「階段を降りるときに膝の前側がズキっと痛む…」「長く座っていると膝がこわばる…」そんな症状で悩んでいませんか?
それは膝蓋大腿関節症(patellofemoral osteoarthritis, PFOA)の可能性があります。
膝蓋大腿関節症は、一般的な変形性膝関節症(Knee OA)とは異なり、膝蓋骨と大腿骨の間で起こる関節障害です。比較的若年層にもみられ、スポーツや加齢、筋力低下などが背景にあります。
本記事では、膝蓋大腿関節症の【原因】【好発年齢】【解剖学的背景】から、【手術の適応】【リハビリ】、【国家試験対策】までを、医療学生〜若手医療従事者を想定しつつ、それ以外の方にもわかりやすく解説します。
📊 統計
膝蓋大腿関節症(PFOA)の正確な有病率は、研究によって差がありますが、50歳以上の女性の約20〜25%が、レントゲン上でPF関節の変形を有すると報告されています(Duncan R. et al., 2009)。
また、60歳以上の変形性膝関節症患者のうち、30%以上が膝蓋大腿関節にも変性を合併しているという報告もあります(J-STAGE: 膝蓋大腿関節症の診断と治療に関する研究, 2022年)。
運動習慣の少ない中高年、またはジャンプやランニングなどPF関節に負荷がかかるスポーツをする若年層にも見られる点が特徴です。
✏️原因
膝蓋大腿関節症(patellofemoral osteoarthritis, PFOA)は、膝蓋骨と大腿骨滑車との間で起こる軟骨の変性・摩耗により、痛みや動作障害を引き起こす疾患です。その原因は複数に分けて考えることができます。
🔹 原因の分類
膝蓋大腿関節症の原因は、大きく以下の3つに分類されます。
分類 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
構造的要因 | 関節や骨のアライメント異常 | 外反膝、膝蓋骨高位、膝蓋骨外側偏位など |
力学的要因 | 関節にかかるストレスの増加 | 肥満、反復動作、スポーツ活動など |
筋機能的要因 | 筋力低下や協調性の問題 | 内側広筋の筋力低下、臀筋群の弱化など |
構造的な異常がある場合、膝蓋骨が滑車溝とうまくかみ合わず、接触面積の減少や荷重の集中が生じ、軟骨に負担がかかりやすくなります。
さらに、大腿四頭筋の不均衡や股関節筋群の筋力低下も、膝蓋骨の追従性や荷重分散に悪影響を及ぼし、症状の悪化を招きます。
🔹 好発年齢と性別
膝蓋大腿関節症は、一般的な変形性膝関節症と比べて、比較的若年層〜中高年まで幅広く見られるのが特徴です。
- 若年層(20〜40代)
ジャンプ・ランニングを伴うスポーツ(例:バレーボール、バスケットボール、陸上など)での過負荷や膝蓋骨のアライメント異常が主因。 - 中高年層(50代以降)
加齢による軟骨変性や筋力低下、肥満が主な原因となります。
また、統計的には女性に多い傾向があり、これは女性の方がQ角が大きく、膝蓋骨が外側に逸脱しやすいことが関連しています(J-STAGE:中高年女性におけるPFOAの疫学調査 2022年)。
🔹 膝蓋大腿関節にかかるストレス因子
膝蓋大腿関節にストレスが加わる要因として、以下のような日常生活・動作環境も関与します。
- 長時間のしゃがみ込み動作
- 階段昇降の繰り返し
- 深い膝屈曲を伴う作業(和式トイレ、床座位など)
- 運動不足による筋力低下や体重増加
特に、しゃがみ動作では膝蓋大腿関節に体重の4〜7倍の負荷がかかるとされており、負荷の蓄積が関節の摩耗に繋がります(Powers CM, 2003)。
🔹 二次性の原因
膝蓋大腿関節症は、他の膝関節疾患や手術後の影響によって二次的に発症するケースもあります。
- 前十字靭帯再建術後の膝蓋骨モビリティ低下
- 膝蓋骨脱臼後の関節面不整合
- TKA(人工膝関節置換術)後の膝蓋骨アライメント異常
このような場合には、一次性と比べて疼痛のコントロールが難しく、理学療法介入や再手術が必要となることもあります。
🦵出現しやすい疾患
膝蓋大腿関節症(PFOA)は、単独で発症することもありますが、多くの場合他の膝関節疾患と併存する傾向があります。以下に、特に併発しやすい・鑑別が重要となる疾患を取り上げ、臨床上の注意点とともに解説します。
🔹 1. 変形性膝関節症(膝の内側・外側のOA)
膝蓋大腿関節症は、変形性膝関節症(特に内側型OA)と合併することが非常に多いです。研究によると、変形性膝関節症の患者の約50〜60%に、PFOAが同時に見られると報告されています(Hunter DJ, 2007)。
- 内側型OAとPFOA:
加齢による関節全体の変性が進行している可能性あり。立位や歩行時の荷重痛と、膝屈曲時の前面痛の両方が現れる。 - PFOAが先行するケース:
特に若年者では、膝蓋骨の異常や筋力不均衡によりPFOAが先に発症し、将来的に他部位のOAへと進行するケースもある。
変形性膝関節症については、別記事🫱『変形性膝関節症|若手医療従事者のための完全ガイド【手術・リハ・国家試験対策も】』で解説🚶
🔹 2. 膝蓋骨亜脱臼・脱臼
膝蓋骨の亜脱臼や外側脱臼の既往がある患者は、関節面の不整合や軟骨損傷を伴いやすく、PFOAを引き起こしやすいです。
- 特に外側支持組織の緩みや膝蓋骨外側偏位(patellar lateralization)が持続すると、膝蓋骨が滑車溝と正しくかみ合わず、長期的に関節軟骨へダメージが蓄積されます。
🔹 3. 膝蓋軟骨軟化症(chondromalacia patellae)
膝蓋軟骨軟化症は、特に若年者に見られる膝蓋骨後面の軟骨変性です。これが進行・慢性化すると、膝蓋大腿関節症へと移行することがあります。
- 臨床的には:階段の昇降時や深くしゃがむと痛みが出る「映画館徴候(movie theater sign)」が典型的です。
🔹 4. 関節リウマチ(RA)
関節リウマチの患者では、滑膜炎が膝蓋大腿関節にも及ぶことがあり、PFOAの進行を促進します。炎症が持続することで軟骨破壊が進み、関節変形へとつながる場合も。
- RAとの違いを見極めるには、関節の多発性・対称性の腫脹、血液検査(RF, CCP抗体)を併せて確認することが重要です。
🔹 5. O脚・X脚によるアライメント異常
下肢アライメント異常(O脚=内反膝、X脚=外反膝)も、膝蓋骨の軌道に影響し、膝蓋大腿関節への異常なストレスを引き起こします。
- 特にX脚傾向のある女性では、膝蓋骨が外側へ偏位しやすく、外側軟骨の摩耗が進みやすいという特徴があります。
🔹 6. 半月板損傷(特に外側)
PFOAと**半月板損傷(外側)**との関連も近年注目されており、特に荷重の変化や歩容異常によって二次的に膝蓋骨の運動に影響を与えることがわかっています。
別記事🫱『半月板損傷とは?原因・症状・理学療法まで解説【医療学生・新人向け】』で半月板損傷について解説🏃
✅ 臨床でのポイント
膝の前面痛を訴える場合、単なる変形性膝関節症と判断するのではなく、膝蓋大腿関節症やそれに関連する疾患の併存を意識することが、早期発見・適切な治療に繋がります。
🦴解剖学
膝蓋大腿関節症(Patellofemoral Osteoarthritis, PFOA)の理解には、膝蓋骨と大腿骨滑車部の関係性を中心とした解剖学的知識が欠かせません。特に膝蓋骨の動きや、接触面、支持組織などに注目することで、発症メカニズムをより明確に捉えることができます。
🔹 膝蓋大腿関節(patellofemoral joint)の構造
膝蓋大腿関節は、膝蓋骨の後面と、大腿骨遠位端の滑車溝(trochlear groove)との間に形成される関節です。
- 膝蓋骨(patella):
三角形状の種子骨で、大腿四頭筋腱内に埋め込まれている。大腿四頭筋の力を膝関節屈伸に効率よく伝達する滑車のような役割を持つ。 - 滑車溝(trochlear groove):
大腿骨遠位の前面にあるくぼみ。膝蓋骨が膝屈伸に伴いこの溝に沿って滑走する。 - 関節面の軟骨:
膝蓋骨後面と滑車溝の両方が厚い関節軟骨(最大5〜7mm)で覆われており、衝撃吸収と摩擦軽減に寄与する。

🔹 接触面の変化
膝の屈曲角度によって、膝蓋骨と滑車溝の接触位置が変化します。
膝関節角度 | 接触部位 |
---|---|
0〜20° | 下極〜下内側 |
20〜45° | 中央部 |
45〜90° | 上部〜上外側 |
この構造的特徴のため、しゃがみ動作や階段昇降などの深い屈曲動作で膝蓋大腿関節への負荷が集中しやすくなります。
🔹 膝蓋骨の動きと安定化因子
膝蓋骨の動き(tracking)は、以下のような静的・動的因子によって制御されています。
✅ 静的安定化因子:
- 内外側膝蓋支帯(medial/lateral retinaculum)
- 大腿四頭筋腱
- 膝蓋靱帯(patellar ligament)
- MPFL(内側膝蓋大腿靱帯)
✅ 動的安定化因子:
- 内側広筋(vastus medialis)
→膝蓋骨を内側に引く作用。特にVastus Medialis Oblique(VMO)の筋力低下は、外側偏位を助長。 - 外側広筋(vastus lateralis)
→筋力優位になると膝蓋骨が外側へ引かれ、外側軟骨への圧迫を増加させる。
🔹 Q角(quadriceps angle)
Q角とは、上前腸骨棘〜膝蓋骨中心〜脛骨粗面を結んだ角度で、膝蓋骨への外側牽引力を示します。
- 通常:男性10〜14°/女性15〜17°
- 増加している場合(X脚や股関節内旋):膝蓋骨が外側へ偏位しやすく、PFOAのリスク因子となる。
✅ 臨床での注目点
解剖学的な観点からは、「膝蓋骨の軌道のズレ」や「支持組織の不均衡」が膝蓋大腿関節へのストレス増加を引き起こす主要因であり、予防・治療の両面において重要なターゲットとなります。
🏥手術適応
膝蓋大腿関節症(Patellofemoral Osteoarthritis, PFOA)はまず保存療法が試みられますが、保存療法に反応しない難治性の疼痛や、日常生活に支障をきたす機能障害が持続する場合に、手術が検討されます。
🔹 手術を検討する主なケース
手術適応の判断には、臨床症状・画像所見・保存療法の経過を多角的に評価する必要があります。具体的な適応例を以下に示します。
✅ 主な適応条件:
- 6か月以上の積極的な保存療法(運動療法・物理療法・装具療法)でも疼痛や運動制限が改善しない
- 膝蓋骨の高度な変形性変化や、関節裂隙の狭小化が画像上で確認される
- 日常生活動作(特に階段昇降・起立動作・正座)に著しい支障がある
- 頻繁な膝蓋骨亜脱臼や脱臼の既往があり、機能的な安定性を欠いている
- 単独の膝蓋大腿関節病変で、他の膝関節区画(脛骨大腿関節)に重度の変性がない場合
🔹 高齢者と若年者での違い
分類 | 特徴 | 手術の方向性 |
---|---|---|
高齢者 | 軟骨変性、骨棘形成、関節裂隙狭小化が進行 | 人工関節置換術(PFAやTKA)を考慮 |
若年者(スポーツ障害含む) | 膝蓋骨不安定性、アライメント異常、滑膜炎など | 関節鏡手術や骨切り術による矯正を優先 |
🔹 手術に至らないケースも重要
適応には該当しないが、心理的な要因(疼痛過敏や不安)、姿勢・動作のクセ、筋力低下による機能的障害が主因で症状が持続しているケースも少なくありません。
この場合、理学療法や行動療法、環境調整による多角的アプローチで改善する可能性があります。
✅ 手術の判断は専門医による総合的判断
PFOAは単純な「軟骨のすり減り」だけで判断するのではなく、症状・画像・QOL・保存療法の経過を踏まえた包括的評価が必須です。
手術適応の判断は整形外科専門医が行い、理学療法士とも連携した評価が重要とされています(参考文献:日本整形外科学会ガイドライン 2022年版)。
🏥手術の種類
膝蓋大腿関節症(PFOA)に対する手術には、関節鏡視下手術のような低侵襲な方法から、人工関節置換術などの根治的治療まで、症状や年齢、活動レベルによってさまざまな選択肢があります。以下に主な術式を解説します。
🔹 1. 関節鏡視下手術(Arthroscopic Surgery)
比較的早期の膝蓋大腿関節症において、炎症性滑膜の除去や軟骨のデブリードマンを行う低侵襲手術です。
特徴:
- 入院期間が短く、リハビリも早期から可能
- 原因が滑膜炎や軟骨片の遊離に限定される場合に有効
- ただし根治的治療ではないため、進行例には不向き
🔍 複数研究で「除痛効果は限定的で、保存療法と有意差なし」との報告もあり、術前の適応判断が重要です(J Bone Joint Surg Am. 2008)。
🔹 2. 膝蓋骨前方移動術(Maquet法など)
膝蓋骨の圧迫ストレスを減らす目的で、脛骨粗面を前方へ移動する骨切り術です。
特徴:
- 大腿四頭筋の牽引方向を調整し、関節面の圧力を軽減
- 若年者や活動性の高い中年者に適応
- 固定期間と術後リハビリが必要
🔹 3. 脛骨粗面内側化術(Elmslie-Trillat法)
膝蓋骨の外側偏位による関節不適合を改善する骨切り術です。
特徴:
- 膝蓋骨亜脱臼の既往があるPFOA患者に有効
- 正確なアライメント調整が求められる
🔹 4. 外側支帯解離術(Lateral Retinacular Release)
膝蓋骨の外側支持組織(外側支帯)を切離し、内外方向のバランスを整える術式です。
特徴:
- 関節鏡と併用されることが多い
- 膝蓋骨の過外側偏位(maltracking)が原因の場合に適応
- 過剰な切離は内側脱臼リスクを伴う
🔹 5. 人工膝蓋大腿関節置換術(Patellofemoral Arthroplasty:PFA)
膝蓋大腿関節のみを人工関節に置換する術式です。脛骨大腿関節が正常な場合に限定されます。
特徴:
- 骨切除量が少なく、関節温存に近い設計
- 手術時間が短く、術後回復も比較的早い
- ただし他の関節区画が後に変性進行するリスクも
🔹 6. 人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)
膝全体に進行した変性がある場合や、多区画の関節症を伴う場合に行われる最も一般的な手術です。
特徴:
- 強固な除痛効果と機能改善
- 高齢者に多く適応される
- 膝蓋骨に対しては再表面化(patellar resurfacing)を行う場合と行わない場合がある
✅ 術式の選択は患者の特性に応じて
以下のように、患者の背景や病態によって選択すべき術式は異なります。
症例タイプ | 推奨される術式 |
---|---|
若年者・外傷後 | 脛骨粗面移動術、支帯解離、関節鏡 |
中年・単独PFOA | PFA、膝蓋骨前方移動術 |
高齢者・多区画OA合併 | TKA |
🔍 「PFAはTKAに比べて機能改善が早いが、再置換のリスクもある」との報告もあり(Clin Orthop Relat Res. 2013)、個別の病態と長期予後を見据えた判断が重要です。
💡疾患や手術によって筋力低下しやすい筋肉
膝蓋大腿関節症(PFOA)では、痛みや関節の不安定性、手術の侵襲などにより、特定の筋肉が著しく機能低下しやすい傾向があります。これらの筋の萎縮や筋力低下は、膝蓋骨の動的安定性を低下させ、疼痛や再発の原因にもなるため、注意深い観察とリハビリ計画が必要です。
🔹 大腿四頭筋(Quadriceps)
特に内側広筋(Vastus Medialis Obliquus:VMO)は、膝蓋骨の内側方向の制御に重要な役割を果たします。
- 膝蓋骨の追従性やアライメントに関与
- 膝伸展時の最終域制御に寄与
- PFOA患者では反射性抑制により萎縮が起こりやすい
🔍 PFOA患者のMRI画像では、VMOの筋断面積の有意な減少が報告されています(J Orthop Sports Phys Ther. 2014)。
🔹 ハムストリングス(Hamstrings)
特に半膜様筋や半腱様筋など、内側群の機能低下が目立ちます。
- 膝後方安定性や回旋制御に関与
- 動作中の膝蓋骨の滑走に影響を与える
- 手術後、屈曲制限や疼痛から使用頻度が減少する傾向あり
🔹 中臀筋(Gluteus Medius)
- 膝関節そのものの筋ではないが、骨盤の安定と膝関節への連鎖的な負荷分散に重要
- 中臀筋の筋力低下により膝外反ストレスが増加し、PFOAの進行を助長する可能性がある
🔍 PFOA患者における「中臀筋トレーニングの追加」は、疼痛軽減と動作能力の向上に寄与するとの報告があります(Phys Ther Sport. 2019)。
🔹 下腿三頭筋(Gastrocnemius, Soleus)
- 歩行や階段昇降時に重要な膝伸展モーメントを支える筋
- 痛みからくる歩行速度の低下や不活動により、筋萎縮が進みやすい
✅ 筋力低下のまとめ
筋群 | 主な影響 | 低下の原因 |
---|---|---|
内側広筋(VMO) | 膝蓋骨内側方向の制御 | 疼痛・使用回避 |
ハムストリングス | 後方安定性、回旋制御 | 屈曲制限、使用回避 |
中臀筋 | 膝外反制御、骨盤安定性 | 股関節安定性低下 |
下腿三頭筋 | 地面反力吸収、膝伸展補助 | 歩行速度低下、活動量減少 |
これらの筋の特性を理解することで、的確な評価とターゲットを絞ったリハビリ介入が可能となります。
🏋️動作への影響
膝蓋大腿関節症(PFOA)は、日常生活動作(ADL)や移動能力に大きな影響を及ぼします。特に膝蓋骨に圧力がかかる動作で症状が増悪しやすく、機能的な制限や疼痛回避動作が日常の質を下げる要因となります。
🔹 階段昇降時の疼痛
PFOAの代表的な症状は、階段昇降時の膝前面痛です。
- 特に階段を下りる動作(eccentric contraction)で膝蓋大腿関節に高い圧力がかかり、痛みが誘発されやすい
- 内側広筋の筋力低下により制動機能が低下し、衝撃吸収能力が落ちる
- 歩幅を狭めたり、手すりを使うなどの代償動作が見られる
🔍 文献によれば、階段降段時の膝蓋大腿関節圧は体重の3〜5倍に達するとされ、PFOAの主な疼痛誘因とされています(Powers CM. J Orthop Sports Phys Ther. 2000)。
🔹 長時間の座位や正座からの立ち上がり困難
- 膝屈曲位での静的保持により、関節内圧が増加
- 正座やしゃがみ込みからの再伸展時に疼痛を訴える患者が多い
- 座位からの立ち上がり動作で膝を伸ばしきれず、腰や股関節に負担をかける動作パターンをとることも
🔹 立位・歩行時の不安定感と疲労
- 筋力低下や疼痛のため、膝関節伸展保持が困難
- 立位姿勢で軽度屈曲位を保持する傾向があり、膝関節への負担増加
- 歩行中の膝蓋骨の追従性不良により、膝前面の不快感や筋疲労を感じる患者も多い
🔹 スポーツやしゃがみ動作の制限
- 正座や和式トイレ、あぐら、しゃがみ動作が困難
- 登山、ジョギング、ジャンプなどの高負荷動作では悪化しやすい
- 膝蓋骨が深く大腿骨に押しつけられる角度での運動は避けられる
✅ 動作障害のまとめ
動作 | 症状・影響 | 主な原因 |
---|---|---|
階段昇降 | 膝前面の疼痛、手すり使用 | 膝蓋大腿関節の圧力上昇 |
座位・立ち上がり | 伸展困難、関節内圧上昇 | 屈曲保持による圧迫 |
歩行 | 疲労、膝前部の不快感、不安定感 | 筋力低下・膝蓋骨の不安定性 |
しゃがみ動作 | 可動域制限、強い疼痛、活動回避 | 高屈曲位での圧迫・拘縮 |
このように、PFOAは静的・動的な日常動作の両面に大きく影響します。評価と治療では、痛みの強さだけでなく、「どの動作で症状が出るか」に注目し、患者の生活背景に即したアプローチが重要です。
✏️理学療法評価
膝蓋大腿関節症(PFOA)における理学療法評価では、関節機能・筋機能・動作分析・疼痛部位の特定などを通じて、症状の原因を明確化し、適切な治療計画を立てることが目的となります。
🔹 1. 問診・視診
- 疼痛の場所、誘発動作、持続時間を詳細に確認
- 「階段の昇降で痛む」「座っているときに痛みが出る」などの訴えは、PFOAの特徴
- 視診では膝蓋骨のアライメント異常(外側偏位、上方変位など)を確認
🔹 2. 触診
- 膝蓋骨周囲、特に外側縁や下極の圧痛を確認
- 関節裂隙よりも膝前面の局所圧痛が主であることがPFOAの特徴
- 関節包の緊張や滑膜の肥厚、熱感の有無も確認
🔹 3. 関節可動域(ROM)検査
- 屈曲・伸展の可動域制限や痛みの出現位置を評価
- 特に屈曲位での疼痛の出現はPFOAの典型所見
- 他動運動と自動運動での痛みの差異も記録
🔹 4. 膝蓋骨のモビリティ検査(膝蓋骨グライドテスト)
- 膝蓋骨を内外・上下に移動させ、滑走性を評価
- 外側緊張や滑走制限がある場合は外側支帯の拘縮や、膝蓋骨の外側偏位の可能性
- 痛みを伴う滑走制限はPFOAを示唆
🔹 5. 筋力評価(MMT・HHD)
- 大腿四頭筋(特に内側広筋:VMO)の筋力低下がPFOAの誘因かつ結果であることが多い
- 股関節外転筋、体幹筋力も併せて評価し、代償動作や歩行の安定性との関連を検討
- HHD(ハンドヘルドダイナモメータ)を用いた定量評価が推奨される
🔹 6. 動作分析(歩行・階段昇降・立ち上がり)
- 歩行時の膝の屈伸運動の滑らかさ、荷重時の姿勢を評価
- 階段昇降時に手すりを使うか、体幹を前傾させるかを確認
- 立ち上がりでは膝を伸ばし切らずに股関節を過剰に使っていないかを観察
『歩行とは何か?|正常歩行のメカニズムと異常歩行(脚長差・装具・疾患)・ロッカー機能・術後リハビリまで徹底解説』で歩行について詳しく知る🚶
🔹 7. 疼痛評価(VAS・NRS・圧痛テスト)
- VASやNRSにより主観的な痛みの強さを記録
- 圧痛テストでは膝蓋骨外側縁や大腿骨滑車部の圧痛を確認
- 同時に腫脹や発赤など炎症兆候の有無も確認
✅ 評価のポイントまとめ
評価項目 | 目的 | 重要ポイント |
---|---|---|
視診・問診 | 症状の把握 | 膝蓋骨のアライメント、誘発動作 |
関節可動域 | 関節制限の把握 | 屈曲時痛、終末域の違和感 |
膝蓋骨モビリティ | 滑走性と可動性の評価 | 外側偏位、外側支帯の拘縮 |
筋力検査 | 支持機能と筋不均衡の把握 | 内側広筋の萎縮、股関節筋とのバランス |
動作分析 | 日常生活の制限把握 | 階段昇降・立ち上がりでの代償動作 |
評価は「何が痛みや制限の原因か?」を明確にする重要なプロセスです。構造的要因(解剖)と機能的要因(筋力・動作)を総合的に捉えることで、治療方針の正確性が向上します。
💡理学療法治療
膝蓋大腿関節症(PFOA)に対する理学療法治療では、疼痛の軽減・筋機能の回復・膝蓋骨の安定化・日常生活動作の改善を目的に、以下のようなアプローチを段階的に実施していきます。
🔹 1. 疼痛軽減と炎症のコントロール
- アイシングや物理療法(後述)を併用し、まずは疼痛の閾値を下げる
- 荷重時痛が強い場合は杖やサポーターの使用も検討
- 膝関節への過剰負荷を避けた運動メニューを初期に選択
🔹 2. 膝蓋骨の安定性向上:内側広筋(VMO)トレーニング
- 内側広筋(VMO)の強化はPFOA治療の中心的介入
- 膝伸展終末域(0~30°)でのアイソメトリック収縮やセッティング運動を反復
- 直腿挙上(SLR)+内旋位なども効果的(VMOの選択的収縮を狙う)
🔹 3. 股関節・体幹筋のトレーニング
- 股関節外転筋(中臀筋)や体幹筋の安定性向上により膝の外反を防ぐ
- クラムシェルやヒップアブダクション、プランク系トレーニングを段階的に導入
- 姿勢の安定性が改善することで膝関節への負担軽減につながる

🔹 4. 膝蓋骨モビリゼーション(徒手療法)
- 外側に偏位している膝蓋骨に対し、内側滑走やモビリゼーションを実施
- 滑走性の改善により、関節内圧の緩和と疼痛の軽減を図る
- 必要に応じて外側支帯のストレッチも併用
🔹 5. 筋柔軟性の向上
- 大腿四頭筋、腸脛靭帯、ハムストリングスなどの筋短縮があると膝蓋骨に牽引力が加わる
- ストレッチングを通じて筋バランスの正常化を図る
- 膝蓋骨周囲の軟部組織リリースも有効
🔹 6. 関節機能回復のための運動療法
- CKC(閉鎖性運動連鎖)エクササイズは膝関節周囲の筋活動バランスを整える
- 痛みに応じてミニスクワット、ステップアップなど段階的に実施
- 膝への負担を最小限にしながら協調性と支持性の回復を目指す
🔹 7. 動作再教育・ADL指導
- 立ち上がり、階段昇降、歩行動作の再教育を行い、代償動作を修正
- 過度な前傾姿勢や外旋歩行などがないか確認し、動作パターンの改善を図る
- ADLやIADLに関して無理のない負荷量での生活指導も併用
✅ 治療の進行段階(ステージ別目標)
ステージ | 治療目標 | 主な介入内容 |
---|---|---|
初期 | 疼痛軽減・関節可動域維持 | アイシング、膝蓋骨モビリゼーション、軽運動 |
中期 | 筋力回復・動作パターンの改善 | VMOトレ、股関節外転筋強化、CKC運動、ストレッチ |
後期 | 日常生活動作への応用・予防指導 | 動作再教育、階段昇降練習、ホームエクササイズ指導 |
膝蓋大腿関節症では原因に合わせた個別性の高い運動療法が最も重要です。
とくに内側広筋の強化、外側支帯の伸張、股関節筋との連動性強化を柱に、長期的な再発予防まで見据えた介入が求められます。
💡物理療法
膝蓋大腿関節症(PFOA)の症状緩和と機能回復を目的とした物理療法は、痛みの軽減、循環改善、炎症抑制、運動療法の補助として重要な役割を果たします。
🔹 1. 温熱療法
- ホットパックやマイクロ波療法により、膝関節周囲の筋緊張の緩和と血流改善を図る
- 筋柔軟性を向上させ、ストレッチやモビリゼーションの前処置として有用
- 【エビデンス】:温熱療法は慢性疼痛患者において関節可動域の改善に有効とする報告あり(Tepperman et al., 1986)
🔹 2. 寒冷療法(アイシング)
- 炎症期や運動後の関節痛、腫脹に対する対症療法として実施
- VMOトレーニング直後のアイシングにより筋出力の抑制を最小限にしつつ疼痛緩和が可能
- 冷却時間は10〜15分程度、皮膚損傷を避けるためにタオルで包むなど配慮が必要
🔹 3. 超音波療法(US)
- 周波数1MHzまたは3MHzを選択し、深部組織の加温・細胞活性化を促進
- 膝蓋腱や関節包への照射で治癒促進効果が期待される
- 一部研究では、運動療法との併用により短期間での痛みの改善が示唆されている(Ebadi et al., 2012)
🔹 4. 電気刺激療法(EMS/NMES)
- 内側広筋(VMO)の再教育に有効とされ、筋力強化と再学習に役立つ
- 自動運動が困難な時期や随意収縮が困難な患者への補助として活用
- 【エビデンス】:PFOA患者において電気刺激は筋力回復と疼痛改善に寄与すると報告(Haim et al., 2011)
🔹 5. レーザー治療(低出力レーザー:LLLT)
- 軟部組織や関節への炎症抑制と血流促進を狙った治療法
- 海外では変形性膝関節症への補助療法として普及しているが、PFOAに対する効果は限定的でさらなる検討が必要
✅ 物理療法の選択と留意点
- 炎症期や強い疼痛がある場合は寒冷療法を中心に
- 痛みが軽減したら温熱療法や超音波で可動域と筋機能の回復を促進
- 電気刺激はVMOの選択的活性化を狙って位置と出力設定を調整することが重要
物理療法は補助的な位置づけであり、運動療法の効果を引き出すための前処置またはサポートとして活用することが推奨されます。単独での使用では長期的な効果は限定的であるため、理学療法士による個別プログラムとの併用が鍵となります。
🏋️ホームエクササイズ
膝蓋大腿関節症のセルフマネジメントでは、適切なホームエクササイズの継続が重要です。特に膝蓋骨の安定性と下肢アライメントの改善を目的として、以下のようなエクササイズが効果的とされています。
🔹 目的
- 内側広筋(VMO)と臀筋群の活性化によって膝蓋骨の追従性を改善
- 大腿四頭筋の強化により膝関節への負荷を分散
- 柔軟性改善により関節可動域と動作のスムーズさを向上
- 再発予防および日常生活の質(QOL)の向上
🔹 基本的なホームエクササイズ例
種類 | 方法 | 回数・時間 | ポイント |
---|---|---|---|
クワドセッティング(等尺性収縮) | 仰向けに寝て膝を伸ばし、膝裏を床に押しつける | 5秒 × 10回 × 2セット/日 | VMOの意識と左右差に注意 |
SLR(ストレートレッグレイズ) | 仰向けで膝を伸ばしたまま脚を20〜30度挙上 | 10回 × 2セット/日 | 腰が反らないよう骨盤を安定させる |
クラムシェル(股関節外旋) | 横向きに寝て膝を曲げ、上側の膝を開閉 | 10回 × 2セット/日 | 中臀筋の活性化を意識 |
ウォールスクワット(壁スクワット) | 背中を壁につけて膝を30度程度まで屈曲 | 10回 × 1~2セット/日 | 膝がつま先より前に出ない |
ヒールスライド(踵滑り運動) | 仰向けで膝を曲げ伸ばし | 10~15回 × 1~2セット/日 | 動かす範囲は痛みのない範囲で可 |
🔹 注意点とアドバイス
- 痛みが出る動作は無理に行わず中止すること
- 初期は毎日少量でも継続することが効果につながる
- 鏡やスマホの動画を使ってフォームを確認すると意識しやすい
- 可能であれば理学療法士のチェックを定期的に受けると安心
PFOAは長期的な運動継続によって改善が期待できる疾患です。痛みがない範囲で、「継続しやすい・生活に取り入れやすい」運動習慣の確立が鍵となります。
📚国家試験対策
膝蓋大腿関節症(patellofemoral osteoarthritis:PFOA)は、理学療法士・作業療法士の国家試験でも頻出テーマです。出題傾向を踏まえて、以下の項目を押さえておきましょう。
✅ 覚えておくべきポイント一覧
項目 | 内容 |
---|---|
関節名 | 膝蓋大腿関節(patellofemoral joint)=膝蓋骨と大腿骨滑車部の関節 |
病態の特徴 | 階段昇降・立ち上がり・しゃがみ動作で膝蓋部痛を訴えることが多い |
好発年齢・性差 | 中高年女性に多い(特に閉経後の女性で骨粗鬆症・筋力低下との関連) |
X線所見 | 膝蓋骨の変形・関節裂隙の狭小化・骨棘形成など |
MRI所見 | 軟骨の菲薄化・骨髄浮腫・滑膜炎など |
筋肉の関与 | 大腿四頭筋、特に内側広筋(VMO)の筋力低下との関連が重要 |
理学療法の目的 | 膝蓋骨の正中化、関節圧の軽減、疼痛緩和、QOL改善 |
鑑別疾患 | PFPS(膝蓋大腿痛症候群)、Osgood-Schlatter病、関節リウマチなど |
代表的な理学療法評価 | 膝蓋骨の可動性テスト、階段昇降時痛の確認、MMT、ROM測定 |
運動療法の例 | クワドセッティング、SLR、クラムシェル、壁スクワットなど |
✅ 国家試験過去問での出題例(例:第57回~)
問:膝蓋骨の外側偏位に関連しやすい筋はどれか。
選択肢:A. 内側広筋 B. 大腿二頭筋 C. 腸脛靭帯 D. 大腿直筋
→ 正解:A. 内側広筋
このように、筋力バランスと膝蓋骨のアライメントとの関係性に関する出題が目立ちます。
✅ 試験対策アドバイス
- 「膝蓋骨の追従性」「膝蓋大腿関節圧」「VMO」のキーワードはセットで理解
- 関節鏡視下手術後のリハビリテーション内容の時系列変化もチェック
- 他の膝疾患(TKA、半月板損傷、PFPS)との鑑別ポイントを整理
国家試験では、臨床場面に直結する出題が増えています。病態・評価・治療を患者像と関連づけて理解することが合格への近道です。
💡Q&A
ここでは、膝蓋大腿関節症に関してよくある質問をQ&A形式でまとめました。患者さんや家族、若手医療職が抱きやすい疑問に対して、やさしく・実践的に回答します。
Q1. 膝蓋大腿関節症と変形性膝関節症(OA)の違いは何ですか?
A.
膝関節は「大腿脛骨関節(TFJ)」と「膝蓋大腿関節(PFJ)」の2つで構成されています。
「変形性膝関節症(OA)」は一般的にTFJの変性を指すことが多く、「膝蓋大腿関節症(PFOA)」は膝蓋骨と大腿骨滑車部の間で変性が起きる疾患です。両者は併発することもありますが、痛みの部位や動作痛の特徴が異なります。
Q2. 階段の昇り降りがつらいのですが、どうしたらよいでしょうか?
A.
膝蓋骨が大腿骨に強く押しつけられるのが階段降段時や深くしゃがむ動作です。
痛みが強い時期は無理をせず、
- 手すりを使う
- 片脚ずつ段差を越える
- 膝を深く曲げすぎないように工夫する
といった対策が有効です。痛みの軽減と筋力維持のバランスを見ながらリハビリを進めましょう。
Q3. シップやサポーターは効果がありますか?
A.
シップは一時的な鎮痛効果が期待されますが、根本的な改善にはなりません。
サポーター(膝蓋支持型)については、膝蓋骨の外側偏位を抑える設計のものがあり、一部の方には有効です。ただし、長期間の依存は筋力低下を招く可能性もあるため、医師や理学療法士と相談して使用を検討しましょう。
Q4. PFOAは手術が必要な疾患ですか?
A.
ほとんどの場合、保存療法(運動療法や物理療法)での改善が期待できます。
ただし、軟骨の完全な摩耗や、歩行障害・強い痛みで日常生活に大きな支障が出ている場合は、人工膝蓋大腿関節置換術(PFA)やTKAが検討されることもあります。
手術の適応は慎重に評価されるため、専門医の判断が必要です。
📚最新ガイドライン
膝蓋大腿関節症(PFOA)に関する臨床指針は、近年、変形性膝関節症(KOA)全体のガイドラインに包括される形で整理されています。ここでは、日本および国際的な代表的ガイドラインのポイントを要約し、PFOAに特に関連の深い部分を解説します。
✅ 日本整形外科学会(JOA)変形性膝関節症ガイドライン(2020年改訂)
- 保存療法が第一選択
- 運動療法(大腿四頭筋訓練・ストレッチ)が基本
- 体重コントロールと膝関節にかかる負荷軽減を推奨
- 物理療法の併用が効果的
- 電気刺激や温熱療法による鎮痛効果の報告あり(推奨度:B)
- 薬物療法
- アセトアミノフェンが第一選択、必要に応じてNSAIDs(推奨度:A)
- サポーターや足底板などの装具療法
- 関節アライメントや荷重コントロールに寄与(推奨度:C1)
💡PFOAにもこの保存療法アプローチが基本方針として応用されます。膝蓋骨のアライメント改善、大腿四頭筋強化が中心です。
✅ OARSIガイドライン(2019年版)
※Osteoarthritis Research Society International
- パーソナライズされた運動療法を最重視
- 患者教育、減量、自己管理支援を併用
- サポーター使用、徒手療法、テーピングも補助的に有効
- グルコサミンやコンドロイチンの効果は明確ではない(推奨度:D)
💡OARSIは特に“患者の自律性”と“個別対応”の重要性を強調しています。膝蓋大腿関節症のような慢性疼痛疾患には適しています。
✅ NICEガイドライン(英国:2022年改訂)
- エクササイズが介入の第一選択
- 非薬物的介入(教育・支援・自己管理)を強く推奨
- 膝のアライメント異常に対する徒手療法+運動療法の併用も示唆
💡日本のガイドラインとの共通点は多く、「多職種連携」や「セルフマネジメント」が鍵となる点はPFOAでも同様です。
✅ 理学療法士への臨床的インプリケーション
- ガイドラインはいずれも**“個別性を重視した保存療法”が基本**
- 特に内側広筋の再教育、股関節外旋筋との協調運動がPFOAに有効
- 徒手的な膝蓋骨モビライゼーション+運動療法は併用が理想
📚書籍紹介
- 『改訂第2版 膝痛 知る 診る 治す』(宗田 大、メジカルビュー社)
- 『外来整形外科のための 運動器症候学の理学療法』(小関 博久、医歯薬出版株式会社)
- 『膝関節機能障害のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ) 』(石井慎一郎、羊土社)
- 『実践MOOK・理学療法プラクティス 膝・足関節障害』(嶋田 智明、大峯 三郎、杉原 敏道、文光堂)
- 『関節機能解剖学に基づく 整形外科運動療法ナビゲーション』(整形外科リハビリテーション学会、メジカルビュー社)
💡まとめ
膝蓋大腿関節症(PFOA)は、膝蓋骨と大腿骨の間に生じる変性疾患であり、膝蓋部の痛みや階段昇降時の不快感、正座困難など、日常生活に支障をきたす要因となります。
近年はMRIや関節鏡により診断精度が向上し、保存療法から手術療法までの選択肢も増えてきました。
記事内で解説したように、
- 大腿四頭筋の筋力低下(特に内側広筋)
- 膝蓋骨アライメント異常(外側偏位・傾斜)
- PFOA特有の画像所見や動作障害
- 個別性に応じた理学療法アプローチ
などを理解することで、患者に合わせた評価と治療方針の立案が可能になります。
💡 PFOAは単独病変だけでなく、脛骨大腿関節症(TFOA)との併発も多く、多面的な視点が必要です。
💡さいごに(注意喚起)
膝蓋大腿関節症は、その症状の出方や進行度が個人によって大きく異なる疾患です。
- 本記事の内容は、医療系学生・若手医療従事者向けの学習補助・臨床理解を深める目的で提供しています。
- 症状に心当たりがある方や治療を検討されている方は、必ず整形外科専門医や理学療法士などの専門職に相談してください。
- 記載された評価・治療はすべての患者に汎用的に適用できるものではありません。
🩺 正確な診断と治療方針の決定には、多角的評価と臨床判断が必要不可欠です。
📚参考文献
- 日本整形外科学会(2020). 変形性膝関節症診療ガイドライン2020. 医学書院.
- OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis (2019).
- NICE Clinical Guidelines (2022). Osteoarthritis: care and management in adults.
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