints)
- 腰椎の可動性と安定性を両立
- 加齢で変性しやすく、変形性腰椎症の原因にも
💡腰痛における手術の適応とは?
腰痛の多くは保存療法で改善しますが、一部のケースでは手術が必要になることがあります。
ここでは、理学療法士として知っておきたい「手術適応の判断基準」と「適応となる主な疾患」を解説します。
✅手術適応が検討される主な状況
以下のような場合には、保存療法のみでの改善が難しく、整形外科的な手術が推奨されることがあります。
適応状況 | 説明 |
---|---|
神経脱落症状が進行 | 筋力低下や感覚障害、膀胱直腸障害などが急激に進行 |
保存療法で効果が見られない | 3〜6か月の保存的リハビリでも日常生活に支障がある場合 |
椎体不安定性がある | 分離すべり症や強度の椎間板変性によって不安定性が強い場合 |
強い椎間孔狭窄や脊柱管狭窄が画像上で明らか | MRIやCTで神経の著しい圧迫が認められる |
痛みが激烈でADLが著しく制限されている | 睡眠障害や移動困難レベルの疼痛など |
✅手術適応となる代表的疾患
腰椎椎間板ヘルニア(Lumbar Disc Herniation)
- 保存療法で改善しない坐骨神経痛や麻痺症状がある場合
- 手術方法:Love法(椎間板摘出術)、MED(内視鏡下手術)など
- 適応例:
- SLR陽性+筋力低下
- 3か月以上の坐骨神経痛が改善しない
腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Canal Stenosis)
- 間欠性跛行が進行、排尿障害あり
- 手術方法:除圧術(椎弓切除術)、固定術(PLIFなど)
- 適応例:
- 休息しても改善しない下肢のしびれ
- 膀胱直腸障害(→緊急手術も検討)
腰椎椎間板ヘルニアについては、
別記事🫱『【椎間板ヘルニアとは?】症状・原因・治療・リハビリまで徹底解説|若手医療者にもわかりやすく解説!』で解説🚶
また、脊柱管狭窄症については🫱『脊柱管狭窄症とは?原因と手術、理学療法までわかりやすく解説』で詳しく解説しています🚶
腰椎分離・すべり症(Spondylolysis/Spondylolisthesis)
- Grade II以上のすべり+神経圧迫がある場合
- 手術方法:椎体固定術(PLIF/TLIFなど)
- 適応例:
- 進行性のすべり変化
- 固定筋力の低下、長時間立位不能など
馬尾症候群(Cauda Equina Syndrome)
- 緊急手術が必要な代表疾患
- 早期に除圧術を行わないと不可逆的な神経障害が残存する可能性
- 適応症状:
- 会陰部の感覚消失(鞍部感覚)
- 膀胱直腸障害(尿閉や失禁)
✅理学療法士として意識したい視点
理学療法士は、手術の適応かどうかの判断は行いません。しかし、以下のような視点を持つことでチーム医療に大きく貢献できます。
- 神経脱落症状のモニタリング
→ 筋力低下、感覚障害、膀胱直腸障害などの進行を定期的に評価し、医師に報告。 - 保存療法の効果判定に関わる
→ 介入前後での痛みスケール(VAS)やADL評価(JOABPEQなど)を記録し、効果の有無を客観的に提示。 - 患者教育の橋渡し役
→ 患者が手術を受けるか迷っている場合、術後の流れやリハビリの見通しについてわかりやすく説明。 - 術前リハビリの提案
→ 体力維持や呼吸機能低下予防の観点から、術前からの介入を提案・実施する。
✅手術のタイミングとその後の流れ
手術を選択するタイミングは、画像所見と症状の一致、保存療法の効果、患者の希望など複数の要因によって決まります。
術後は以下のようなステップでリハビリが進行します👇
術後時期 | 主なリハビリ内容 |
---|---|
術後1〜3日 | 安静度に応じて離床訓練、起立・歩行練習 |
術後4〜7日 | 歩行練習、腰椎周囲筋の安定化トレーニング |
術後2週〜退院前 | 筋力強化、動作練習、自宅環境に応じた調整 |
💡腰痛に対する主な手術法|保存療法で改善しない症例への選択肢
腰痛に対する治療は基本的に保存療法(運動療法や物理療法、薬物療法など)を第一選択としますが、強い神経症状や改善の見込みが乏しい場合には手術が検討されます。
以下では、代表的な手術法を簡潔に紹介します。
①椎間板ヘルニアに対する手術|除圧術が基本
手術法 | 内容 | 適応例 | 特徴 |
---|---|---|---|
LOVE法(ヘルニア摘出術) | 腰椎後方から突出したヘルニアを除去 | 腰椎椎間板ヘルニア | 侵襲が少なく再発率も低め |
MED法(内視鏡下摘出術) | 内視鏡を用いて小さな切開でヘルニアを摘出 | 上記と同様 | 傷が小さく、術後回復が早い |
どちらも神経根圧迫による坐骨神経痛やしびれが強い場合に検討されます。
②脊柱管狭窄症に対する手術|除圧と安定化
手術法 | 内容 | 適応例 | 特徴 |
---|---|---|---|
椎弓切除術 | 神経を圧迫している椎弓や靱帯を切除 | 腰部脊柱管狭窄症 | 除圧目的でよく行われる |
椎体固定術(インストゥルメンテーション) | 金属で椎体間を固定 | 不安定性がある場合 | 安定化により再発防止が可能 |
特に間欠性跛行(歩行時の下肢症状)が日常生活に支障をきたす場合、除圧+固定の組み合わせが有効とされます。
跛行については🫱『跛行とは?原因となる筋力低下・起こりやすい疾患・リハビリアプローチを徹底解説!』の中で詳しく解説しています🚶
③BKP(バルーン椎体形成術)|骨粗鬆症性圧迫骨折に対する低侵襲手術
BKP(Balloon Kyphoplasty:バルーン椎体形成術)は、圧迫骨折による腰痛に対する低侵襲手術として非常に重要です。特に高齢者の骨粗鬆症性椎体圧迫骨折で保存療法が無効な場合に有効です。
項目 | 内容 |
---|---|
対象疾患 | 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折(特にL1~L4) |
方法 | 椎体内にバルーンを挿入・拡張 → 骨セメント注入で椎体を固定・整復 |
目的 | 早期の除痛・可動性改善、円背予防、ADL維持 |
特徴 | 小切開・短時間で済む手術、局所麻酔でも可 |
注意点 | セメント漏出や静脈塞栓などの合併症リスクあり(※頻度は低い) |

BKPは特に高齢者において「痛みによる寝たきり」を防ぐ重要な手段であり、ガイドラインでも一定の条件下で推奨されています。
④その他の代表的手術|椎体間固定術など
- PLIF(後方椎体間固定術)
→ 脊柱後方からアプローチし、椎体間にケージを挿入して固定 - TLIF(経椎間孔椎体間固定術)
→ 側方からアプローチし、より侵襲を抑えた固定術
いずれも不安定性の強い変性すべり症や再発性ヘルニアなどに選択されます。
💡腰痛で筋力低下しやすい筋肉|多裂筋・腸腰筋・大殿筋に要注意!
慢性腰痛や運動不足が続くと、体幹・股関節周囲の筋肉が選択的に萎縮・筋力低下しやすくなります。ここでは、特に重要な筋肉を紹介します。
①多裂筋(たれつきん)|局所安定性を支える体幹深部筋
- 腰椎の椎体をまたいで走行し、姿勢保持・分節安定に重要
- 腰痛患者では萎縮・脂肪変性が高頻度で見られる
- エクササイズ例:四つ這いでのバードドッグ、ドローイン+股関節運動など
多裂筋の局所筋活動の再獲得が、腰痛改善のカギとされます。
②腸腰筋(ちょうようきん)|股関節屈曲と腰椎安定に関与
- 大腰筋+腸骨筋から成り、体幹〜下肢をつなぐ重要な筋
- 座位生活で萎縮しやすく、股関節屈曲・歩行時の引き上げが弱くなる
- トレーニング例:片膝立ちでの腸腰筋ストレッチ、レッグレイズ
腸腰筋は歩行能力との関連も強く、特に高齢者のロコモ予防にも不可欠です。
③大殿筋(だいでんきん)|股関節伸展と骨盤支持の主力
- 姿勢保持・立ち上がり動作・歩行の推進において重要
- 慢性腰痛では活動性の低下・タイミングの遅延が報告される
- トレーニング例:ヒップリフト、スクワット、ランジ系運動
大殿筋の筋出力低下により、腰部や膝への代償的負担が増加します。
💡動作への影響|腰痛が及ぼす日常生活の制限とは?
腰痛は単なる「痛み」にとどまらず、日常生活のさまざまな動作に影響を与え、生活の質(QOL)を大きく低下させる要因となります。以下では、代表的な動作ごとに腰痛の影響を整理します。
✅立位での影響
◆ 特徴
- 姿勢保持が困難になり、猫背や反り腰姿勢が目立つようになる。
- 長時間の立位保持で痛みが悪化する(static loading pain)。
◆ 理由
- 脊柱起立筋や多裂筋の持久力低下、椎間関節への圧負荷増大。
- 仙腸関節由来の疼痛がある場合、左右非対称な立ち姿勢が見られる。
◆ リハビリの視点
- 姿勢保持筋の再教育(体幹インナーマッスル訓練など)
- ミラーセラピーやバランス練習で荷重左右差の是正
✅歩行での影響
◆ 特徴
- 腰部を庇うために体幹の側方偏移(トレンデレンブルグ徴候類似)が出現。
- 歩幅が狭く、歩行速度が低下(小刻み歩行)。
- 坂道や階段の昇降が困難に。
◆ 原因
- 神経性腰痛(坐骨神経痛など)では、下肢後面の痛みやしびれにより抗algic gait(逃避性歩行)を呈す。
- 骨性腰痛(圧迫骨折など)では体幹の前傾姿勢が目立つ。
◆ リハビリの視点
- 動作分析による歩容の把握と段階的アプローチ
- 補助具の選定(T字杖や腰椎装具の検討)
- 臀部・体幹筋の強化と荷重練習
跛行については🫱『跛行とは?原因となる筋力低下・起こりやすい疾患・リハビリアプローチを徹底解説!』の中で詳しく解説しています🚶
✅座位での影響
◆ 特徴
- 長時間の座位保持で痛みが増強。
- 腰背部を支える筋の緊張が低下し、前屈み姿勢が助長されやすい。
◆ 原因
- 椎間板性の腰痛では、座位による椎間内圧の上昇が誘因に。
- 筋性腰痛では、骨盤後傾とハムストリングスの硬さが関与。
◆ リハビリの視点
- 座位姿勢の環境調整(クッション・腰サポート)
- 立ち座りの反復訓練による体幹支持性の改善
- 骨盤・股関節まわりの柔軟性向上
✅起居動作・ADL全般での支障
- 寝返り、立ち上がり、靴下の着脱といった「かがむ・ねじる」動作が特に困難。
- 高齢者では、腰痛を理由に活動性が低下し、廃用症候群を招くリスクも。
💡理学療法評価|腰痛の原因を多角的に見極める
腰痛の評価は、単に「痛みの場所」を把握するだけでは不十分です。原因や障害のメカニズムを解明し、治療方針を明確化するための評価が求められます。以下では、評価の流れを問診から運動機能評価、スケールまで段階的に整理します。
①問診|主訴・痛みの性状・経過の把握
◆ 評価ポイント
- 発症時期:急性?慢性?繰り返し発生?
- 増悪・寛解因子:動作・姿勢・時間帯との関連性
- 痛みの性質:鈍痛?鋭い痛み?しびれ?放散痛?
- 日常生活への影響:仕事・家事・睡眠・趣味など
- 過去の既往歴や画像診断の有無(MRI, X線など)
◆ 観察例
- 「朝起きた直後が痛い」→椎間板性の可能性
- 「座っていると辛くなる」→筋・椎間板・神経根性
②視診・触診|姿勢・筋緊張・局所圧痛の把握
◆ 評価ポイント
- アライメント(前弯の消失、骨盤傾斜、左右非対称など)
- 脊柱の可動性(前屈・後屈・側屈・回旋)
- 腰背部筋の緊張・圧痛(脊柱起立筋、多裂筋、腰方形筋)
- 骨性の圧痛(棘突起圧痛、椎間関節部)
◆ 観察例
- 骨盤後傾+腰椎の平坦化 → 長期座位者や加齢者に多い
- 一側性の筋緊張+圧痛 → 筋性腰痛やファシアの癒着
③徒手検査|鑑別に必要な神経・関節評価
◆ 代表的な検査
検査名 | 目的 | 意義 |
---|---|---|
SLR(Straight Leg Raising test) | 坐骨神経の伸張性評価 | 陽性で椎間板ヘルニア疑い |
Kemp test | 椎間関節性疼痛の誘発 | 関節性腰痛の鑑別 |
Patrick(FABER)test | 仙腸関節の評価 | SI関節障害や股関節由来の鑑別 |
◆ 神経学的所見の確認
- 筋力低下、知覚異常、腱反射の左右差
- 感覚領域に沿った放散痛(デルマトームの確認)
④動作分析|機能的な障害を観察
- 立ち上がりや歩行時の体幹・骨盤の動き
- 代償動作や痛み回避動作の有無
- 骨盤の前後傾・腰椎伸展制限などの確認
⑤スケール評価|痛みとQOLの主観的評価
◆ 主な評価ツール
スケール名 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
VAS(Visual Analog Scale) | 痛みの強さを0〜10で評価 | 最も簡便かつ汎用性あり |
NRS(Numerical Rating Scale) | 数字による痛みの程度評価 | 視覚的困難がある人にも適応 |
ODI(Oswestry Disability Index) | 腰痛による日常生活障害度 | 詳細なADL障害の評価に有用 |
RDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire) | 日常動作における腰痛の影響 | 軽度〜中等度腰痛の評価に適す |
💡理学療法治療|腰痛に対する保存的アプローチの基本
腰痛に対する理学療法は、保存療法の主軸として重要な役割を果たします。単なる安静指導ではなく、患者ごとの評価結果に応じた個別アプローチが必要です。
①急性期の治療戦略|炎症コントロールと過用回避
◆ 目的
- 炎症・疼痛の抑制
- 過度な筋緊張の軽減
- 過用(overuse)の予防
◆ 主なアプローチ
方法 | 内容 |
---|---|
安静指導 | 痛みを悪化させる動作・姿勢の制限(必要最小限) |
アイシング | 局所炎症・筋過緊張の抑制(20分×数回/日) |
物理療法 | 低周波治療、超音波、TENSなど(鎮痛目的) |
補助具 | コルセット使用(短期間・目的明確に) |
◆ 注意点
- 必要以上の安静は慢性化リスクを高めるため、疼痛許容範囲での早期活動が推奨されます(疼痛科学教育も含めて指導)。
②回復期〜慢性期の治療戦略|再発予防と機能改善
◆ 目的
- 柔軟性・筋力・動作パターンの改善
- 再発予防(自己管理能力の向上)
◆ 主な運動療法
アプローチ名 | 内容・例 |
---|---|
ストレッチ | ハムストリングス・大腿筋膜張筋・腰背部筋群など |
筋力強化 | 腹横筋・多裂筋・大臀筋などの体幹安定化トレーニング |
姿勢・動作再教育 | 骨盤前傾/後傾の調整、腹式呼吸、腰部回旋動作の習得など |
モーターコントロール訓練 | ブリッジ、四つ這い姿勢でのバランス練習 |
◆ 代表的エクササイズ例
種類 | 内容 |
---|---|
ブリッジ | 臀筋・体幹筋強化(腰部に負担をかけずに) |
ドローイン | 腹横筋を活性化、腰部の安定性向上 |
バードドッグ | 腰椎〜骨盤の協調運動訓練 |
③物理療法|疼痛緩和と筋の活性化補助
種類 | 目的・効果 |
---|---|
低周波・干渉波 | 鎮痛、筋スパズムの緩和 |
超音波治療 | 深部加温、軟部組織の治癒促進 |
温熱療法(ホットパックなど) | 筋の柔軟性向上、循環改善 |
TENS(経皮的電気神経刺激) | 神経性疼痛の緩和に有効 |
④認知行動療法的アプローチ|慢性腰痛の新しい視点
- 「痛み=動いてはいけない」という誤った認知(fear avoidance)を修正
- 日常生活への自信回復や復職支援プログラム
- 心理的因子の評価(Tampa scaleなど)も重要
慢性腰痛は、単なる「筋骨格系の問題」ではなく「心理社会的要因」も関与するバイオ・サイコ・ソーシャルモデルでの理解が求められます。
⑤運動療法と教育の併用が鍵
- エクササイズ+痛みの教育(Pain Neuroscience Education)の併用が、再発率の低下に効果的。
- 腰痛への誤解(ヘルニア=手術が必要等)を是正する機会にもなる。
💡物理療法|腰痛に対する補助的アプローチ
物理療法は、疼痛緩和・循環改善・治癒促進を目的に、運動療法と併用して効果を高める手段として活用されます。単独での使用では一時的効果にとどまることが多いため、タイミングと目的を明確にした使用が重要です。
①温熱療法|筋緊張緩和と血流改善
種類 | 使用例 | 作用・効果 |
---|---|---|
ホットパック | 腰背部・殿部 | 筋緊張の軽減、血流促進、疼痛緩和 |
パラフィン浴 | 関節部位(まれに) | 表在部の保温、手・足の硬さに有効 |
超音波療法(連続波) | 深部組織 | 深部加温、瘢痕組織の柔軟性向上 |
急性期の使用は禁忌であり、慢性腰痛において筋緊張や循環改善が主目的のときに選択されます。
②寒冷療法(アイシング)|急性炎症期の痛み軽減
使用法 | 目的・適応 | 注意点 |
---|---|---|
保冷剤・アイスパック(15〜20分) | 炎症抑制、神経伝達遅延による鎮痛 | 凍傷・感覚鈍麻に注意(皮膚状態を確認) |
炎症兆候(熱感・腫脹・発赤)がみられる急性腰痛(ぎっくり腰など)での初期対応に有効です。
③電気刺激療法|鎮痛と筋促通を目的とした介入
種類 | 特徴・目的 | 適応例 |
---|---|---|
低周波(TENS・EMS) | 鎮痛(TENS)、筋出力向上(EMS) | 神経性腰痛、筋力低下 |
干渉波 | 複数の中周波数を干渉 → 深部まで刺激 | 広範囲の筋緊張・疼痛軽減 |
マイクロカレント(MCR) | 微弱電流 → 組織修復促進 | 腰部軟部組織損傷(筋膜炎など) |
TENSは「痛みのゲート理論」に基づく治療であり、慢性腰痛に対してもセルフケア機器として活用されることがあります。
④超音波療法|深部組織へのアプローチ
モード | 効果 | 適応例 |
---|---|---|
連続波 | 深部温熱効果、軟部組織柔軟化 | 慢性腰痛、瘢痕部 |
パルス波 | 細胞活性化、浮腫軽減 | 炎症期後期、回復期 |
使用中はプローブの停滞による局所過熱に注意。ジェルの塗布と円滑な動かし方が基本です。
⑤牽引療法(けんいん)|椎間関節・神経根の除圧
方法 | 効果 | 適応 | 留意点 |
---|---|---|---|
腰椎牽引 | 椎間関節の除圧、神経根の伸張 | 坐骨神経痛、椎間板障害 | 急性腰痛、脊椎不安定例では禁忌 |
効果には個人差が大きく、最新のエビデンスでは「牽引単独の有効性は限定的」との指摘もあります。補助的に検討するのが望ましいです。
⑥物理療法の注意点|漫然とした使用の回避
- 目的を持たない使用は慢性化や依存傾向につながる可能性あり
- 運動療法や教育との併用が前提
- 最新のガイドラインでも「物理療法は補助的」との位置付けが一般的
✅エビデンス紹介|物理療法の位置づけ
・腰痛診療ガイドライン(日本整形外科学会 2019)では、**「TENSや超音波療法はエビデンスが弱いものの、症状改善に寄与する可能性がある」**と記載されています。
・「疼痛管理の第一選択ではなく、機能回復に向けた補助的手段としての活用」が推奨されています。
🏠 ホームエクササイズ(保存療法の一環)
腰痛の改善・予防には、日常生活での「継続的な運動習慣」が鍵です。以下に代表的な腰痛予防のホームエクササイズを紹介します。
✅ 基本方針
- 急性期: 安静+コアの再活性化(腹式呼吸など)
- 回復期: 動作指導+体幹安定性の再獲得
- 慢性期: 有酸素運動や筋トレを組み合わせて再発予防
① 骨盤傾斜運動(ペルビックチルト)
目的: 骨盤の動きを改善し、腰椎の柔軟性を保つ
方法:
- 仰向けで膝を立てて寝る。
- 息を吐きながら腹筋を締めて骨盤を後傾させる。
- 数秒キープしてゆっくり戻す(10回×2セット)
② 腹横筋トレーニング(ドローイン)
目的: 体幹の深部筋(インナーマッスル)活性化
方法:
- 仰向け or 四つ這い姿勢で、背中を反らないよう注意。
- 鼻から息を吸い、お腹を膨らませる。
- ゆっくり吐きながらお腹を凹ませて10秒キープ(10回×2セット)
③ ブリッジ運動
目的: 臀筋や脊柱起立筋の強化
方法:
- 仰向けで膝を立てる。
- お尻をゆっくり持ち上げて、肩〜膝が一直線に。
- 5秒キープしてゆっくり戻す(10回×2セット)
腰痛ある人がブリッジ運動をするときの注意点とリスク⚠️
ブリッジ運動(ヒップリフト)は、お尻や体幹を鍛える定番エクササイズ。でも腰痛がある人にとっては要注意の動きでもあります。
✅ブリッジ運動のメリット
・お尻(大殿筋)や太もも裏(ハムストリングス)を強化
・体幹の安定性UP
・猫背や反り腰の改善にも効果あり
とはいえ…👇
🚨腰痛の人が注意すべきポイント
1. 腰を反らせすぎない!
「お尻を高く上げよう」としすぎて、腰が過剰に反ると腰に負担が集中して逆効果に。
👉おへそより少し上がるくらいでOK。
2. 腰じゃなくて“お尻”で上げる意識
お尻の筋肉を使って持ち上げるように意識すると◎。
👉腰の力で上げてしまうと、痛みが悪化するリスクあり。
3. 痛みが出たら中止!
「ちょっと痛いけど頑張ろう」はNG。
👉少しでも腰に違和感が出たら、すぐに中止か運動を修正しましょう。
4. マットやクッションを使う
床が硬いと骨盤や背中が当たって痛くなることも。
👉ヨガマットやバスタオルを敷いてクッション性UP。
⚠リスクとして考えられること
- 腰痛が悪化する(特に反り腰タイプの人は注意)
- ハムストリングスばかり使って、お尻がうまく鍛えられない
- 正しいフォームを知らずに自己流でやって逆効果に
🎯こんな人は専門家に相談を
- 腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症など診断を受けている人
- 何をしても腰痛が改善しない人
- 運動中にしびれや鋭い痛みが出る人
まとめ
腰痛がある人でも、正しいフォーム&無理のない範囲で行えばブリッジ運動は有効です。でも、ちょっとした動きのクセで腰に負担がかかることもあるので、**「お尻で上げる」「腰は反らせすぎない」**を意識して、慎重に行いましょう!
④ キャットアンドカウ
目的: 背骨の柔軟性向上と自律神経へのアプローチ
方法:
- 四つ這い姿勢で、吸いながら背中を反らせる(カウ)
- 吐きながら背中を丸める(キャット)
- 呼吸とともに10回ほど繰り返す
📝 注意点
- 痛みが強い場合は中止!
- 姿勢と呼吸の意識が大切
- 急性期は無理をせず、医師や理学療法士の指導のもと行うのが安全
コルセットについては🫱『腰痛や手術後にコルセットは必要?保存療法・術後リハビリとの関係と種類を解説!』の中で解説しています💡
🎓 国家試験対策
腰痛に関する国家試験の出題傾向と対策ポイントを紹介します。
✅ 頻出テーマ一覧
項目 | 内容 | 出題例 |
---|---|---|
疼痛部位の鑑別 | 神経根性 vs 筋膜性 | L4障害では膝伸展力低下など |
神経学的評価 | 筋力・知覚・反射 | SLRT陽性、腱反射低下など |
手術の適応判断 | 圧迫症状、麻痺、ADL障害 | 馬尾症候群など即手術 |
保存療法の基礎 | 物理療法、運動療法 | ウィリアム体操、マッケンジー体操 |
診断と画像 | MRI所見の解釈 | 椎間板ヘルニアの位置確認など |
📌 過去問ワンポイント(例)
Q. L5神経根障害でみられやすい運動麻痺は?
→ 答:母趾背屈(前脛骨筋)
Q. 馬尾症候群の緊急サインは?
→ 答:膀胱直腸障害、サドル麻痺など(緊急手術対象)
💡Q&A
Q1. 腰椎圧迫骨折は寝たきりになりやすいって本当?
A:
はい、特に高齢者では寝たきりのリスクが高まります。
痛みにより活動量が低下し、筋力やバランス機能も一気に低下します。これにより廃用症候群や誤嚥性肺炎、深部静脈血栓症などを併発しやすくなるため、早期離床とリハビリ開始が非常に重要です。
Q2. 骨粗鬆症の人が転ばないためにはどうすればいい?
A:
転倒予防の3本柱があります:
- 環境調整(段差や滑り止め対策)
- 運動療法(下肢筋力・バランス向上)
- 生活習慣指導(食事、ビタミンD、日光浴など)
理学療法士が中心となって評価・訓練を行うとともに、家族や介護職との連携も重要です。
Q3. 骨セメント(BKP)は誰でも受けられる?
A:
すべての圧迫骨折に適応されるわけではありません。
対象は以下のようなケースに限られます:
- 圧迫骨折による難治性疼痛が持続
- 保存療法が無効でADLが著しく低下
- 骨折後数週間以内(急性期)
一方で、神経障害や感染、悪性腫瘍による骨折には禁忌となることもあります。整形外科医と相談して慎重に判断します。
Q4. 一度骨折すると、また折れやすくなるの?
A:
はい。「骨折の連鎖」という言葉があるように、1カ所骨折するとその周辺に二次骨折が起こりやすくなります。
特に椎体骨折は、隣接椎体へのストレス増大により、次々と新しい骨折が発生するリスクがあります。
そのため、骨粗鬆症の治療と並行して、体幹筋の強化や転倒予防対策が必須です。
Q5. 圧迫骨折の診断でMRIが必要な理由は?
A:
MRIは**「新鮮骨折」か「陳旧性骨折」かを見分ける唯一の方法**とされています。
X線では骨折が見えないこともあり、CTでも古い骨折との区別は難しい場合があります。
MRIでは**骨髄浮腫(STIR像など)**の有無を確認できるため、治療方針の決定に非常に有効です。
📚 最新ガイドライン解説
※2021年版「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(日本骨代謝学会)」を中心に解説
✅ 1. 骨粗鬆症性椎体骨折の診断基準
- X線検査による椎体高の低下(20%以上)が骨折の根拠とされます。
- MRIで骨髄浮腫を確認できる場合は新鮮骨折と診断されます。
- 症状が乏しい無症候性骨折も存在するため、注意が必要。
✅ 2. 保存療法が第一選択
- 急性期:安静・コルセット着用(約4~8週間)
- 痛みが許せば可能な限り早期離床・リハビリを行う
- 鎮痛薬(アセトアミノフェン、非ステロイド抗炎症薬)の使用が基本
- オピオイドは短期間・慎重に使用
✅ 3. 手術療法(BKPなど)の適応
以下のいずれかに該当する場合に検討されます:
適応条件 | 解説 |
---|---|
難治性疼痛 | 保存療法で効果が乏しい強い痛みが続く場合 |
ADL低下 | 寝たきりになるほどのADL障害が生じている場合 |
変形進行 | 椎体の楔状変形が進み、後彎変形を伴う場合 |
※ただし、神経症状や感染、悪性腫瘍の疑いがある場合は禁忌となります。
✅ 4. 骨粗鬆症の薬物治療(再発予防)
- ビスホスホネート製剤(第一選択):骨吸収抑制
- デノスマブ(皮下注射):骨密度の改善
- テリパラチド(骨形成促進):特に脊椎骨折が多発しているケースに有効
- カルシウム+ビタミンD補充:全例に推奨
✅ 5. 転倒予防も明記
- 運動療法(筋トレ・バランス訓練)
- 住環境の改善(段差・照明・手すりなど)
- 多職種連携(PT、OT、薬剤師、介護職など)による支援
🔎 補足:国際ガイドラインとの比較
- アメリカ(NOF:National Osteoporosis Foundation)やヨーロッパ(ESCEO)でも同様に「保存療法優先」「再骨折予防のための骨粗鬆症治療」を重視しています。
- BKPの使用は慎重かつ限定的なケースに限る方針で一致しています。
📚書籍紹介
- 『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版 徒手療法がわかるWeb動画付』(工藤慎太郎、川村和之、颯田季央、森田竜治、河西謙吾 、医学書院)→Amazonリンク
- 『筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版』(Donald A.Neumann、P.D.Andrew、医歯薬出版株式会社 )→Amazonリンク
- 『運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹』(林 典雄、、メジカルビュー社)→Amazonリンク
- 『成田崇矢の臨床『腰痛』 (“臨床”シリーズ)』(成田崇矢、運動と医学の出版社)→Amazonリンク
📝 まとめ
腰痛は非常に多くの人が経験する症状であり、その原因は筋・筋膜性、椎間板性、椎体骨折、神経根性、内臓由来など多岐にわたります。
理学療法士や医療従事者にとっては、問診・視診・触診・動作分析を通じて適切な鑑別を行い、評価と治療に繋げる力が求められます。
特に、
- 圧迫骨折後の後弯変形
- 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄による神経症状
- 高齢者の可動域制限と筋力低下に起因する姿勢崩壊
- 心理社会的要因(いわゆるYellow flag)
など、単純な痛みだけでは読み取れない多面的な要素に目を向けることが重要です。
💡 リハビリでは、疼痛のコントロールと機能回復のバランスを取りながら、動作の再教育・筋力強化・セルフエクササイズ指導を行う必要があります。
また、国家試験対策としても腰痛は高頻出テーマであるため、基礎と臨床をつなぐ理解が欠かせません。
⚠️ さいごに(注意喚起)
本記事は、腰痛に関する基礎知識・鑑別ポイント・リハビリ・国家試験対策について、医療学生・若手医療従事者向けに解説した内容です。
あくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を代替するものではありません。
- 腰痛の症状が強く長引く場合
- 下肢のしびれ・麻痺・排尿障害などを伴う場合
- 転倒や外傷の後に腰痛が発症した場合
こうしたケースでは、医療機関を速やかに受診し、専門医の判断を仰ぐことが必要です。
また、リハビリの実施にあたっては担当医・理学療法士等の指導のもとで行うことが望ましく、自己判断での過度な運動やマッサージは状態を悪化させる恐れがあります。
安全で効果的な医療提供のために、エビデンスと臨床経験の両方を大切にしていきましょう。
📚 参考文献
- 日本骨粗鬆症学会.骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2021年版
- 日本整形外科学会. 「腰痛診療ガイドライン2019」. 南江堂, 2019年.
- 岡田慎一郎. 理学療法における腰痛へのアプローチ. 理学療法ジャーナル, 2015; 49(2): 109–114.
- Yoshihara H. et al. Trends in the Surgical Treatment for Lumbar Spine Diseases in Japan. Global Spine J, 2014; 4(2): 77–83. doi:10.1055/s-0033-1364003
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