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「坐骨神経痛とは?原因・治療・リハビリのすべてを医療従事者向けにわかりやすく解説」

坐骨神経痛とは? 疾患別
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坐骨神経痛に悩む患者さんは、実はかなり多くいます。
「足がしびれる」「動くと腰から足に痛みが走る」「坐骨神経痛と言われたけど、実際どういう状態なの?」といった声が臨床の現場でよく聞かれます。

医療学生や新人の理学療法士、作業療法士にとって、坐骨神経痛の原因や鑑別、評価・治療の流れを理解しておくことは極めて重要です。
本記事では、一般の方にも伝わるやさしい表現を心がけつつ、専門職が知っておくべき臨床的ポイントを網羅的に解説します。

  1. 📊 統計:坐骨神経痛の有病率と訴えの多さ
  2. 原因
    1. 坐骨神経痛の主な原因分類
    2. 好発年齢と性差
    3. 梨状筋症候群のような「非椎間板由来の神経圧迫」
    4. 慢性疾患との関連
  3. 出現しやすい疾患
    1. 椎間板ヘルニア(腰椎椎間板ヘルニア)
    2. 腰部脊柱管狭窄症
    3. 梨状筋症候群
    4. 腰椎すべり症
    5. 腰椎圧迫骨折(特に高齢者)
    6. 腫瘍・感染症などの非整形外科的要因
  4. 解剖学
    1. 坐骨神経の概要
    2. 臨床的に重要なポイント
      1. 大坐骨孔通過部
      2. 神経根と椎間板の位置関係
      3. 分岐部(膝窩)
  5. 手術適応
    1. 基本的な手術適応の条件
    2. 疾患別の具体的な手術適応
    3. ガイドライン上の手術推奨
    4. 注意点
  6. 手術の種類
    1. 1. 椎間板ヘルニアに対する手術
      1. ● LOVE法(Love’s method)
      2. ● MED(Micro Endoscopic Discectomy)
      3. ● PELD(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)
    2. 2. 腰部脊柱管狭窄症に対する手術
      1. ● 除圧術(Decompression surgery)
      2. ● 椎弓切除術(Laminectomy)
      3. ● 椎弓形成術(Laminoplasty)
    3. 3. 腰椎すべり症や不安定性のある症例に対する手術
      1. ● 脊椎固定術(Spinal fusion)
      2. ● MIS-TLIF(Minimally Invasive Transforaminal Lumbar Interbody Fusion)
    4. 表:坐骨神経痛の原因疾患と代表的手術法
    5. 注意点
  7. 筋力低下しやすい筋肉
    1. 1. L4~S3神経根と坐骨神経の関係
    2. 2. 神経根別にみる筋力低下しやすい筋肉
    3. 3. 病態と筋力低下の関連
      1. ● 椎間板ヘルニア(L4/5やL5/S1レベルが多い)
      2. ● 脊柱管狭窄症
    4. 4. 筋力低下の評価に用いられる方法
    5. 注意点
  8. 動作への影響
    1. 1. 歩行動作への影響
      1. ● 歩行距離の短縮
      2. ● フットドロップによる歩行障害
    2. 2. 立ち上がり動作の困難
    3. 3. 階段昇降時の影響
    4. 4. 立位・歩行中の姿勢異常
    5. 5. 長時間の同一姿勢の困難
    6. 注意点
  9. 理学療法評価
    1. 1. 神経根障害のスクリーニング
      1. ● 下肢伸展挙上試験(SLRテスト)
      2. ● 大腿神経伸展テスト(フェムラルストレッチテスト)
    2. 2. 筋力評価(MMT)
    3. 3. 感覚検査
    4. 4. 姿勢・動作観察
    5. 5. 歩行分析
    6. 6. ADL評価
    7. 注意点
  10. 理学療法治療
    1. 1. 神経モビライゼーション(神経滑走訓練)
    2. 2. 筋力強化訓練(MMT3未満は除荷下で)
    3. 3. 体幹・骨盤の安定化訓練
    4. 4. 姿勢矯正・体幹ストレッチ
    5. 5. 歩行訓練
    6. 6. 有酸素運動(適応に応じて)
  11. 物理療法
    1. 1. 温熱療法(ホットパック・パラフィン浴)
    2. 2. 電気刺激療法(TENS)
    3. 3. 超音波療法(深部組織の加温・組織修復促進)
    4. 4. 牽引療法(腰椎)
    5. 5. 赤外線療法・レーザー治療(近赤外線)
    6. まとめ:物理療法の選択は評価に基づいて
  12. 国家試験対策
    1. 【1】坐骨神経の解剖と走行
    2. 【2】原因疾患
    3. 【3】症状・理学所見
    4. 【4】治療方針と理学療法
    5. 【5】関連する国試過去問例(抜粋)
      1. 第54回(2020年)理学療法士国家試験より:
    6. 国家試験対策まとめ
  13. Q&A
    1. Q1. 坐骨神経痛って、どんな症状が出るの?
    2. Q2. 腰痛と坐骨神経痛ってどう違うの?
    3. Q3. 電気治療や温熱療法って効果あるの?
    4. Q4. 坐骨神経痛の人は運動してもいいの?
    5. Q5. 病院に行くタイミングは?
  14. 最新ガイドライン
    1. 1. 日本整形外科学会/日本腰痛学会の「腰痛診療ガイドライン2021」
    2. 2. 欧州腰痛ガイドライン(European Guidelines)
    3. 3. NICEガイドライン(イギリス)
    4. 4. 理学療法に関する推奨事項
    5. 5. ガイドラインに基づく実践ポイント
  15. 書籍紹介
  16. まとめ
  17. さいごに(注意文)
  18. 参考文献

📊 統計:坐骨神経痛の有病率と訴えの多さ

坐骨神経痛は、腰痛症の中でも特に多い神経症状のひとつであり、放散痛やしびれを訴える患者が多いのが特徴です。
厚生労働省の「国民生活基礎調査(2019年)」によると、日本における腰痛の有訴者率は全体の10.9%、特に40代〜60代での訴えが多く報告されています。

また、整形外科外来における「坐骨神経痛症状を含む神経根障害性腰痛」の頻度は、腰部椎間板ヘルニア(LDH)や脊柱管狭窄症を背景とするものが大多数とされています(Matsudaira et al., 2013)。

参考文献:
・厚生労働省「国民生活基礎調査(2019年)」
・Matsudaira K et al. “Epidemiological profile of patients with sciatica in Japan”, J Orthop Sci. 2013.

原因

坐骨神経痛は、坐骨神経が何らかの原因で圧迫または刺激されることで生じる症候群であり、原因は多岐にわたります。代表的な原因疾患や病態を以下に分類して整理します。

坐骨神経痛の主な原因分類

分類原因疾患・病態備考
椎間板由来椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症20〜50代に多く見られる
骨・関節由来変形性腰椎症、すべり症、椎体骨折高齢者に多い
筋・軟部組織由来梨状筋症候群長時間の座位やスポーツ歴に関連
内科的要因糖尿病性ニューロパチー、腫瘍、感染症慢性疾患や全身状態に起因
妊娠や体位性子宮による神経圧迫、長時間の同一姿勢妊娠後期や長時間の車移動などで発症しやすい

好発年齢と性差

  • 20〜40代の若年〜中年層:椎間板ヘルニアが主な原因。急性発症が多く、突発的な腰痛や下肢への放散痛が特徴。
  • 50代以降の中高年層:脊柱管狭窄症や変形性脊椎症が多く、慢性的な症状として出現。歩行時のしびれや間欠性跛行が出現しやすい。
  • 女性>男性の傾向:妊娠や骨粗鬆症との関連が指摘されており、女性にやや多い傾向がある。

梨状筋症候群のような「非椎間板由来の神経圧迫」

特に梨状筋症候群は、デスクワークやスポーツで坐骨神経が梨状筋を通過する部位で圧迫されて発症することがあり、レントゲンやMRIで異常が見つからないため見逃されやすい「機能性要因」としても重要です。

慢性疾患との関連

糖尿病性ニューロパチーや悪性腫瘍による神経圧迫など、整形外科以外の内科的疾患が背景にある場合もあるため、単なる「腰痛・神経痛」として見逃さないことが重要です。

このように、「坐骨神経痛」といっても原因は多岐にわたり、年齢や生活背景、基礎疾患の有無などから多角的にアプローチする必要があります。

出現しやすい疾患

坐骨神経痛の症状は単独の疾患に限らず、複数の疾患により引き起こされる可能性があります。以下では、整形外科的疾患を中心に、出現頻度の高い疾患を解説します。

椎間板ヘルニア(腰椎椎間板ヘルニア)

20〜40代に好発し、腰椎の椎間板が突出して神経根を圧迫することで坐骨神経痛を引き起こします。

  • 症状:急性の腰痛、片側性の下肢への放散痛、咳やくしゃみで悪化。
  • 診断:MRIでの椎間板の突出所見、SLRテスト陽性。
  • 特徴:若年層での初発やスポーツ歴を持つ症例に多い。

坐骨神経痛の原因のひとつに腰椎椎間板ヘルニアがあります。詳しくは「👉 【椎間板ヘルニアとは?】症状・原因・治療・リハビリまで徹底解説」をご覧ください。

腰部脊柱管狭窄症

50歳以上に多く、加齢に伴う靭帯肥厚や骨棘形成で神経の通り道が狭くなることで発症します。

  • 症状:間欠性跛行(数分歩くと下肢にしびれ→休憩で改善)、両側性の症状もあり。
  • 診断:MRIでの脊柱管の狭小化、腰部の屈曲で症状が緩和。
  • 特徴:長期にわたる慢性症状として現れる。

梨状筋症候群

坐骨神経が梨状筋を通過する部位で筋緊張により圧迫されて起こる疾患。整形外科的画像所見が乏しく、見逃されやすい。

  • 症状:殿部の鈍痛、長時間座位や階段昇降で増悪。
  • 診断:圧痛点(梨状筋部)、Freibergテスト、Paceテスト陽性。
  • 特徴:アスリートや長時間座位の多いデスクワーカーに多い。

腰椎すべり症

腰椎の一部が前方へずれている状態で、脊柱管や神経根への圧迫を引き起こす疾患。

  • 症状:腰痛、下肢のしびれ、長時間立位で悪化。
  • 診断:X線(側面像)での椎体の前方移動所見。
  • 特徴:40〜60代女性に多く、骨盤後傾姿勢が影響する。

腰椎圧迫骨折(特に高齢者)

骨粗鬆症の進行による軽微な外傷でも発生しやすく、後方にある神経根が刺激され坐骨神経痛様の症状を示すことがあります。

  • 症状:腰部痛、安静時痛、起立・歩行困難。
  • 診断:X線、MRIにて骨折の確認。
  • 特徴:骨粗鬆症が背景にある70代以上の高齢者に多い。

腫瘍・感染症などの非整形外科的要因

  • 腫瘍:骨盤内腫瘍や脊椎転移による神経圧迫。
  • 感染症:脊椎炎や膿瘍による神経の炎症。
  • 糖尿病性ニューロパチー:神経障害による慢性的な痛みやしびれ。

以上が、坐骨神経痛の原因となる代表的な疾患です。それぞれの疾患によって治療方針が異なるため、正確な診断と多角的な評価が重要です。

解剖学

坐骨神経痛を理解するには、まず**坐骨神経(sciatic nerve)**とその周辺構造の解剖学的知識が重要です。以下に、臨床上とくに関連の深いポイントを整理します。

坐骨神経の概要

坐骨神経は人体で最も太く・長い末梢神経で、腰仙骨神経叢(L4〜S3)から起こります。

  • 起始:腰椎4番(L4)〜仙骨3番(S3)の神経根から構成
  • 走行:骨盤内 → 大坐骨孔を通って殿部後面 → 大腿後面を下行 → 膝窩部で脛骨神経と総腓骨神経に分岐
  • 支配領域
    • 運動:ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)、下腿・足の筋群
    • 感覚:大腿後面、下腿外側、足背・足底など

臨床的に重要なポイント

大坐骨孔通過部

坐骨神経は大坐骨孔を通り、梨状筋の下(あるいは貫通)を経由して殿部後面に出ます。この部位が梨状筋症候群の発生部位となりやすいです。

神経根と椎間板の位置関係

腰椎レベル圧迫されやすい神経根好発疾患
L4/L5椎間板L5神経根椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症
L5/S1椎間板S1神経根椎間板ヘルニア、すべり症
  • L5障害 → 足趾背屈困難(例:下垂足)
  • S1障害 → アキレス腱反射低下、足底の感覚異常

分岐部(膝窩)

膝の裏で脛骨神経と総腓骨神経に分岐し、それぞれ下腿前後面、足部の運動・感覚を支配します。この分岐部以降の障害は、より末梢性神経障害の症状として出現します。

坐骨神経痛を解剖学的に理解することで、どのレベル・部位の障害がどのような症状につながるかを推測できます。

手術適応

坐骨神経痛は多くの場合、保存的治療(薬物療法・理学療法・物理療法など)で改善が期待されますが、一定の条件を満たす場合には手術が適応されます。以下では、代表的な手術適応の判断基準やガイドラインに基づいた考え方を解説します。

基本的な手術適応の条件

手術が検討されるのは、以下のようなケースです:

  • 強い下肢痛が保存療法で6週間以上改善しない場合
  • 筋力低下や感覚障害が進行している場合
  • 排尿・排便障害が出現した場合(馬尾症候群)
  • 日常生活に著しい支障をきたす場合

💡【補足】「坐骨神経痛=すぐ手術」ではなく、画像所見と症状の一致が重要です。

疾患別の具体的な手術適応

疾患名手術適応の目安
椎間板ヘルニア保存療法で改善しない重度の下肢痛、筋力低下、しびれ、膀胱直腸障害がある場合
腰部脊柱管狭窄症間欠性跛行が強く、保存療法で改善が見られない場合
腰椎すべり症脊柱管狭窄を伴い、神経症状が持続・悪化する場合
腫瘍や感染による坐骨神経障害原因疾患の外科的除去が必要な場合

ガイドライン上の手術推奨

日本整形外科学会の「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2021」では、以下のように述べられています:

「保存的治療に反応しない神経根症状や馬尾症状に対しては、神経除圧術が有効である」(腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2021より)

また、椎間板ヘルニアに関しては、欧米の複数のRCTにおいて**「適切な適応例では手術の方が早期改善が得られる」との報告**もあります(Weinstein et al., Spine, 2006)。

注意点

  • 高齢者では手術のリスクとリターンを慎重に比較検討する必要があります。
  • 画像所見に異常があっても、症状との関連性が低い場合は手術適応とはなりません

手術の種類

坐骨神経痛に対する手術は、原因疾患(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・すべり症など)に応じて手術方法が選択されます。以下では、代表的な手術法を疾患ごとにわかりやすく整理します。

1. 椎間板ヘルニアに対する手術

● LOVE法(Love’s method)

  • 代表的な従来法(後方椎間板摘出術)
  • 腰部後方からアプローチし、突出した椎間板を除去
  • 神経根の圧迫を解除し、痛みを改善
  • 現在はやや減少傾向、より低侵襲手術が主流

● MED(Micro Endoscopic Discectomy)

  • 内視鏡下椎間板摘出術:筋肉の損傷を最小限に
  • 皮膚切開は約2cmと小さく、回復が早い
  • 入院期間も短縮(数日~1週間)

● PELD(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)

  • 経皮的内視鏡下ヘルニア摘出術
  • 局所麻酔でも可能な超低侵襲手術
  • 日帰り手術も可能で、社会復帰が早い

📌【補足】PELDは椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛に対して近年主流となってきています。


2. 腰部脊柱管狭窄症に対する手術

● 除圧術(Decompression surgery)

  • 靭帯や骨の一部を切除して神経の圧迫を解除
  • 主に「黄色靭帯の肥厚」や「椎間関節の肥大」が原因
  • 間欠性跛行の改善を目的

● 椎弓切除術(Laminectomy)

  • 脊柱管の後方にある椎弓を切除してスペースを拡大
  • 広範囲な除圧が必要なケースに適応

● 椎弓形成術(Laminoplasty)

  • 椎弓を開いて神経のスペースを確保する方法
  • 特に脊柱の不安定性が少ない症例に有効

3. 腰椎すべり症や不安定性のある症例に対する手術

● 脊椎固定術(Spinal fusion)

  • スクリューと金属プレートで椎体を固定
  • 椎間板を摘出後、ケージや骨移植を行って固定
  • 不安定性のあるすべり症や変性疾患に適応

● MIS-TLIF(Minimally Invasive Transforaminal Lumbar Interbody Fusion)

  • 低侵襲型の脊椎固定術
  • 筋損傷が少なく、術後の疼痛軽減・早期退院に寄与

表:坐骨神経痛の原因疾患と代表的手術法

原因疾患手術名特徴
椎間板ヘルニアMED、PELD、LOVE法低侵襲、局所麻酔も可
脊柱管狭窄症除圧術、椎弓切除術間欠性跛行の改善に有効
すべり症・不安定性脊椎固定術、MIS-TLIF安定性向上・再発予防

注意点

  • 手術は症状・画像・年齢・ADLを総合的に判断して選択
  • いずれの手術も術後リハビリが重要

筋力低下しやすい筋肉

坐骨神経痛の原因となる疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症など)では、坐骨神経の支配領域にある筋肉に神経支配障害が生じやすく、特定の筋肉が筋力低下しやすくなります。以下では、支配神経ごとに代表的な筋を整理しながら解説します。


1. L4~S3神経根と坐骨神経の関係

坐骨神経はL4〜S3の神経根から構成され、脛骨神経と総腓骨神経に分かれて下肢を広く支配します。そのため、障害される神経根によって筋力低下のパターンが異なります


2. 神経根別にみる筋力低下しやすい筋肉

障害神経根筋力低下しやすい筋肉主な作用臨床でのチェックポイント
L4大腿四頭筋膝伸展膝伸展力の低下、立ち上がり困難
L5前脛骨筋、長母趾伸筋足関節背屈、母趾伸展つま先上げ困難、トレンデレンブル徴候
S1腓腹筋、ヒラメ筋足関節底屈かかと歩きはできるがつま先立ちが困難
S2〜S3ハムストリングス股関節伸展、膝屈曲歩行時に股関節伸展が不十分になる場合あり

💡【臨床ヒント】
足関節背屈ができない(L5障害)は、歩行時のつま先引きずり(いわゆる“フットドロップ”)として現れることが多く、転倒リスクが高まります。


3. 病態と筋力低下の関連

● 椎間板ヘルニア(L4/5やL5/S1レベルが多い)

  • L5障害 → 前脛骨筋、長母趾伸筋の筋力低下
  • S1障害 → 腓腹筋、ヒラメ筋の筋力低下

● 脊柱管狭窄症

  • 多根神経の障害により複数筋に軽度の筋力低下が分散的に出現
  • 慢性進行性で、症状は非対称性が多い

4. 筋力低下の評価に用いられる方法

  • 徒手筋力テスト(MMT)
    • 5段階評価で筋力を定量的に判定
  • 歩行観察・立ち上がり動作
    • 日常動作での筋力発揮を確認

注意点

  • 筋力低下の程度や範囲は障害部位の高度・個人差により異なります
  • 一部の筋に目立った筋力低下が見られない場合でも、動作分析を通して補助筋使用や代償動作を観察することが重要

動作への影響

坐骨神経痛は、下肢の痛み・しびれ・筋力低下などの症状を通じて、日常動作に多大な影響を及ぼします。ここでは、よく見られる動作障害と、その背景にある神経学的・筋機能的要因を解説します。


1. 歩行動作への影響

● 歩行距離の短縮

  • **神経根性の間欠性跛行(神経性跛行)**が典型的
  • 数百メートル歩くと下肢に痛み・しびれ・脱力感が出現し、前かがみで休憩すると改善する

✅【臨床のポイント】
前屈位(前かがみ)で症状が軽減する場合は脊柱管狭窄症が疑われます。

● フットドロップによる歩行障害

  • L5神経根の障害で足関節背屈筋が低下 → つま先が引っかかる
  • 足を高く持ち上げる「鶏歩(steppage gait)」がみられる

2. 立ち上がり動作の困難

  • 大腿四頭筋や殿筋群の筋力低下により、椅子からの立ち上がりに時間がかかる
  • しびれ・痛みによってバランスを崩しやすく、転倒リスクが高まる

3. 階段昇降時の影響

動作主な障害要因症状・特徴
昇段大殿筋・大腿四頭筋の筋力低下足を高く上げにくい、躓きやすい
降段足関節底屈筋(腓腹筋など)の低下着地時の安定性低下、かかとに痛み

4. 立位・歩行中の姿勢異常

  • 痛みのある側をかばうための体幹側屈
    • 典型的には痛みと反対側への側屈
  • 骨盤が不安定になりトレンデレンブル徴候が出現する場合もある

5. 長時間の同一姿勢の困難

  • 座位での坐骨神経の圧迫による痛み
  • 立位保持で腰椎伸展が強調され脊柱管狭窄による神経症状が出現

注意点

  • 症状の程度は日内変動がある
  • 姿勢や環境(椅子の高さ・路面の状態など)によっても左右されるため、総合的な動作観察が不可欠

理学療法評価

坐骨神経痛の理学療法において、正確な評価は原因の特定と適切な治療選択の鍵となります。ここでは、実際の臨床でよく使われる評価法を目的別に紹介します。


1. 神経根障害のスクリーニング

● 下肢伸展挙上試験(SLRテスト)

  • 目的:L4~S1神経根の牽引痛を確認
  • 方法:仰臥位で患側下肢を伸展したまま挙上
  • 陽性所見:下肢後面(坐骨神経走行)に放散痛

● 大腿神経伸展テスト(フェムラルストレッチテスト)

  • 目的:L2~L4神経根障害の検出
  • 方法:腹臥位で膝を屈曲しながら股関節を伸展
  • 陽性所見:大腿前面に疼痛やしびれ

💡【臨床ポイント】
坐骨神経痛といっても、神経根レベルによって疼痛部位や動作障害が異なるため、神経学的検査は複数実施が基本です。


2. 筋力評価(MMT)

  • 目的:神経障害による筋力低下の有無を評価
  • 対象筋
    • 前脛骨筋(L5) → 足関節背屈
    • 腓腹筋(S1) → 足関節底屈
    • 大腿四頭筋(L4) → 膝伸展
  • 方法:5段階法(0~5)で定量化

3. 感覚検査

  • 目的:皮膚感覚の異常範囲を明らかにし、神経根レベルを推定
  • 方法:綿球・ピン・温冷刺激を用いて左右差を確認
  • 観察部位
    • L4:膝内側〜下腿前面
    • L5:足背・母趾
    • S1:足外側・小趾・足底

4. 姿勢・動作観察

  • 目的:代償動作や姿勢の崩れをチェック
  • 観察例
    • トレンデレンブル徴候(殿筋筋力低下)
    • 鶏歩(前脛骨筋麻痺)
    • 痛み回避による側屈や前傾姿勢

5. 歩行分析

  • 目的:実生活での動作パターンとリスク評価
  • チェックポイント
    • つま先引っかかり(フットドロップ)
    • 膝関節過伸展(殿筋代償)
    • 支持脚側の短縮(痛み回避)

6. ADL評価

  • 目的:患者がどこで困っているか、機能的課題を特定
  • 使用ツール
    • Barthel Index
    • FIM(Functional Independence Measure)

注意点

  • 評価は「問診・触診・動作観察・神経学的検査・機能検査」を総合的に行うことが必須
  • 評価結果をもとに治療方針や家庭でのアドバイス内容も変わる

理学療法治療

坐骨神経痛のリハビリでは、神経症状の改善・筋力の回復・日常動作の向上を目指し、多角的なアプローチが行われます。ここでは、理学療法士が臨床で行う具体的な訓練内容とその目的を解説します。


1. 神経モビライゼーション(神経滑走訓練)

  • 目的:神経根の癒着や滑走不良を改善し、痛みやしびれを軽減
  • 方法
    • SLR肢位での「タロン・トゥ・タロン(かかと→つま先)運動」
    • 神経スライディングとテンショニングの使い分け
  • 適応:末梢神経絞扼や坐骨神経周囲の癒着を疑う場合

📌 慎重に行う必要があり、疼痛増悪を防ぐために段階的な強度調整が重要


2. 筋力強化訓練(MMT3未満は除荷下で)

  • 目的:神経支配筋の再活性化とADL改善
  • 訓練例
    • 前脛骨筋(L5):セラバンドを使った足関節背屈運動
    • 大殿筋・中殿筋:クラムシェル、ブリッジ、片脚立位訓練
    • 腓腹筋・ヒラメ筋(S1):つま先立ち訓練(壁やバー使用)
  • ポイント荷重位での筋収縮誘導が最終目標

3. 体幹・骨盤の安定化訓練

  • 目的:腰椎・骨盤のアライメント安定 → 坐骨神経のストレス軽減
  • 訓練例
    • ドローイン
    • ブレーシング
    • 四つ這い姿勢でのバランス訓練(バードドッグなど)

4. 姿勢矯正・体幹ストレッチ

  • 目的:不良姿勢に伴う神経圧迫の緩和
  • 対応姿勢
    • 腰椎後弯(脊柱管狭窄症タイプ):前屈訓練(猫背強化)
    • 腰椎前弯(椎間板ヘルニアタイプ):マッケンジー体操(エクステンション)

✅ 坐骨神経痛は原因病態によって正反対の治療方針が必要になる場合があるため、評価に基づく訓練選択が極めて重要。


5. 歩行訓練

  • 目的:疼痛回避動作の改善、バランス能力の向上
  • 方法
    • 平地歩行 → ラダー歩行 → 障害物歩行と段階的に負荷アップ
    • フットドロップには短下肢装具(AFO)併用も選択肢

6. 有酸素運動(適応に応じて)

  • 目的:全身循環の改善と神経症状の緩和(エビデンスあり)
  • 方法
    • バイクエルゴ(やや前傾位で行えるため好適)
    • プール歩行(腰椎負担軽減)

🔍【エビデンス】
有酸素運動は、坐骨神経痛を含む慢性腰痛に対し、痛みと機能の改善に有効とされています(参考文献:日本腰痛学会ガイドライン2021)。


物理療法

坐骨神経痛に対する物理療法は、疼痛緩和・循環改善・神経機能の正常化を目的とした補助的な治療手段として重要です。理学療法や薬物療法と併用することで、より高い治療効果が期待できます。


1. 温熱療法(ホットパック・パラフィン浴)

  • 目的:筋緊張の緩和と血流促進 → 神経根周囲の循環改善
  • 方法
    • 腰部〜殿部に対しホットパックを15~20分間施行
    • 深部加温が必要な場合はマイクロ波や超音波を選択

🔍【エビデンス】
熱刺激は、交感神経活動を低下させ、局所血流を増加させることで痛みを軽減する(Takeda et al., Journal of Physical Therapy Science, 2014)。


2. 電気刺激療法(TENS)

  • 目的:疼痛緩和(ゲートコントロール理論の活用)
  • 方法
    • TENS(経皮的電気神経刺激)を腰部〜坐骨神経走行上に適用
    • 周波数は50~100Hz、強度は“心地よい刺激”程度を目安に

🔍【エビデンス】
TENSは坐骨神経痛を含む神経痛性疼痛において、痛みの軽減と日常生活動作の改善に有効(Johnson MI et al., Cochrane Review, 2015)。


3. 超音波療法(深部組織の加温・組織修復促進)

  • 目的:深部筋や神経周囲の血流改善、癒着防止
  • 適応
    • 筋の深部に存在するトリガーポイント
    • 筋膜性疼痛や癒着部位

超音波は高周波の振動で組織にミクロマッサージ作用を与え、軟部組織の柔軟性改善に効果があるとされています。


4. 牽引療法(腰椎)

  • 目的:椎間関節・神経根への圧迫軽減
  • 適応
    • 椎間板性の坐骨神経痛
    • 圧迫軽減で一時的に症状が緩和されるタイプ

🔍【注意点】
効果には個人差があり、腰椎不安定症や重度の骨粗鬆症、腫瘍性病変には禁忌。


5. 赤外線療法・レーザー治療(近赤外線)

  • 目的:浅部〜深部組織の温熱効果+細胞の活性化
  • 備考
    • 生体内でのATP産生を促進し、損傷部位の回復を補助
    • 筋緊張・神経過敏の軽減にも寄与

🔍【エビデンス】
近赤外線照射は、慢性疼痛患者に対して痛覚閾値の上昇血行動態の改善をもたらす(Ohshiro et al., Laser Therapy, 2013)。


まとめ:物理療法の選択は評価に基づいて

物理療法は、あくまで疼痛の軽減とリハビリ効果の底上げを目的とした補助的手段です。坐骨神経痛の原因・進行度・個人の反応性に応じて、適切な物理療法を組み合わせることが重要です。

国家試験対策

坐骨神経痛は国家試験でも頻出のテーマであり、**「原因疾患」「神経走行」「症状の特徴」「理学療法」**など、関連する知識を幅広く問われます。ここでは理学療法士・作業療法士国家試験に向けて、重点的に覚えるべきポイントを整理します。


【1】坐骨神経の解剖と走行

  • 坐骨神経はL4~S3の神経根から構成される
  • 仙骨神経叢から出て、大腿後面を通り、膝窩部で脛骨神経と総腓骨神経に分岐
  • 梨状筋の下を通過するが、一部の人は筋肉内や上を通過する(先天的差異)

🔍試験で問われやすい:

Q:坐骨神経はどこから出て、どのように分岐するか?
A:L4~S3の神経根 → 仙骨神経叢 → 梨状筋下 → 大腿後面 → 膝窩部で脛骨神経と総腓骨神経に分岐


【2】原因疾患

坐骨神経痛を引き起こす代表疾患と特徴を整理:

原因疾患特徴・覚えるポイント
椎間板ヘルニア20~40代、片側性、咳やくしゃみで悪化
脊柱管狭窄症高齢者、間欠性跛行、前屈で軽快
梨状筋症候群お尻の深部痛、ストレッチで悪化
変性すべり症中高年、腰椎の前方変位、姿勢による変動

※鑑別のキーワードや症状のパターンをセットで覚えると得点しやすいです。


【3】症状・理学所見

  • デルマトームに沿った放散痛(L5, S1の鑑別)
  • SLRテスト陽性(下肢伸展で症状増悪)
  • 腱反射の変化(アキレス腱反射低下=S1障害)
  • 筋力低下パターン(L5:足関節背屈、S1:底屈)

🔍語呂合わせ例:

「ゴ・ハイ(L5:背屈)・エス・イチ・テイ(S1:底屈)」で覚えよう!


【4】治療方針と理学療法

  • 保存療法の基本は運動療法・物理療法・薬物療法
  • 手術適応は筋力低下や排尿障害などの重度神経障害
  • 理学療法では神経モビライゼーション・コアトレ・姿勢修正訓練が重要

【5】関連する国試過去問例(抜粋)

第54回(2020年)理学療法士国家試験より:

:坐骨神経の支配領域として誤っているのはどれか。
選択肢:①大腿前面 ②下腿後面 ③足底部 ④大腿後面
正答:①(大腿前面は大腿神経領域)


国家試験対策まとめ

  • 解剖と走行、支配領域を図で整理しよう
  • 症状とテストの関係性をセットで理解しよう
  • 鑑別疾患の特徴を「症状」「年齢層」「姿勢による変化」で覚えよう
  • 過去問演習でパターンに慣れておくのが重要

Q&A

ここでは、坐骨神経痛に関して多く寄せられる疑問に対して、理学療法の視点を交えてわかりやすくお答えします。


Q1. 坐骨神経痛って、どんな症状が出るの?

A.
坐骨神経に沿って、お尻・太ももの裏・ふくらはぎ・足先まで「しびれ」「痛み」「違和感」などが放散するのが特徴です。多くは片側性で、重度になると筋力低下歩行困難が見られます。


Q2. 腰痛と坐骨神経痛ってどう違うの?

A.
腰痛は「腰部の局所的な痛み」、坐骨神経痛は「神経に沿った放散痛」が出るのが違いです。
ただし両者は併発しやすく、腰部疾患(ヘルニアや狭窄症など)が坐骨神経を圧迫して発症するケースが多いため、症状が入り混じることもあります。


Q3. 電気治療や温熱療法って効果あるの?

A.
あります。痛みによる筋緊張や血流低下がある場合は、**温熱療法(ホットパック)電気刺激療法(TENSなど)**が有効です。
ただし、一時的な緩和効果なので、根本的な治療には運動療法との併用が重要です(Yamamoto et al., 2021)。


Q4. 坐骨神経痛の人は運動してもいいの?

A.
基本的に症状が軽度であれば運動は推奨されます。
特に**体幹安定性の向上や神経モビライゼーション(神経の滑走性を改善する運動)**は有効とされており、安静よりも活動的な方が回復が早まるという報告もあります(Koes et al., 2007)。


Q5. 病院に行くタイミングは?

A.
以下のような症状がある場合は、すぐに整形外科を受診しましょう:

  • 痛みやしびれが日常生活に支障をきたす
  • 両側性の症状
  • 筋力低下排尿・排便障害がある
  • 数週間経っても改善しない

最新ガイドライン

坐骨神経痛に関連する最新の診療ガイドラインをもとに、理学療法や保存療法、手術適応などのエビデンスベースの対応を整理します。2021年以降の文献を中心に、臨床で活用しやすい情報をまとめました。


1. 日本整形外科学会/日本腰痛学会の「腰痛診療ガイドライン2021」

  • 坐骨神経痛は「神経根症」の一種として分類されており、原因の大部分は椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症。
  • 保存療法(運動療法・薬物療法)を第一選択とし、重症例には手術も検討。
  • 画像検査と臨床所見の総合評価が必要。

🔍参考:腰痛診療ガイドライン2021


2. 欧州腰痛ガイドライン(European Guidelines)

  • 急性期の坐骨神経痛でも、活動を維持することが推奨されており、長期の安静は回復を遅らせる可能性がある。
  • 薬物療法は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が第一選択
  • 神経根症が疑われる場合は、早期にMRIなどで病態把握することも選択肢。

3. NICEガイドライン(イギリス)

  • 慢性腰痛・坐骨神経痛に対しては理学療法が第一選択
  • CBT(認知行動療法)や多職種介入も推奨されるケースがある。
  • オピオイド系鎮痛薬は原則避けるべきと明記されている。

4. 理学療法に関する推奨事項

推奨される介入推奨度根拠の質
体幹筋トレーニング中〜高
神経モビライゼーション
温熱・電気刺激療法(TENSなど)
長期安静×

引用:腰痛診療ガイドライン2021、Cochrane Database 2022


5. ガイドラインに基づく実践ポイント

  • 保存療法をベースに、悪化要因を除去しつつ運動を促進
  • 重度の神経症状や筋力低下が出現した場合は手術検討も早期に
  • 患者教育と認知の修正(痛みに対する誤解の是正)が長期予後に影響

書籍紹介

まとめ

坐骨神経痛は、日常生活を著しく制限する痛みやしびれを伴う症候群であり、原因となる疾患も多岐にわたります。
特に腰椎椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症が代表的であり、理学療法士をはじめとする医療従事者は、原因に応じた適切な評価と治療方針を見極める力が求められます。

特に、神経障害性疼痛の理解筋力低下しやすい筋の把握物理療法の位置づけは臨床での対応に大きく関わります。
これらを体系的に学ぶことで、根拠ある理学療法の実践が可能となります。


さいごに(注意文)

坐骨神経痛の症状や原因、適切な治療法は患者個々により大きく異なります
本記事は医療従事者および学習者向けに構成されており、医学的判断や治療の決定は、必ず医師や専門職による個別評価をもとに行ってください。

特に以下のような場合は、速やかに医療機関を受診してください

  • 排尿・排便障害が出現している
  • 下肢の筋力低下が急速に進行している
  • 既往歴に腫瘍や外傷がある

読者の皆さんが、より根拠ある評価・治療を実践できるよう、これからも「リハドロ」では信頼できる情報と学びの引き出しを発信していきます。


参考文献

  • 日本整形外科学会/日本腰痛学会(2021). 『腰痛診療ガイドライン2021』. 南江堂.
  • 岡田昌義 ほか(2020). 『神経障害性疼痛の診療ハンドブック』. 中外医学社.
  • 林典雄・橋本健志(2022). 『腰痛と運動療法 改訂第2版』. 文光堂.
  • 厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」

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